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 「環境の世紀」と叫ばれて久しい。昨年は物価高に始まり、世界同時不況が暮らしに追い打ちをかけている。福井の生活者はこれからの時代、どこに豊かさを見いだし生きていけばいいのか。生活の楽しみはどこに・・・。取材のキーワードは「e」。この“ふくe”を舞台に、「economy(節約)」で「ecology(エコ、環境)」な「e(いい)暮らし」を「enjoy(楽しく)」送っている生活の“達人”を追う。     (ふくeライフ取材班)



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2009年3月26日(木曜日)

先人の知恵に触れ 豊かな未来へ一歩

eライフプロジェクト開く
 

車座トーク

居間で連載に登場した人たちと、活発に意見を交わした「車座トーク」=鯖江市河和田町の丸山さん宅

 本紙連載「ふくeライフ」第2章「再利用術の巻」に登場した”暮らしの達人”らが集うプロジェクト「い〜ざ うららのふくeライフ」が22日、鯖江市河和田町の丸山敏子さん(80)宅で行われた。築百年以上の古民家で車座トークなどが開かれ、参加者がエコと節約を心掛けたいい暮らしについて語り合い、先人の知恵を生かした豊かな福井ライフとは何か―を考えた。
 
鯖江・河和田 連載登場者熱く語る
 
 連載は、昨年5月から「economy(節約)」「ecology(環境)」「enjoy(楽しむ)」の頭文字「e」をキーワードに計32回あり、持続可能な社会づくり、暮らしを福井で実践する方法を探ってきた。
 催しは連載を締めくくるに当たり、ふくeライフ取材班などが企画。連載に登場した、太陽熱を暖房に利用する寺杣(てらそま)督平さん(60)夫婦=敦賀市=や囲炉裏(いろり)のある古民家に住む南康夫さん(42)=南越前町=やその家族、知人ら総勢約40人が出席した。コーディネーターは、環境文化研究所の田中謙次さん(38)=越前市=が務めた。

丸山さん

蔵の中にあったみのを説明する丸山さん(左)

 参加者は、昔ながらに残された庭園や屋敷内を一巡。丸山さんの案内で、蔵に保存された民具を見学、そこに秘められた先人の知恵を一緒に考えた。玄関の太い梁(はり)にはブランコが取り付けられ、孫を遊ばせていたという。丸山さんは「この梁は昔、米俵をつるす収納庫の役割があった。何個ぶら下げても大丈夫なくらい頑丈。梁や柱を灰で磨くとすすもきれいに落ち、つやつやによみがえる」などと解説、参加者をうならせた。

ひな飾り

玄関に置かれたひな飾りは
空き瓶や空き缶を土台に作ったもの。作り方などを説明する丸山さん(左)

 車座トークでは、障子に白い布を掛けた簡易スクリーンを仕立て、これまで新聞に掲載した写真を投影。連載を振り返りながら、これからの暮らしのヒントを探った。
 福井市のレゲエ歌手、SING J ROYさん(34)によるエコライブもあり、夕食では、丸山さんら地元の人が作る素朴で温かい郷土料理が振る舞われた。フキノトウの酢みそあえ、麩(ふ)のからしあえ、納豆汁など10品がずらり。「ほんこ(報恩講)さんなどの行事があると、昔は必ず手作りの料理を振る舞った」という丸山さん。先人の知恵を受け継ぎ、手間暇をかけた懐かしくも味わい深い料理の数々に、参加者は舌鼓を打っていた。

郷土料理

 100年以上使われた漆器に昔ながらの温かい郷土料理が盛られた

 あわら市金津創作の森のガラス作家、高緑由美子さん(38)の作った器や丸山さん宅で100年以上使われてきた漆器が並び、料理とのコラボレーションを視覚でも楽しんだ。
 最後にコーディネーターの田中さんが「これを機に、今後も継続してふくeライフイベントを開いていけないか」と参加者に提案、今後は、それぞれが自主的な形で、ふくeライフのコンセプトを緩やかに県内に広げていくことを確認した。
 
