受け子の男は福井県内の駅を乗り降りし、高齢者宅を狙っていた(写真と本文は関係ありません)

 受け子の20代の男が、封筒をすり替えて盗んだキャッシュカードで現金自動預払機(ATM)から現金を引き出すと、必ず向かったのは公園の公衆トイレ。「回収役」に現金を渡すためだった。

⇒【特集】詐欺グループの実態迫る「受け子その大罪」

 トイレに入ると、必ず個室が閉まっている。「コンコンコン」。男が3回ノックし、中から「コンコンコン」と3回返ってきたら、個室のドアの上から手渡すのがルール。札束を茶封筒に、キャッシュカードを菓子箱に入れ、最後にこの二つをビニール袋に入れて渡す。男も相手も無言を貫いた。

 詐欺グループ内では、メンバーの素性がばれないよう徹底される。メンバーの顔は一度も見たことがなかった。男女すら分からない。

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 トイレで現金を受け渡す一方、週1回、交通費として現金が手渡された。男はビジネスホテルを転々としながら生活した。「犯行以外はやることがなく暇だった」。ストレス発散も兼ね、余った交通費は遊興費に使った。土日は恋人に会うため自宅アパートに帰った。「営業の仕事をしている」とごまかしていた。

 東京、千葉、福岡、熊本、愛知、岐阜、石川、そして福井。初めての犯行から逮捕までの1カ月近く、新幹線や特急、飛行機で全国行脚した。盗んだキャッシュカードは約30枚。利用停止になるなどATMで使えなかったキャッシュカードは各地の川や道路の側溝に捨てた。それでもATMで引き出せた額は50回で約2千万円に上った。報酬は引き出した額の8%。1カ月で約160万円を手にする計算だ。

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 昨秋、キャッシュカードをだまし取ろうとする不審電話が石川県内で多数確認された。このとき、男は石川県内の80代男性宅を訪問し、キャッシュカードを盗んでいた。翌日、岐阜市内のATMで約70万円を引き出した後、電車でJR福井駅へ来た。

 指示役からは「次は○○駅に向かってください」と、連絡が次々に来る。最初に降りたJR春江駅前は、時間をつぶせる喫茶店やファミレスがなかった。「田舎だな」。1キロ以上歩いてファミレスに入り、スマホで動画やネットを見て暇をつぶした。

 春江駅からJR福井駅に戻り、福井鉄道福武線の福井駅、仁愛女子高校駅、田原町駅、西鯖江駅、越前武生駅、JR武生駅と、計8駅を丸1日掛けて乗り降りした。

 この間、男が巡った先の住宅では詐欺の不審電話が相次いでいた。「福井県が狙われている。受け子を捕まえ、被害を防がねば」。福井県警は電話の多発状況をメール配信「リュウピーネット」で注意喚起した。

 そして、捜査が動きだした。

⇒【前回】「カチコミ」と脅され、抜けられず【受け子の実態】

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