【論説】惑星間の有人飛行を視野に、米航空宇宙企業・スペースXが大型宇宙船「スターシップ」の開発を進めている。当面は無人での試験飛行が目標。安易に実現間近とは言えない高度な技術を要するものの、SF映画の「夢物語」が現実味を帯びてきたかと胸の高鳴りを感じる。

 計画では人類が火星や月に移住する日を見据え、繰り返し使える100人乗り大型宇宙船を巨大ロケットで打ち上げる。スペースXの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏が約7年前に火星への移住構想を掲げ、その後100万人が暮らせる居住基地を建設するアイデアに発展した。小惑星の衝突などで人類が滅びてしまうとの懸念を背景に生み出されたものだが、その大胆な発想には驚かされる。

 最新技術への期待は大きいが、簡単に物事が運ぶ分野でないことは数々の失敗と格闘してきた宇宙開発の歴史が物語っている。昨年12月には米航空宇宙大手ボーイングが新型有人宇宙船「スターライナー」を試験のため無人で打ち上げたが、ロケットから分離後にエンジン制御の不具合が発生。ドッキングを予定した国際宇宙ステーションに到達できず飛行は失敗した。

 この宇宙船はステーションに長期滞在予定の日本人飛行士野口聡一さんが搭乗する候補の一つだが、今回の失敗で先行きが不透明となったのは残念だ。ただ、開発を委託した米航空宇宙局(NASA)の幹部は次の飛行について「飛行士の搭乗を排除しない」と述べている。

 先のスターシップ計画も必ずしも順風満帆に進むとの保証はないが、意欲的な挑戦は続いている。追い求めているのは「星々の間の世界に人類の文明圏を広げる未来」(マスク氏)。私たちにとって縁遠い印象があるが、実は身近に捉えられる機会もある。

 昨年行われた県内中学生の米国研修がその一例。宇宙開発の最先端を学ぼうと、10人がNASAのケネディ宇宙センターなどを見学した。バスでスペースXのビルの近くを通り掛かると、生徒たちは羨望(せんぼう)のまなざしを向けた。宇宙産業に携わる人々の情熱にも触れ、宇宙への夢がさらに膨らんだようだ。

 このような若者の夢も載せて飛び立とうとしている開発計画だが、スターライナーの失敗を見るまでもなく最優先とすべきは安全な飛行を担保すること。高水準の安全性確立が宇宙開発の絶対条件であることを改めて認識し、大きな夢をかなえてほしい。

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