氷川きよし『母』

 最近は、ロック系のアニソンや洋楽カバーなど、歌唱面でも話題の氷川きよしの2020年第1弾は、なかにし礼・作詞、杉本真人・作曲、若草恵・編曲と、ヒット作家陣が集結した勝負作だ。

 全体にピアノを基調とした演奏とメランコリックな曲調、そして氷川の寂し気な歌唱にて、母への感謝がひしひしと伝わってくる。しかし、後半「ああ 母ありてこそ」で力強い歌声や演奏に転じることで、過去を振り返るだけではなく、これからも母に恥じない生き方をするという決意を感じさせる。また、「生きていてください」と祈るように伸びる歌声が、全体の物語性を高めている。

 本作にはジャケットの異なる3種類があるが、それぞれに収録されたカップリング曲の作風も異なる。「Aタイプ」収録の『いつか会えますように』は、J-POP系の作家、Minnie P.による弦楽器を多用した美しいバラード。氷川のファルセット歌唱が繊細だ。「Bタイプ」収録の『東京ヨイトコ音頭2020』は、春夏秋冬の東京の魅力を歌った和やかな音頭で、こちらはハリのある明るい歌声が楽しめる。そして、「Cタイプ」収録の『おもいで酒場』は、身を引いたはずの女性の未練を歌った酒場モノ。アコーディオンやギターの音色が予定調和的で、氷川も存分にコブシを利かせている。

 いずれのタイプでも、彼の成長ぶりがよく分かる。特に『母』をじっくり聴けば、日常でも仕事でも、愛には愛で応えたいという意識がより強くなるはず。

(日本コロムビア・1227円+税)=臼井孝

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