【論説】1日付の論説で、今年もこの人に振り回されかねないことに触れたが、年明け早々に世界を震撼(しんかん)させる事態を引き起こしている。

 米軍によるイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害で、米イラン両国は一触即発の危機に陥っている。殺害を指示したのはトランプ米大統領だ。11月の大統領選を意識して「強さ」をアピールする狙いなのだろうが、理性的判断ができているのか懸念が拭えない。

 司令官の殺害は、イラクでの米国人に対する攻撃への対抗措置として、米軍が用意した作戦の中でも「最も極端な選択肢」だったとされる。トランプ氏は一度は却下したが、デモ隊によるバグダッドの米大使館襲撃を受け急きょ承認した。米軍側は承認されるとは予想していなかったとされ、政権内でも殺害に懐疑的な見方があるという。

 イランで「国民的英雄」として尊敬されていたソレイマニ司令官。殺害すれば、強い反発や中東の混乱、石油価格の高騰など、さまざまな影響が出ることを米政権が十分に検討したとは思えない。ポンペオ国務長官やエスパー国防長官ら側近が、感情に走りやすいトランプ氏の決定にどれほど異を唱えたのだろうか。「イエスマン」を集めた政権が抱える政策決定の欠陥を如実に示している。

 イランは米国への報復を宣言し、イラン核合意で制限されてきたウランの濃縮活動を無制限で行うと発表した。イラン軍に、イラクやレバノンなどの親イラン武装勢力を加えた報復攻撃の可能性も指摘されている。トランプ氏はイランが報復すれば、テヘランで1979年に起きた米大使館人質事件で人質になった人数に合わせた「52カ所」を示し攻撃を警告した。

 緊張の高まりは一昨年にトランプ氏がイラン核合意から一方的に離脱したことが発端だ。日本を含めた国際社会はイランに報復を慎むよう求めるとともに、トランプ氏のこれ以上の暴走を止め、衝突回避を促すべきだ。イラン政府は、5日の声明で、米国の制裁が解除されれば、核合意の義務を履行する用意があるとしている。トランプ氏も司令官の殺害直後には「われわれは戦争を求めていない。イランの体制転換も求めていない」と述べていた。

 安倍晋三首相は年頭記者会見で中東情勢を巡り「現状を深く憂慮している。全ての関係者に外交努力を尽くすことを求める」としたが、自身も真剣に取り組む必要がある。一方で、自衛隊の中東派遣方針に変更はないとした。だが、司令官殺害後の中東は次元の異なる軍事的緊張下にある。反米勢力から米軍と一体と見なされる恐れも否定できない。派遣の意義や危険性などを再検討すべきだ。

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