【論説】海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が中東へ向け出航した。日本関係船舶の安全確保に向け情報収集を行うためだが、国会承認の必要がない防衛省設置法の「調査・研究」での長期の海外派遣は初めてであり、隊員らは不安を抱えての出航ではなかったか。

 不測の事態が起きた場合は、武器を使用できる海上警備行動を発令するものの、実施できる活動は限られているのが実情だ。そもそも、昨年12月末の閣議決定から出航までに情勢は激変しており、政府の検討と説明が尽くされたとは言い難い。米イランの全面衝突は回避されたが、なお緊張は解けないままだ。不測の事態への対処について、安倍晋三政権は責任を持てるというのか。

 日本は原油の約9割を中東に依存し、タンカーの安全確保は死活問題であることは理解できる。だが、今回の活動範囲は、危険性が指摘されているイラン沖のホルムズ海峡やペルシャ湾を対象外としており、真に役立つと思えない。

 与野党から特別措置法の制定を求める声が上がってるのも、不測の事態への備えが不十分だからだ。海上警備行動で保護できるのは日本籍船に限られ、日本人が乗る外国籍の船舶などの場合は、攻撃を仕掛けそうな船に接近したり、警告音を発したりするだけだ。日本関係船舶のうち日本籍船は約2割で関係船舶を守れない事態も想定される。

 政府はバーレーンの米軍司令部に連絡要員を送り、米軍などと情報を共有するとしている。ただ、親イラン勢力からは米軍と一体と見なされ、攻撃対象になる恐れも否めない。河野太郎防衛相は「自衛隊が武力紛争に巻き込まれる危険があるとは考えていない」と国会で答弁している。なぜそう言えるのか疑問だ。現に護衛艦などが展開する海域に近いイエメンでは最新の武装品を持った親イラン勢力が台頭しているという。

 「自国の船は自分で守るべきだ」というトランプ米大統領の要求に応えるための「派遣ありき」の対応だろう。だが、今の緊張状態をもたらしたのはイラン核合意から離脱したり、革命防衛隊の司令官を殺害したりしたトランプ氏だということを忘れてはならない。

 政府は今回の派遣では国会報告を義務付けたが、閣議決定文書の配布をもって「報告」としたことは国会軽視にほかならない。原油の9割依存を理由にした点も、「資源外交の多角化、戦略的な展開」を掲げたエネルギー基本計画からいえば怠慢のそしりを免れない。閣議決定には「中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けたさらなる外交努力」に取り組むとしている。その努力に徹することこそが求められている。

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