【越山若水】小浜市にはかつて、平安時代後期につくられた国宝級の絵巻物があった。「吉備大臣入唐(にっとう)絵巻」である。主人公は奈良時代の遣唐使の一人だった吉備真備(きびのまきび)だ▼その真備の名がクローズアップされる発見が中国であった。本人が書いたとみられる墓誌が見つかったのだ。外国使節の接待などを担った唐の官僚の墓石に刻まれ、文章を中国人が考案し、末尾に「日本国朝臣備書」と記したのが真備と判断された。真備の直接史料は乏しい上、当時の日中関係もうかがえる貴重な発見だった▼絵巻に描かれた真備は唐の帝王に幽閉され数々の難題を押しつけられるが、阿倍仲麻呂の助けを借りながら切り抜ける。史実とは関係ないが超人的な活躍ぶりが後世にまで伝わっていたのだろうか。県立若狭歴史博物館に近世後期の模写本がある▼原本は若狭国松永庄(現在の小浜市松永・遠敷地区)の新八幡宮に「伴大納言絵巻」(国宝)などとともに伝来した。一時明通寺の寺宝となったが若狭国主木下勝俊が召し上げ、さらに豪商や小浜藩主酒井家を経て昭和になり米ボストン美術館が購入した。国宝級の美術品の海外流出が問題となり、法律が整備された▼それにしても、後白河法皇が都で描かせたとみられる絵巻がなぜ新八幡宮に伝わり、現存しない新八幡宮がどこにあったのかは謎だ。真備の筆跡のように新史料の発見に期待したい。

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