【越山若水】「福井は京都と加賀百万石に挟まれ目立たないし、目立つものもない。ないことがかえって自由にさせてくれ、(福井人は)自分の好きなことをやろうとする」―。きのう69歳で亡くなった福井市出身の直木賞作家藤田宜永さんは、昨年放送されたラジオ番組で語っていた▼自由な生き方にこだわった藤田さん。だが、完璧でないと褒めてくれない母親との確執から、福井の中学を出ると東京の高校に進学した。親から逃れるように上京し、女性を追い求める日々を自伝的小説「愛さずにはいられない」に描いた▼早稲田大を中退し、パリへ。帰国後、小説家の道を歩み、冒険小説などで頭角を表し、恋愛小説で直木賞を受賞した。ストーリー展開は「見切り発車」。書き出しから結末まで無数の線を引き、自由に物語を紡ぐのが藤田流だった▼長野県軽井沢町に住んで創作を続けつつ、「古里とは上手に付き合えれば」と、福井との関係も大切にした。福井の地酒や福井弁が登場する作品もあり、一昨年出版した「彼女の恐喝」では、主人公の女子大生を福井出身とした。福井のソースかつ丼やおろしそばが大好物だった▼福井県ふるさと文学館に、5年前の開館記念式典に出席した藤田さんが書いた色紙がある。「小説を読むには時間がかかります。その長い旅を愉(たの)しんでほしいですね」。その言葉と作品を改めて味わいたい。

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