石油頼らず/古い物大切に/直して使う 
“達人”の生活披露

 
 「悠久の歴史を刻む暮らしにこそ、真の豊かさがある」―。車座トークをはじめ、会場では連載に登場した”達人たち”から、それぞれの生活が意味するものについて、活発に持論が展開された。共通するのは、世の中が便利さやスピード、快適さを求める中で、現代人が置き忘れてきたもの、日本人が古来培ってきた暮らしへの深いまなざしだ。
  若狭塗箸(ばし)をマイ箸として使い、県内外で普及活動に努める山口ちとせさん(56)=越前市=は「切ったり混ぜたりと、箸が食物に合わせた使い方ができるのと同様、着物や日本家屋も、使う相手に柔軟に対応できる。これは相手に合わせる日本人の思いやりに通じるもの」と意見を述べた。
 南康夫さんは「古い物が美しく朽ちていく素晴らしさを理解するのが、これからの日本人に大事と感じる」。妻のさおりさんも「わが家の家具はいただきものが多い。だけどきれいにすれば、まだまだ使えるものばかり」と話した。
 太陽光発電、雨水タンクなど自宅を”エコ仕様”に仕上げて暮らす寺杣さんは「今後も、石油に頼らない暮らしを心掛けたい。丸山さん宅のブランコに感動したので、わが家の吹き抜けにも、子どもがロープで上り下りできるような仕掛けを作ってみたい」と今後のプランを述べた。
 連載に登場した人以外からも活発に意見がでた。鯖江市の久保田裕之さんは「本当に大事なことを当たり前のように伝えていく大切さを感じた。『当たり前』がこれからのキーワード」。地元河和田町の住民も「ペットボトルは五百円で売り、四百円で回収するなどすれば、回収率も今より上がるのでは」「本当にいいものは、メンテナンスが効く。河和田の漆器も、今直すことに力を入れているので、ぜひ直して使って」などと話していた。
 最後にふくeライフ取材班の山内孝紀デスクが「古き良き物に豊かさを見いだし、享受することこそが、持続可能な社会づくりの一歩。それを支えるのはやはり、手作りのたくましさ」と話していた。
 
「廃材楽器」でエコライブ
レゲエ歌手SING・J・ROYさん

 
 SING J ROYさんによるエコライブは、ガラスの端材や空き瓶を使った「廃材楽器」を参加者も使い、ステージと一体になって盛り上がった。J ROYさんは「僕たちは地球に住ませてもらっている存在。環境を守るため、僕ら若い世代から変わっていかないといけない」とのメッセージを込め、レゲエに触れたことがなかった年配の参加者も、歌詞の温かみに共感していた。

「廃材楽器」でライブ

丸山さん宅の2階で電気機材を使わず演奏し「若い世代から意識を変えていこう」と熱唱したSING J ROYさん(左から2人目)/p>

 ROYさんは古き良き物を尊重し、素朴に生きるジャマイカの人々を歌った「JAMAICA ISLAND」や、争いをなくしたいとの思いを込めた「NO MORE WAR」などの持ち歌を披露。福井弁や福井の風物を歌詞にちりばめたヒット曲「ほやほや」を歌うと、会場は一段と盛り上がった。友情出演した岐阜県のレゲエ歌手、G2さん(26)も岐阜弁の曲「やんやん」や、母親への感謝の気持ちをつづった「Letter―おかんに贈る音の手紙」などの持ち歌を歌った。
 ライブの締めくくりには、J ROYさんが連載のテーマソングとして提供してくれた新曲「もったいない」をG2さんと披露。「捨てるにはまだ早い 感謝を忘れない」「俺(おれ)たちの手で変える未来 大切にしよういつまでも」と、熱のこもった歌声を響かせた。
 参加者もガラスの端材を空き瓶やペットボトルに入れ、廃材楽器を即興で手作り。2人の歌に合わせてマラカスやハンドベルのような音色を奏で、リズムに乗って歌を楽しんでいた。
 廃材楽器を提案した高緑さんは「端材は本来捨てられる運命。こんなふうに使ってもらい、ガラスも喜ぶと思う」と笑顔だった。
 
古新聞は“アート”に
福井大・武井さん活用策を提案

 
 「再利用術」を掲げるからには、読み終わった古新聞の活用も探れないか―。取材班はそんな発想から、県内外の展覧会に出品する新鋭の造形作家、武井文(あや)さん(24)=福井大大学院=に再利用の研究を依頼した。若い感性を生かして作った作品は、当日の会場で披露された。
 1回目の打ち合わせのとき、武井さんはランプシェードや脅迫状風レターセット、オブジェなどいくつかアイデアを提案してくれた。その中で取材班の興味を引いたのは、新聞の見出しや写真を使って、自分の写真をはめ込んだコラージュ。

