【越山若水】カニツーリズムの体現者と自認する広尾克子さんが「カニという道楽 ズワイガニと日本人」(西日本出版社)でカニの文化史をはじめ、興味深いうんちくを語っている▼越前がにを取り上げ、そのブランド力の認知には発信力のある作家、開高健の存在が大きいと指摘する。開高が著作の「孔雀(くじゃく)の舌」に収録される「越前ガニ」で、「さながら海の宝石箱」と評したことは有名だ▼その一文を引用し「現在でも東京ではズワイガニのことを越前ガニと呼ぶ人が多く、いわば国産ズワイガニの通称になっている」と紹介した上で、開高がひいきにした越前町の旅館で名物となっている「開高丼」も人気を高めることにつながったという▼福井人にとっては忘れることができない開高は昨年の没後30年に続き、今年は生誕90年。芥川賞作家でありながら、ベトナム戦争の最中、戦地に入り著作にした。熱心な釣り師、食通としても知られ食、酒のエッセーなど多彩だった。今もファンは多い▼1964年の東京五輪。オリンピック前夜の東京をくまなく歩きルポ。週刊誌に連載され「ずばり東京」(光文社文庫)として残る。当時の東京と地方をこうまとめている。「東京には中心がない。この都は多頭多足である」「ありとあらゆるものがここに渦巻いている。ここで思いつかれ、編みだされた知恵と工夫と狡知(こうち)が地方を支配する」

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