【越山若水】寒いのが当たり前の冬に、ふと暖かい日が訪れホッとすることがある。そんな陽気を俳句の季語では「冬温(ぬく)し」「冬暖か」と呼ぶ。「冬ぬくきことなど話し初対面 今橋眞理子」▼暖冬のようにシーズンを通して気温が高いわけでなく、あくまで一時的な現象を指すらしい。ただ年末に福井市で初雪を観測しながら、今なお積雪ゼロの状況が続くと、まさに「冬温し」の気分。出会った人との挨拶(あいさつ)でも前句のような光景が繰り返されると想像する▼そこで交わされる会話は、恐らくこんな内容だろう。「これだけ雪が降らないと、逆に不気味だね」「反動でこの先、ドカ雪が来ないか心配だよ」。年配の2人の脳裏をよぎるのは、県内を襲った1963年の三八豪雪、81年の五六豪雪の忌まわしい記憶に違いない▼中でも三八豪雪は、前年12月末から2月初めに寒波が次々と押し寄せ記録的な大雪となった。福井市では1月24日に63センチの降雪があり、同31日には最深積雪が史上最高の213センチに達した。勝山市横倉や美山町芦見(現福井市)の雪崩発生などで死者は31人を数えた▼もちろん暖冬の弊害も少なくないが、白魔の威力と人の無力を知る身としては、このまま穏便に「水温(ぬる)む」時候を迎えれば…というのが正直なところ。「橋の上に立てば古里水温む」。みちのく岩手県出身、山口青邨(せいそん)の作句である。立春まであと10日。

関連記事