古新聞でアート

古紙を利用したコラージュを披露した武井文さん=福井市の福井大

 「新聞って、手で触れて、指でめくり、気になる記事はスクラップできるとても身近な存在。それに、福井新聞のような地方紙は、どんな人でも主役になれる。その二つの特性を形にした」と武井さん。早速作ってもらった。
 作り方は簡単。野球、サッカー、バレーボールなど、お気に入りのスポーツ記事の写真を切り抜き、さらに顔の部分を丸く切り抜いて、そこに自分の顔が写った写真をはめ込む。市販のフォトフレームに入れれば完成。さらに「気に入った見出しや言葉も紙面から切り抜いて添えれば、もっと楽しく面白い作品に仕上がる」と話す。
 会場では、新聞の新しい活用方法が来場者の注目を集めていた。

2009年3月19日(木曜日)

 (18) 【シリーズ・古民家考】 

 
屋根の中に“歴史”あり
 今や珍しい存在となった茅葺(かやぶ)きの家だが、県内の山間部では板取の保存地区以外にも相当数残っているようだ。とはいえ、実生活に使われている多くは、屋根の上を鉄板やトタンで覆うなどして、以前の姿をとどめていない。もはや葺き替えができないまま建て替えを待つばかり、というのが現状。屋根の中には、世界遺産の白川郷や五箇山にも見られる建築の意匠が、数々残されているのだが…。南越前町の奥深く、日野川源流の集落を訪ねてみた。(ふくeライフ取材班)
 
消えゆく茅葺き、合掌造り
(日野川源流の集落)
築140年 明治の遺産 継承は難しく…
 
 日野川の支流、田倉川最上流にある杉谷区。ここで今、一つの茅葺き民家が姿を消しつつある。了源宣誉さん(90)宅。3年前の大雪で茅が大きく傷み、もはや修復は不可能と判断した。

茅葺き屋根の内部

昭和のそのままの姿で残る石渡さん方の茅葺き屋根の内部=南越前町杉谷

 妻八代イさん(80)と2人暮らしの了源さんは、町外にいる子どもたちの手を借りながら、少しずつ解体を進めている。「危ないから屋根には上がらんと、業者さんに任そうやと言っても『うらがやる』と言って聞いてくれん」と八代イさん。腰の曲がった夫が黙々と資材を運ぶ姿が心配なのだという。
 1870(明治3)年、集落を襲った大火の後に建てられた。築140年近くになるが、骨組みは頑丈で、ワイヤで引っ張って壊そうとしても、びくともしない。今は別棟に住むが、見るたびに住み慣れた家を思い出す。「冬は寒いんや。ほやけど、夏は大汗かいて帰ってきても、玄関に入る風が涼しいんで、気持ちよかったんや」と八代イさんは懐かしむ。
 24戸ある杉谷集落。実は了源さん宅の横にもう1戸、茅葺きが残っている。石渡啓一さん(70)宅。同じく明治の大火の後建てられた。10年、20年おきに葺き替えてきたが、56豪雪で茅が一部壊れたのを機に、屋根の表面は鉄やアルミ板で覆うようになった。
 「昔は山に茅田があって、刈ってきては干し、村が総出で葺いてきた。いい時代やった」。こうした伝統が無くなっていくのは寂しいという。「けど、もはや守っていくすべもないし」。今や茅をふく職人は県内に少なく、しかも作業には多くの人手が必要で、肝心の茅の確保も…。たとえ葺いても、茅の保存のためには囲炉裏(いろり)を焚(た)いていぶし続けねばならない。
 かつて屋根裏の2階部分「つし」は物置などに使われていたが、今は1階の天井板でふさがれている。特別に開けて、入らせてもらった。


集落内には、屋根が落ちた茅葺き住宅が…。家族の手で少しずつ解体しているのだという

 幅は5間、高さ数メートルの空間。東西南北に四面ある屋根には葺かれた当時の茅が残り、直径20センチほどの柱が急角度で頂上に向かっている。途中でしなっているのは、雪の重みで自然とゆがんだのだという。
 「これこそ合掌造りだよ」。石渡さん宅を案内してくれたNPO法人・日野川流域交流会事務局長で環境文化研究所(越前市)所長、田中保士さん(68)=再利用術の巻(10)で登場=は、白川郷などと比べれば規模こそ小さいが、組み方などは似ていると指摘する。
 屋根の最上部はまさに手で合掌するような形。組まれた柱の間には一切くぎが使われてなく、太い藁(わら)で縛っただけの状態。しかし、木材の巧みな組み合わせ方に藁の柔軟性を加えることで、深い雪の重みの中で年数を重ねても、しっかり家を支えていくのだという。
 つしの床には藁が敷かれている。葺き替え用の茅や葦(あし)も保管されている。その他、蓑(みの)や藁ぐつ、かんじき、むしろ編みの道具、味噌(みそ)突きの棒…昭和の中ごろまで使っていた道具。「当時のまま、手つかずの姿で残されている。これは貴重な遺産だ」。田中さんはうなった。
 
