【越山若水】江戸時代の有名な笑い話に「かば焼き」という小話がある。うなぎ屋から漂う香ばしい匂いをめぐって店主と通行人が火花を散らす筋書きで、落語の演題としても広く知られている▼うなぎ屋の店先を毎日、匂いをかぎながら通り過ぎる男がいた。大みそかの日、店の主人は男を呼び止めこう言い渡した。「毎日の匂い代、締めて6百文になります」。男も負けていない。懐から代金の銭を放り出すと、店主に言い返した。「音だけで十分だろう」▼落語では、けちん坊の男は匂いでご飯を食ったという。いずれにせよ、一度も店に入らないことに店主も腹が立ってきた。そこで匂い賃を請求する奇策に出た。だが男も知恵を働かせて対抗する。6百文分の「ジャラン」の音で済ます、それで五分五分―との算段だ▼笑い話だと思えば、どっちもどっちだと受け流せる。ところが国会の場となると、やはり事情が異なる。安倍晋三首相が先の衆院予算委で、野党の質問後に「意味のない質問だよ」とやじを飛ばした件である。野党のみならず、与党からも苦言を呈する声が出ている▼「タイは頭から腐る。上層部が腐敗していると残りも腐っていく」。いかにも相手を挑発するような発言だが、一国の宰相たる者、それに応酬する暴言を返すようではいけない。「売り言葉に買い言葉」。週明け、首相がどう弁明するか注目である。

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