【論説】「全世代型社会保障」の実現を2020年の「最大のチャレンジ」と位置付ける安倍晋三首相。最初のハードルは団塊世代全員が75歳以上となる25年だ。前段として同世代が75歳になり始める22年に備え、政府が着手するのが全世代型社会保障であり、検討会議が6月ごろにまとめる最終報告が当面の焦点となる。ただ、昨年末の中間報告をみると、加速する高齢化への備えが十分とは言い難い。

 75歳以上が医療機関の窓口で支払う自己負担割合に関しては、現行の原則1割から一定の所得がある人を対象に2割に引き上げる方向を明記した。最終報告に向け2割負担とする所得の線引きなど制度の詳細を詰めるとしているが、消費税増税に加え2割負担となれば「選挙で立っていられない」などと与党内からも反発の声が上がり、実現するかは見通せない。

 中間報告では、パートなど非正規で働く人の厚生年金加入を促すため、対象となる企業規模を22年10月に従業員101人以上、24年10月に51人以上に引き下げると明記した。加えて、高齢者が70歳まで働けるよう就業機会の確保を企業の努力義務にすることや、公的年金の受給開始年齢を75歳まで延ばせるようにする方針も示した。これらは女性や高齢者にもっと働いてもらい、社会保障の「支え手」を増やす狙いがある。

 一方で、厚生年金の対象拡大には保険料を折半する企業側の負担増につながり、とりわけ体力の乏しい中小企業にとっては死活問題となりかねない。高齢者の就業機会を確保することで、若い世代の待遇を低下させる企業が相次ぐとの指摘もある。子育て中の女性や高齢者にも無理なく働いてもらうための働き方改革も一層進める必要がある。

 政府の推計では医療や年金、介護などにかかる社会保障費は団塊世代が75歳以上となる25年度には約140兆円、その先の団塊ジュニア世代が65歳以上になり日本の高齢化がピークを迎える40年には約190兆円に膨らむとしている。

 新たな財源の確保や大胆な負担見直しの議論は避けて通れないはずだが、「痛み」を伴う改革には、さまざまな利害が絡み合うため、合意形成は簡単ではない。25年度に向けた対策でさえ、骨抜きになりかねず、ましてや40年度に向けた政策立案は小手先でしのげるものではない。

 それなのに、安倍首相の増税論議の封印により、検討会議は制度改革の範囲内での議論に終始した格好だ。現役世代に負担が偏ったままでは少子化に拍車を掛けることになる。財源論を含めた世代間の負担バランスの再構築に向けて、より一層踏み込んだ改革が求められている。

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