葺き替え費用
2000万円にも

 南越前町教委によると、現在町内に完全な形で残る茅葺き住宅は、板取の4軒と木ノ芽峠の「峠の茶屋」の1軒。保存のため毎年、町が200万―300万円の予算を組み、破損個所の補修や一部葺き替えなどを行っている。「全面的な葺き替えとなると、2000万―3000万円必要で、財政的にも難しい」といい、メンテナンスを個人が行うのは大きな負担になる。県教委によると、県内で文化財として保存対象となっている茅葺き住宅は12軒。ほかに板取の保存地区や所有者の努力で維持されているものがわずかにあるが、多くは既にトタンなどで覆われている。
 
囲炉裏の家
子どもたちは、成長した
南康夫さん一家(南越前町)
 

 どっしりと、いかにも重そうな茅葺(かやぶ)きの屋根から囲炉裏(いろり)の白い煙が立ちのぼる。いにしえにタイムスリップしてしまったかのような空間が、山奥に今も実生活の場として残っている。南越前町板取。ピアノ調律師南康夫さん(42)、さおりさん(39)夫妻は16年前、保存地区の1棟を新婚、子育ての場として選んだ。かつてにぎやかな宿場町だったこの辺りも、昭和にいったんは廃村となった。周りには川や森、畑以外、何もない。寂しかったし苦労もあった。でも、気がつくと子どもたちは、たくましく成長していた―。

 
身近に炎 怖さも、楽しさも
母さんが作ってくれた“部屋”で 夜は勉強
 
 こけむした石垣の上に鎮座する古民家。玄関の戸を引き、居間に続く障子戸を開けると、黒光りした床板の真ん中に囲炉裏がある。火を付けると、静かな空間にぱちぱちと薪(まき)の燃える音だけが響いた。

囲炉裏の家

 「小さい炎がだんだん大きくなって、消えたり、いろんな形になったり、面白いよ」。竹麿君(14)と妹の月乃ちゃん(11)は、炎に手をかざしながら笑顔を浮かべた。たまに家族で焼き鳥や焼き肉、鍋…囲炉裏を囲んで食事をする。最も楽しみなひとときだという。
   ◆ ◆ ◆
 この家に住むことにこだわったのは、父康夫さんだった。
 実家は鯖江市。家の目の前の幹線道を激しく車が行き交う街中だった。子どものころから自然に囲まれたのどかな田舎暮らしにあこがれていた。
 標高が高い山中。さすがに茅葺きは断熱性があるといわれるだけに、夏は涼しい。夜風が吹き抜ける窓際で、さらさらと流れる水の音を聞くと、心地よくて眠くなる。そのたび、「この家を選んでよかった」。心底そう思う。
 ただし冬は大変だ。「以前は1メートル半くらい雪が積もり、親子で毎朝の雪かきが日課だった」とさおりさん。3年前の大雪では倒木で電気がストップ。丸2日間、囲炉裏とろうそくの炎を頼りに過ごしたこともあった。
 冬の間、竹麿君が利用する住民バスの終着点は家から4キロも離れている山のふもと。さおりさんは毎日送り迎えをしなければならない。
 5年ほど前からは、イタチが夜な夜な出てきては菓子や果物をかじり、土壁のあちこちに穴を開けていく。その都度、修復の繰り返し。テレビの地上波も入らず、民放のアニメやバラエティー番組はほとんど知らない。
 それでも子どもたち2人は学校で仲良しがたくさんいて、楽しく過ごしているという。
   ◆ ◆ ◆
 幼いころから、2人で遊ぶことが多かった。裏山に入って囲炉裏の焚(た)き付けに使う杉葉を両手で抱えきれないくらい拾ったり、春はタケノコ、山菜採りを楽しんだ。冬は2人で雪合戦。「休日には、空き地で家族で野球をしたり、ノコギリを持ってみんなで薪集めに行ったな」と竹麿君。

