ドジャースとのワールドシリーズで、ベンチから試合を見守るアストロズのA・J・ヒンチ監督(右)とアレックス・コーラ氏=2017年10月、ヒューストン(ゲッティ=共同)

 メジャーリーグの各球団がスプリングトレーニングに入った。

 日本では「大谷翔平・二刀流再挑戦」といった報道が多いが、これだけではアメリカの空気を伝えることはできない。

 アメリカでは今、ヒューストン・アストロズの「サイン盗み」の話題で持ちきりである。

 2017年、アストロズは球団史上初めてワールドシリーズを制覇した。

 14年には51勝111敗というどん底の成績。そこからわずか3年で頂点に立ったのだから、球団経営者の手腕は大いにたたえられた。

 ところが昨年の暮れ、米スポーツメディア「ジ・アスレチック」が衝撃的な報道をした。

 17年のシーズンに、アストロズがセンターカメラからの映像をダグアウトで流して捕手のサインを解読、それをバットケースやゴミ箱を叩くことで、打者に球種を知らせていたというのである。

 この報道を受け、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは徹底的に調査することを宣言、今年の1月13日にはアストロズに対して最高額の罰金500万ドル(約5億5000万円)を科し、ジェフ・ルノーGMとA・Jヒンチ監督の今季活動停止などの処分を発表した。

 これを受け、球団はGMと監督を即座に解任したが、当時アストロズに在籍し、サイン盗みに関わっていたとされるボストン・レッドソックスのアレックス・コーラ監督、ニューヨーク・メッツの新監督に決まっていたカルロス・ベルトラン氏までが職を追われることになった。

 こうしてアストロズのサイン盗みは、一大スキャンダルに発展したのである。

 2月13日にはアストロズのオーナーをはじめとして、ダスティ・ベーカー新監督、主力のホセ・アルトゥーベとアレックス・ブレグマンが出席して謝罪会見が開かれたが、「心がこもっていない」という意見が大勢を占め、沈静化する気配はまったく見られない。

 特に17年のワールドシリーズで敗れたドジャースの選手は怒りを露わにし「タイトルは剥奪されるべきだ」「シーズンが始まって対戦することになったら、相手にぶつけることを考えてしまうかもしれない」という発言まで飛び出している。どうも穏やかではない。

 私の考えでは、サイン盗みによってどれほど実益があったかを証明するのは難しいため、タイトル剥奪までには至らないだろうとは思う。

 しかし、アメリカのスポーツの世界では、ことさら「公平性」を尊ぶ。「ずる」をしてまで勝つことは、決して許されることではなく、永遠に「汚れたタイトル」として野球史に刻まれることになる。

 当時、アストロズでプレーしていた選手たちは仲間からの尊敬を失い、今後の選手生活に多大な影響が出るだろう。

 今季は、アストロズの試合を見るのが気が重くなりそうだ。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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