特殊詐欺被害に遭った女性(手前)と息子。2人とも「だまされた自分たちも悪い」と自らを責めた=福井県内

 「自分がしっかりしていれば。被害に遭ったなんて恥ずかしくて誰にも言えない」

 2019年3月、特殊詐欺グループの「受け子」の男にキャッシュカードをすり替えられ、現金50万円を引き出された福井県の70代女性は、だまされてしまった自分を責めた。

 収入は年金のみで医療・介護費もかさむ。50万円は、嫁いだときに母親からもらった大切なお金と年金を少しずつためたものだった。

⇒【特集】詐欺グループの実態迫る「受け子その大罪」

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 「捕まえた犯人が持っていた名簿にあなたの名前が載っている。同じ地域で何人も被害に遭っている」。警察官を装った男は、電話でこう切り出した。

 「金融機関の者が封筒を持って家に行くので、待っていてほしい。封筒にキャッシュカードを入れて大切に保管してください」と男。通報されるのを防ぐためだったのか「電話は切らないで」と何度も念を押された。

 内容はよく理解できなかったが、言われるまま、電話を切らずに玄関で「金融機関」の訪問を待った。その間、カードの暗証番号を「孫の誕生日」と教え自宅の特徴や表札も伝えた。「いつ来るんですかね」「もう近くにいます」

 白シャツの「受け子」の20代の男が玄関に現れた。男は一言もしゃべらなかった。指示はつないだままの電話越し。「封筒にカードを入れ、割り印をしてほしい」。女性は指示通り、印鑑を取りに室内へ向かった。その隙に偽のカードが入った封筒とすり替えられていた。気付かないまま割り印を押し、そして、指示通り小物入れの引き出しに大切に保管した。

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 被害に気付いたのは約1週間後。警察から「キャッシュカードが使われている」と連絡があった。その後、玄関に現れた受け子の男が県内で逮捕されたことを知った。

 女性は40代の息子と2人暮らし。普段から息子に「不審な電話には出るな」と注意されていたが、カードを盗まれたという認識は全くなかった。

 50万円は女性にとって大金。「体も弱ってきた。手すりを付けるトイレの改修などに充てたかったのに…」。特殊詐欺の魔の手にかかったことに肩を落とす。

 11月29日、新聞で「電話をかける『かけ子』など犯行グループの拠点がフィリピンにあった」と報道された。息子は記事を読み「私たちの50万円もフィリピンまで持っていかれたかも。首謀者らが捕まらないと被害は続く。何とか捕まえてグループを壊滅させてほしい」と思いを強くした。

 「受け子は雇われの身だろうが、特殊詐欺グループは本当にずる賢い。もっと真面目なことに頭を使うべきだ」。同時に「母からカードを全て預かっていれば良かった。被害に遭ったのは、自分らの落ち度、ふがいなさのせい。自己防衛できなかった方も悪い」とも語る。被害が分かって以降、母親と同じく、自責の念に駆られている。

 被害は親戚にも近所にも明かせぬまま。二人だけの、秘密になっている。

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