【論説】新型コロナウイルスによる肺炎の感染が急速に拡大している。中国政府によると、28日現在、中国本土の感染者は5千人に迫り、死者は100人を超えた。2日前の倍に達している。中国以外での感染者も日本を含むアジアや米国、欧州など17カ国・地域で計70人に上っており、世界的な封じ込めが急務といえる。

 日本国内でこれまで感染が確認された4人は、いずれも最初の発生地である中国・武漢市に滞在歴があったり、在住したりする男女だった。ただ、28日には新たに3例の感染者が確認され、1人は奈良県在住の60代男性で、武漢市からのツアー客を乗せたバスの運転手という。国内でうつった可能性があり、確認されれば、国内で人から人に感染した初の事例となる。

 日本政府は新型肺炎を感染法上の「指定感染症」とすることを閣議決定した。2月7日の政令施行後、法に基づき患者の強制的な入院や就業制限が可能になる。国内でのさらなる二次感染、三次感染を防ぐことが今後の焦点である以上、指定は妥当であり、政府には感染の拡大阻止へ万全を期すよう望みたい。一方で、強制力の行使には人権への配慮も欠かせない。

 中国当局が「感染力がやや増強している」「潜伏期間に感染する可能性もある」との見方を示したことも気がかりだ。中国メディアによると、武漢市長が26日夜の記者会見で「春節(旧正月)や新型肺炎の要因で500万人ぐらいが武漢を離れた」と述べていることも懸念材料だろう。

 29日には武漢市に滞在する邦人約200人が羽田空港に帰国する。チャーター機には医師や看護師、検疫官が乗り込み、せきや熱などの症状が出ていないか確認するという。潜伏期間を考えれば、その後のフォローは欠かせない。体調に異変を感じた人が、躊躇(ちゅうちょ)することなく相談や受診できる風潮づくりも不可欠だ。患者や流行地からの帰国者が差別的扱いをされるようなことはあってはならない。

 中国政府が海外への団体旅行を禁止したことを受け、日本ツアーの予約キャンセルが相次いでいる。訪日外国人に依存する観光地への深刻な影響が懸念されるが、今は国民の健康と命を守ることが最優先だろう。個人旅行客の出国にどう対応するかなど、中国政府は世界保健機関(WHO)や各国との連携を密に対策を講じる必要がある。

 日本では今夏、東京五輪・パラリンピックが開催される。2016年リオデジャネイロではジカ熱、18年韓国・平昌(ピョンチャン)ではノロウイルスなど、感染症は過去の五輪でも影を落としてきた。新型肺炎が流行すれば五輪開催も危うくなりかねず、正念場と受け止めたい。

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