醤油カツ丼のPR策を話し合う世界醤油カツ丼機構のメンバー=2月25日、福井県大野市泉町

 福井県大野市で「醤油カツ丼」が誕生して10年目を迎えた。2店舗から始まったローカルメニューは今や県内外70店舗以上で提供されているという。大野産醤油を使ったカツ丼は、愛知や東京、北海道など全国5都道県でもファンの胃袋をつかむ。タレを手掛ける醤油醸造元は市場規模が年1億円を超えるとみる。節目の年に「知名度を高めてさらに飛躍を」と、関係者は意気盛んだ。

 ■誘客のコンテンツ

 醤油カツ丼の開発は2010年11月。創業140年の醤油醸造元、野村醤油(日吉町)の野村明志社長(46)が県外の友人をソースカツ丼店に案内して「醤油カツ丼はないの」と聞かれたことでカツ丼専用醤油を商品化したのが始まり。

 醤油カツ丼の定義は、タレに福井県産醤油を使い、たっぷりと野菜を盛ること。各店舗が独自にメニュー化した結果、キャベツをはじめパプリカ、カイワレ大根、大葉と野菜はさまざま。トッピングもタルタルソース、温泉卵、大根おろしとバラエティーの豊かさが人気を後押しする。

 全国のグルメ雑誌やテレビでも取り上げられ、醤油カツ丼目当てに大野市に足を運ぶ人が増えていると関係者は手応えを話す。市商工観光振興課の上藤正純課長も「今やでっち羊羹(ようかん)やとんちゃんと並ぶ大野の食のコンテンツ。誘客の大きな力になっている」と断言する。

 ■食べ歩き向けも

 人気が高まるとともに、市内では変わり種も現れた。食事処「お清水」(泉町)が提供するのは、醤油カツ丼を食べ歩きスタイルに進化させた「巻いティーヤ醤油カツ」。カツとご飯をトウモロコシの粉をこねて薄く焼いたトルティーヤ生地で包んだ。

 ベーカリー「パナデリア」(元町)は、昨年3月からパンに豚カツや大根おろしを挟んだ「醤油カツバーガー」を販売。あっさりしていると、特に女性に支持されている。各店舗とも「醤油カツの人気がもっと高まって、観光客が増えるきっかけになれば」と口をそろえる。

 ■「SK」を世界に

 醤油カツ丼普及の中心的役割を担ってきたのが市内外の会社員や公務員、フードコーディネーターら20人でつくる「世界醤油カツ丼機構」だ。SNSでの情報発信や自作ポスターの制作のほか、醤油カツ丼を「SK」と呼び、「世界に広めよう」と訴えてきた。

 機構の活動がきっかけとなって、12年には大手コンビニが次々と醤油カツ丼弁当を販売。市内の学校給食のメニューに登場するまでになった。

 大野市職員で同機構事務局の久保康博さん(46)は「醤油カツ丼は県内の定番メニューになりつつある。ソース、卵とじ、ボルガライスがあるカツ丼王国福井に新しい味を広めることができた」と胸を張る。

 ■山口茜選手も好物

 野村社長は、醤油カツ丼の年間の市場規模は少なく見積もっても1億円以上と試算する。豚カツと野菜、しょうゆと調達しやすい食材を使ったことが普及につながったと分析。「認定制度などをあえて設けず、参入の敷居を下げたこともよかった」と話す。

 バドミントン女子シングルスの山口茜選手(福井県・勝山高出身)が醤油カツ丼好きを明言していることも追い風とみる。

 同機構は市内で2月25日夜、記念年を盛り上げようと「世界大会」を開催。野村社長ら6人は新たなPR策を練った。「タレを希望する店に対し、全国無料で提供する」「全国のグルメイベントに出展を」と会議は熱を帯びた。

 野村社長は「北陸新幹線敦賀開業が迫る中、醤油カツ丼が福井県全体の飲食店のにぎわいを生み、発祥地として大野にも注目が集まればいい」と話す。大野発のご当地グルメが、おろしそばやソースカツ丼を凌ぐ福井名物に成長する日は遠くないのかもしれない。

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