【越山若水】人にはなかなか忘れられない記憶がある。楽しく懐かしい思い出ならむしろ歓迎できるが、恐怖や不安、怒り、憎しみといった感覚は頭から離れず心を苦しめる面倒な存在となる▼「精神科医が教える 忘れる技術」(岡野憲一郎著、創元社)という本がある。表題の通り、思い出したくない記憶を消し去るにはどうするかを書いている。例えば、忘れたい刺激を遠ざける、怒りや欲求不満を何かにぶつけ発散する―など具体的に説明してくれる▼その中で強く印象に残った方法を紹介しよう。筆者も「すべてのケースに効果的」とお墨付きを与えるのが「人に話す=カウンセリングを受ける」である。なぜなら深刻な体験があった場合、その話に耳を傾け、つらかった気持ちに共感してくれる人の存在は大きい▼つまり「相談する」ことで、一人で抱えていた孤独感が癒やされ、勇気づけられ、先々も持ちこたえる力を得られるからだ。複数家族の介護に疲れ切った県内の女性、家庭内暴力に追い詰められた元農水事務次官…。悲惨な事件を思い返す度にその言葉が心に浮かぶ▼白川静さんの漢字辞典「常用字解」によると、「相」は木を目で見る形で生命力を盛んにし助ける意味。「談」は談笑のように、打ち解けて楽しく話し合うことを指す。何事でも、苦しみや悩みを抱え込まず「相談する」こと。その大切さを痛感する。

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