【越山若水】「人は皆、明智光秀である」。数々の名言を残し、84歳で亡くなった野村克也さんが近刊「野村克也、明智光秀を語る」(プレジデント社)で結論として述べている▼挫折、苦悶(くもん)、光明、苦渋、貧困、抜擢(ばってき)、期待、羨望(せんぼう)、絶頂、さらに苦悩、最後に謀反、敗北という形で人生を終えた光秀。野村さんは「弱者」としての自分自身の人生と重なり合う部分が多いという▼田舎の極貧の母子家庭に育ち、テスト生としてプロ入りしたが芽が出ない。クビになりそうになるも、「南海電車に飛び込んで死にます」と訴えて選手生活を続けられ、人一倍努力を重ねた。やがて才能が開花。選手、監督として球史に残る足跡を残した▼信長、秀吉、家康らの勝者より敗者の光秀こそ「人生の教科書」であり、多くのことを学べる。野村さんが光秀にみたのは「弱者の流儀」であった。弱者であっても戦い方を間違わなければ十分に勝つチャンスがある。プロ野球も同じだ▼弱者であればおごらず謙虚に努力する。「球が速い」「遠くへ飛ばす」「足が速い」は天性の素質だが技術には限界がある。それを補う「感じる力」が大事という。例えば投手の打者への攻め方の小さな変化に気付くこと。野球の本質は準備にあり、考えることが重要なのに最近は幼稚な野球が目につくと嘆いていた野村さん。そのぼやきが聞かれなくなったのが寂しい。

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