山で拾ってきた薪を運ぶ

南さん一家が住む茅葺き民家の保存地区。月乃ちゃんも山で拾ってきた薪を運ぶ=南越前町板取

 マッチの使い方は小学4年のとき、康夫さんに習った。康夫さんがいない夜は、さおりさんが薪に火を付けるが、今では「僕が付けるよ」と率先して火をおこすほどに。
 「あえて火や刃物から子どもたちを遠ざけたくなかった」と康夫さんは振り返る。母がやけどをしたのを見て驚いたこともあるが、火を嫌いになることはなかった。むしろ「火は近づくと熱いし、いろいろなものを燃やしてしまう怖いものなんだって学んでくれた」と目を細める。薪を切る時も「刃の引き方をしっかり説明すれば、子どもは注意点を守ってきっちり手伝ってくれる」という。
 室内にあるものはすべて煙でいぶされるため、友達から「洋服が香ばしいにおいがする」と冷やかされることもあるが「全然平気」と、子どもたちは気に留めない。
   ◆ ◆ ◆
 6畳と8畳の4部屋が田の字型に並ぶこの家。うち1部屋は囲炉裏専用、もう1部屋はピアノを置くなどしているため、残る2部屋が日常の居間兼寝室となる。だから、「寝るときはいつも川の字」(さおりさん)。

僕の部屋

狭くても、「カーテンを張ったら僕の部屋」

 竹麿君は中学生になってから、夜遅くまで勉強することが増えた。そこでさおりさんは竹麿君の机のある6畳間の一角に洗濯ひもを張り、布を垂らして仕切ることで、たった1畳の小さな“部屋”を作り出した。
 「文化財をお借りしているから増築はできないし…、せめてこうしてあげたくて」。そんな母の気遣いに竹麿君は素直に喜んでくれた。
 家族が寝た後にはカーテンを引き、勉強したり、漫画を読んだり、自分だけの時間を楽しむ。
 「普通の家に比べると不便かもしれないけど、僕はこの家が好き。大人になってものんびり暮らしたい。ムカデやヘビはやっぱ苦手だけど」。竹麿君の照れくさそうな笑顔が炎に照らし出された。
       =おわり
 (この連載は、山内孝紀、土生仁巳、土山実穂、野田勉が担当しました)

2009年3月5日(木曜日)

 (16) 【シリーズ・古民家考】

 
カリブに通じる日本の伝統
レゲエ歌手 SING J ROYさん(福井市)
 

 中米カリブ海を代表するミディアムテンポの音楽、レゲエ。これを福井市の古民家で生み出しているアーティストがいる。SING J ROYさん(34)だ。レゲエと日本の伝統建築という一見そぐわないかに見える2つの文化だが、底流にあるものは同じだという。むしろ、今の時代を歩む上で心地よく響き合うものがあるとも―。

 
思いやりや自給自足、生ゴミは肥料…
 
 キューバの南に位置するジャマイカ。海に囲まれた人口約260万人の常夏の島。レゲエの聖地といわれるだけに、街中でお年寄りも子どもも即興で歌い踊る陽気な笑顔を目にする。

カリブに通じる日本の伝統

 J ROYさんがこの地に初めて降り立ったのは20歳のとき。以来、何度もこの島に出掛ける。それはレコーディングなどの音楽活動だけでなく、「生きる力を得るため」。
 滞在先のゲストハウスを一歩出ると、そこは銃声も日常茶飯事の貧困街。板で仕切られただけの家が並ぶ。「だけど、クーラーがなくても過ごしやすいし、みんな早朝から掃除に励みつつ、気さくに声を掛けて来る。まるで、近所で井戸端会議するおばちゃんたちのように」
 街中を歩いていると、「食ってくか?」と突然声を掛けられる。薪(まき)を2、3本持ってきて火を焚(た)き、料理を作ってくれる。手にはナイフ。手のひらの上で野菜を刻む。タマネギをサイの目のように細かく刻んだり、分厚いオレンジの皮をリンゴのようにするするとむいたり。それが日常の光景。
 「素朴だけど、あったかくて、そこにたくましい生活力を感じる。昔の日本人にも、きっとあったはずの…」
   ◆ ◆ ◆
 レゲエを作って歌う舞台を東京でなく、生まれ育った福井と決めたのも、素朴な温かさが残る街だから。昨春、築50年以上の古民家に住み始めた。実家前の亡くなった老夫婦の家を「壊す予定だった」という遺族から譲り受けた。
 日本伝統の田の字の住宅。聞くと、くぎを1本も使わずに建てられた家だという。豪雪にも耐えた太く、どっしりとした柱や梁(はり)。「今でも全く手を加えなくても問題ない」。冷たいすき間風が入ってくるのも「家が呼吸してるって感じ」。
 崩れた砂壁の上から自分で下塗り材のシーラーと白いペンキを塗り、あえて昔ながらの白壁を“演出”。応接間の棚には、緑や黄色、赤など原色を駆使したイラストでレゲエの雰囲気を出し、1階の2畳程度のスペースにミニスタジオも設けた。シンセサイザーを置き、地元に腰を据えた音楽活動に着手できるようにした。

