これはもう「匠の技」と言っていいだろう。本屋さんの本の並べ方だけでもこれほどの職人芸と裏技があったとは、長らく書店に通いながらまったく気づかなかった。

36年間、売り場で本を売り続けたスーパー書店員の著者に、出版社の営業部員がその秘術の数々を聞き出していく。例えば書棚から本を取り出しやすいよう本の背が棚から5ミリ出るよう揃える。平積みの本は隣同士で噛み合わないよう下敷き1枚が入る隙間を作る。同じ方向に積み上げると本が傾くので細かな法則性をもって天地を逆にする。この辺りは基本中の基本。

 書棚端の平台の平積み本の並べ方には順番がある。棚の本は左から右に流れるよう並べられ、お客も左から歩いてくると想定される。だから一番売れる本は最も目に止まる左端の手前に置く。左端と右端の列は棚前の平積みと関連する本を低く積んで見通しを確保する。お客を棚の奥に誘導するためだ。

 本の配置は新刊が毎日入ってくるから日々変わる。「この平台に並ぶのは今売れている本」と売り場の性格を明確に。しかも売れる直前の本を置き、「次に読むべきはこれか」とお客の無意識に訴えていくという。

注文、返品、ポップ、フェアと次々に明かされる熟練の技はスーパーやディスカウントストアにも応用できそうだ。一方でマニュアル化可能な作業はAIにもできるだろう。本書から受け継ぐべきは単に技術ではない。徹底的に顧客主体で考える姿勢、そして精魂傾けて売ろうとする情熱だ。

(本の雑誌社 1600円+税)=片岡義博

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