トヨタ自動車戦の前半、突進するパナソニックの福岡堅樹=豊田スタジアム

  1月18日、豊田スタジアムで行われたラグビーのトップリーグ、トヨタ自動車対パナソニックの試合を取材するため、名古屋市中心部にある伏見駅から地下鉄に乗り込む。

 競技場がある豊田市駅までは45分ほど。隣に座った女性二人がこんな会話を交わしていた。

 「混んでるね」「みんな、ラグビーに行くのかしら?」

 その通りだった。名古屋市内から乗ったほとんどの人たちは、そのまま終点の豊田市駅まで乗っていた。いやはや、ラグビー人気は衰えることを知らない。

 この日、豊田スタジアムに集まったファンは3万7050人。トップリーグの観客動員の新記録である。

 集まった観客は、当然のことながら地元のトヨタ自動車のファンが多かった。

 チームの顔ぶれは豪華だ。チームディレクターにはワールドカップ(W杯)でオールブラックスの指揮官を務めたスティーブ・ハンセンが就任し、メンバーには「ジャッカル」が代名詞になった姫野和樹、ナンバー8にオールブラックスの主将だったキアラン・リード、フルバックには南アフリカの優勝メンバーであるウィリー・ルルーが顔をそろえた。いずれも世界の「顔」だ。

 トヨタ自動車は前半こそ13対7とリードしたものの、後半はパナソニックの一方的な展開となる。最終スコアは40対20でパナソニックが勝った。

 ラグビーの不思議なところは、世界的な選手が加入したとしても、チームの方向性が定まらない限り、個々の力を最大限には引き出せないということだ。ラグビーにおいては、個人技は限界がある。

 しかしこの日、一番観衆を沸かせたのは、パナソニックの日本代表ウイング福岡堅樹の個人技だった。

 W杯で神がかった活躍を見せた福岡にボールが渡ると、トヨタ自動車のファンからも声が漏れる。

 狭いスペースを個人技で打開するテクニック、そしてスピードはいわゆる「にわかファン」にとっても、分かりやすい「すごさ」だった。

 福岡は東京オリンピックの7人制にチャレンジするため、15人制のプレーはこの日で最後。

 後半37分には、相手のパスミスからこぼれたボールを拾ってトライ。トライを取り切るあたりが「スター」の資質なのだろう。

 試合後の記者会見では「まず、7人制で代表に選ばれるようにしないと」と話しつつ、15人制と7人制の違いについてこう述べた。

 「15人制に関しては、ウイングであってもフィジカルの部分が求められます。しっかりとボールをキープする、またはジャッカルのスキルも必要になってくるので、当たり負けない体というものが必要になります」

 それが7人制になると、どう変化するのか。

 「どちらかというとよりスピード、走る方に特化します。より広いスペースを与えられたなかで勝負していく、そのなかで何度も何度もトップスピードを出せる体である必要があると思いますし、より走れる体にシフトしていけたらいいかなと思っています」

 7人制は、福岡の卓越した個人技がさらに光る可能性を秘める。

 7人制ラグビーは、オリンピック競技のなかでは歴史も浅く、注目度がまだまだ低いが、福岡の存在が一気に流れを変えるかもしれない。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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