畳の部屋

テンポのいいJ ROYさんのリズムは、畳の部屋で生み出される=福井市月見1丁

 「畳の上に座っていると、ほっとする。フローリングにない落ち着きがあって」
   ◆ ◆ ◆
 ジャマイカの街中でいただいた料理にも同じ感覚を覚えた。日本と同じ米と豆を使った「ライス&ビーンズ」や、野菜の蒸し料理…どれも日本にある“おふくろの味”。すいとんに似た「ダンプリン」もある。
 驚くのはその後始末。生ゴミはすべて土に帰し、畑の肥料に。一粒一片たりとも無駄にはしない。
 ジャマイカの住民たちの間には、自分たちの祖、アフリカの文化を尊重し、アフリカ回帰主義を奨励する「ラスタマン」の思想が受け継がれている。家を自力で建てたり、畑で作物を育てたり、村で近所の仲間と助け合いながら生活したり…ファンキーなドレッドヘアからは想像もつかない、完全自給自足の暮らし―自然の中にどっぷり漬かって生きてきた先人の姿でもある。
 滞在中、住民たちの陽気さの奥に、ラスタマンの行動をかたくなに貫く姿が目についた。「故ボブ・マーリーなど、有名なレゲエ歌手の中にも、実はラスタマンが多い。精神レベルが高くて、自力で何でもこなす」。仙人に近い、そんな印象さえ受けるという。

ジャマイカの商店

ジャマイカの商店街。雑然とした路地は現代の日本が失った「生活力」とたくましさにあふれている(J ROYさん提供)

 「ジャマイカって、お年寄りをすごく大切にするし、自分の文化を絶対に守る。それって、今の日本が忘れている心なんだよね」
 だからJ ROYさんは、昨年発売したシングル「ほやほや」の中にも越前がにやコシヒカリなど福井の味覚、三国や鷹巣の海岸、そして里山の紅葉、雪…福井の風土を歌詞に盛り込み、全国に届けた。
 「この福井に住んで、自然にわいてきた心地よさがあの曲になったと思う。これって、どんなに時代が移り変わろうとも変わらない、福井の原点だと思う」。あのジャマイカの人たちが大切に守り伝えているように。
 将来は福井の里山に自分でログハウスを建て、畑仕事をしながら暮らしたい―そんな夢さえ描く。
×  ×  ×
 再利用術の巻の締めくくりとして、もう一度「古民家」にスポットを当て、「和」の空間の奥深さを今回から3回シリーズで考えてみる。
 
「もったいない」 テーマに新曲
「連載主題歌に」
   ・
   ・
   ・
これではもったいない
それでは問題外
捨てるにはまだ早い
感謝を忘れない
心育てたい
俺たちの手で変える未来
大切にしよういつまでも
うしなってからじゃおそいのさ
今ある物から始めるさ
残して行くよいつまでも
次の世代へ繋げるさ
その次の世代まで届くのさ
   ・
   ・
   ・

2009年2月26日(木曜日)

 (15) 【シリーズ・循環に生きる】 

 
古き車 熟成の味わい
尾崎俊秀さん(南越前町)
 

 いかにも年式の古い車なのに、しっかりと磨きがかかっている。無駄のない落ちついた走り。そこから身なりをただした服装で降りてくる―そんな人を見掛けると、ちょっぴりかっこよくて、ロマンを感じる。別に高級品じゃなくてもいい。安いとかポンコツとかいう概念を超えた大切なものが、そこに―。

 
伝説の2輪 復元し室内へ
部品一つ一つに 技術者たちの魂
軽トラ一筋16年 増す愛着
 
 愛車は白い軽トラック。「もうかれこれ16年になるかな。さすがに16万キロも走ってくると、エンジン本体は一度は載せ替えざるを得なかったけど」。会社員、尾崎俊秀さん(52)=南越前町=は、笑みを浮かべて自宅前の車を眺めた。

