【越山若水】「料理レシピ本大賞inJapan」というタイトルで書籍の賞選考があった。立ち寄った書店で平積みされていた受賞作の本の帯で知った▼特別選考委員賞は福井市在住の小説家宮下奈都さんの「とりあえずウミガメのスープを仕込もう。」(扶桑社)だった。レシピ本ではなく食にまつわる短編エッセーである。「沁(し)みるエッセイ。まるでおかずにだしが染み込むみたい」。選考委員の感想通り秀逸だ▼食に絞った文学作品を集めた企画展「文学の食卓展」が県ふるさと文学館で開催されている。明治期の「食道楽」は報知新聞の編集長だった村井弦斎が新聞小説として1903年に1年間連載、春夏秋冬4巻の単行本が順次刊行された。村井の生まれ故郷、愛知県豊橋市の図書館所蔵の「増補注釈食道楽」が展示されている▼当時は10万部を超え尾崎紅葉、幸田露伴、坪内逍遙(しょうよう)、森鴎外の文豪4人合わせても数十分の一に過ぎなかったとか。夏目漱石の短編「琴のそら音」にも登場しているほどだ。今日では岩波文庫に収まる▼「智育よりも体育よりも一番大切な食育の事を研究しないのは迂闊(うかつ)の至りだ」と村井は食育論も展開。食育の祖とされる福井出身の医師、石塚左玄の専門書を参照にしていたと、文庫の解説で作家だった黒岩比佐子さんは指摘。「男子厨房(ちゅうぼう)に入らず」とされていた時代。その先見性には脱帽だ。

関連記事