【越山若水】もう20年以上前のこと。米国の生物学者ジャレド・ダイアモンドさんの「銃・病原菌・鉄」(草思社)が発売され世界的なベストセラーとなった。この本でピュリツァー賞も受賞した▼悠久の人類史を簡単に言えば、文明や民族の衝突と盛衰の繰り返しである。その要因とは何か。同書は少人数のスペイン軍が南米のインカ帝国を征服した歴史を取り上げ考証する。それは英雄フランシスコ・ピサロの作戦勝ちでもなく、銃という武器の威力でもない▼実は、欧州で飼育していた家畜がもたらした病原菌のせいである。つまりスペイン人が持ち込んだ動物由来の感染症、具体的には天然痘や結核、はしかなどが致命的だった。一度罹患(りかん)すると抗体ができるが、全く免疫を持たない先住民はあっけなく死に追いやられた▼いま世界を席巻する病原菌がある。新型コロナウイルスだ。治療法もなく、無抵抗の人類には感染爆発の恐怖も消えない。日本でも収束に向け、学校の一斉休校やイベント中止が相次いでいる。きのうは春の甲子園・選抜高校野球が無観客で開催する方針を決定した▼夢の舞台に意気込んでいた球児には気の毒だが、大相撲やプロ野球、Jリーグなど多くの人気スポーツが苦渋の選択をしている。その先7月の東京五輪の開催を危ぶむ声さえある。スポーツという文明を食い荒らす病原菌に妙薬が見つかるといい。

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