古き車 熟成の味わい

 機器類一つ一つに自ら手を入れる。毎朝、エンジン音を聞き、「よしっ、バルブもいいようだ」―調子を確認してからアクセルを踏む。
 「マイカーはこれからも、ずっとこれ」。そう話すほどに1台にこだわり、大切に乗り続ける。理由は「もちろん愛着。5、6年たつと新車を買いたくなるもんだけど、それを越えると、かわいい相棒っていう思いがどんどん増してきてね」。国内を軽トラで旅するときもあるという。
 そしてもう一つこだわる理由―乗り続けて浮かせたお金をあるライフワークに投資するためだ。
   ■ ■ ■
 倉庫などに眠る昭和のオートバイを修理し磨き、現代によみがえらせる―それが尾崎さんのライフワーク。若いころから「夢に出てくるほど」オートバイが好きだった。20代後半からは、乗るよりも名車の収集や修理の魅力に引き込まれていった。
 中でも、とりつかれたように全国を回って部品を集め、2年前、20年越しで完成にこぎつけた1台がある。1969年に発売された「ホンダCB750Four」。それまで2気筒エンジンが主流だった2輪に初めて4気筒を積み、時速200キロ超を可能にするなど“常識破り”の高性能で北米市場に売り込んだ伝説の名車だ。

修理を待つ

倉庫で修理を待つ昭和期のオートバイ

 とりわけ尾崎さんは、「Kゼロ」と呼ばれ、初年度に生産された機種を追い続けた。人気が出て量産化される前のもので、ホンダの技術者たちの手作りの技が注がれた機種とされる。当時生産されたうち、作られたそのままの姿で国内に現存するのは数台ともいわれる。32歳のとき、新潟県の鉄工所にあるのを探し当て、片隅でほこりをかぶっているのを譲り受けた。
 ただボディーのほとんどが改造され、原型をとどめなかった。そこで故郷の静岡や岐阜などで開かれた中古オートバイの部品市に小まめに出掛けたり、専門誌やネットオークションで「求む」の広告を出し、ねじ一本まで当時のものにこだわり探し続けた。
 最後の部品はマフラー。「見つけたときはうれしかった」。取り付けた後は「長年あこがれた彼女に服を着せて、ようやく外に出られるようになった、そんな気分で」琵琶湖畔や京都へ試乗に出掛けたという。地響きのようなエンジン音が心地いい。磨き上げられたボディー、当時を再現したタンクのキャンディレッドの塗装が青空に映えた。「こんなものすごい音を立てて走る古いやつなのに、燃費はリッター32キロも走る」。日本経済の成長を引っ張った技術はすごいと思う。
   ■ ■ ■
 部品を集める過程では多くの人と出会った。売ってくれた人、フリーマーケットで仲良くなった人…。住所や電話番号を交換しメモ帳にぎっしり書き込んだ。連絡を取り合い、相互に訪問し合う。

尾崎さんと相棒

軽トラのハンドルを手に笑顔を浮かべる尾崎さん。16年間乗り続けている相棒だ=南越前町湯尾

 古い二輪が好きだっていう価値観はみんな同じ。だから、すぐに意気投合する。「国内をツーリングに出掛けると、北海道から鹿児島まで、宿泊先は不自由しない」
 古いものを磨く楽しみとともに、人のつながりを広げる楽しみ、それが長く続ける理由でもある。
 家にカウンター付きの展示場を設けたのも、訪ねてくる人はいつでも心地よく受け入れるようにしようという思いからだ。そうした尾崎さんを慕い、実際に知人が次々とやってくる。
 オートバイの部品一つ一つに提供者との思い出が詰まり、それを作った技術者たちの魂が詰まっている。「Kゼロ」が作られたころは、ミラー1つにも部品メーカーのエンブレムが入っていた。「今の時代にはあまり見られなくなった意匠…」。そんなことを肴(さかな)に酒を交わすと、時が過ぎるのも忘れる。
 「使い込んだ古いものって、時を重ねれば重ねるほど熟成され、深い味わいをもたらしてくれると思う。そこに浸っていると心地いいし、生きる力を与えてくれるような気がする」。軽トラだって同じ。「長く使わせてもらってありがとう」と心の中で声を掛ける。

2009年2月19日(木曜日)

 (14) 【シリーズ・循環に生きる】 

 
自然の力 家中でフル活用
寺杣督平さん(敦賀市)
 

