【越山若水】安土桃山時代末期から江戸初期に活躍した本県ゆかりの絵師、岩佐又兵衛のコレクション展がきょうから県立美術館で始まる。近年の江戸絵画ブームに乗り知名度が高まっており楽しみだ▼ブームの火付け役、けん引役を一貫して担ってきたのが美術史家で東大名誉教授の辻惟雄(つじのぶお)さんだ。1970年の「奇想の系譜」(美術出版社)が起点。当時は無名だった伊藤若冲(じゃくちゅう)、又兵衛ら6人を奇想という言葉で近世絵画史の傍流から主流の前衛にと再評価を促した▼「若いころから意識につきまとうテーマが又兵衛だった」辻さんは2008年「岩佐又兵衛 浮世絵をつくった男の謎」(文春新書)を出版。自らの又兵衛論を再構築し総決算と位置付けたほどの力の入れよう▼現在誰もが浮世絵の元祖と認める菱川師宣(ひしかわもろのぶ)との比較を試み、又兵衛を第1期、師宣を第2期の元祖とした。第1期はびょうぶ絵で発注者は武士や上層の町人、第2期は量産に適した版画で幅広い町人に愛好されるものに改めたと論じた。一人に限るとしたら「浮世又兵衛」とあだ名された又兵衛を創始者とするのが美術史の自然の流れと結論付けた▼昨年、辻さんに感化された作家の小室千鶴子さんが8年越しに「岩佐又兵衛 浮世絵をつくった男」(郁朋社)を出版。今年は没後370年にも当たり、元祖との評価が定着する元年となることを願ってやまない。

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