 かつて先人が自然と向き合い、生活の中に豊かに取り入れていた循環。進歩する科学技術の力を使えば、現代建築にどこまで生かすことができるのだろうか。

 
屋根の熱巧み、部屋を柔らかく包む
こつこつ蓄えた資金を投資 「次は光を効率良く」
癒やされる炎のゆらめき
 
 中池見湿地に近い敦賀市藤ヶ丘町。冬の晴れた日、ここに入ると家全体がひなたぼっこをしているような家がある。寺杣督平(てらそまとくへい)さん(60)宅だ。会社の一線を退いた後は妻の実家のある敦賀で過ごそうと5年前、木造2階建ての家を建て、県外から引っ越してきた。

太陽

屋根の熱巧み、部屋を柔らかく包む

 
 「今日はストーブを使っていないけど、あったかいでしょ。天気がいいと、冬場でも部屋の温度は27度くらいまで上がる。火力にまったく頼らなくてもね」
 実は寺杣さん宅には、太陽の熱を巧みに家の中に取り入れ、暖房などに“再利用”する、あるシステムが取り入れられている。
 「あれなんだけどね」。指さした先は、吹き抜けになった居間の天井。直径30センチほどのパイプが屋根裏の中央を横切り、ぐねぐねと2階の寝室を通った後、壁を伝って1階の床下まで垂直に伸びている。
   ★ ★ ★

風力発電

風力発電も導入。「でも、風を切る音が予想外に大きくて…」今は停止中

 日中、太陽の光で暖められた屋根の熱は、何もしなければ冷めていくだけ。「でも、屋根裏に穴を開け、そこにパイプを通せば、そこにたまった暖かい空気が流れてくる。ほら、この床の吹き出し口から出てきて室内を暖める設計なんだ」。動力は換気扇ほどの大きさの小型ファンのみ。それだけで家中を暖気が循環する。居間の暖房は、この暖気をベースに、電気による蓄熱式を組み合わせて冬場をしのいできた。
 寒い雪の日でも、前日が晴れなら、パイプの中は15度くらいに保たれ、室内はほのかな暖かさが続く。「太陽の熱って実はすごい力を秘めてるんだ! って思ってね」
 熱は床下のコンクリートに蓄えられるため、夜もゆっくり放熱されて暖房される。暑い夏場はパイプ内の熱を使って台所や風呂の湯を温める。
 「化石燃料に比べれば、暖かさは弱い。たまに帰ってくる息子たちからは寒いと言われる。でも、夫婦2人だけなら着るもので工夫したりして寒さをしのげれば、それで十分だから」
   ★ ★ ★
 1970年代のオイルショックのころから節電が身に染みついてきたという。30代のころ、地球のオゾン層が破壊され始めていることを報道で知り、「これはいかん」と、真剣に考えた。
 電気関係の職業に携わっていたため、電気機器を取り扱うことが大好きで、新しい家を建てるなら、エコにとことんこだわったものにしよう―ずっと青写真を描いてきた。今、これまで働いて得た蓄えを基に、実践に移している。

雨水タンク

庭の水やりは雨水タンクで節約

 屋根には太陽光発電パネルも取り付けた。夏場は最大で1時間約16キロワットを発電する。「晴れ間の多い春から秋は電力会社に電気を売るほどになってね」
 さらに、車庫の屋根には風力発電。軒先には雨樋(あまどい)から水を引き込んだ雨水タンク、夏場には「グリーンカーテンが1階の窓を覆い尽くすんだ」。
   ★ ★ ★
 設備の初期投資は一般的な新築物件に比べ、150―200万円多く掛かったとみている。それでも灯油代や電気代が年間10万円ほど浮けば、10数年で元が取れる計算。「地球環境と自分のライフワークへの投資、と言い聞かせてるんだ。自分が動いて急に環境が良くなるわけじゃないけど、やらないよりやった方がいい。何より、楽しいから」
 もちろん失敗することもある。風力発電は直径1メートルほどのプロペラでも、「風を切るときにかなりの騒音が出たから」と、近所への配慮から使用をあきらめた。でも、へこたれない。
 次に、やってみたいと描いているのは太陽光の照明への活用。日中の節電を図ろうと、レンズで集光した光を照明機器に送るシステムが導入できればと思い描く。「太陽の明かりも、あれだけ地球上に降り注いでいるのに、家の中では有効に使えていない。もったいないと思うんだよな…」
 併せて描くのは畑作への挑戦。「大地とともに生きる、それが最終的なエコライフの到達点かも」
 
主原料は木くず! ペレットストーブで環境配慮
手軽に「火のある生活」
 
 高さ1メートル余り。ボルドーワインのような深い色合いのストーブの窓から、パチパチとオレンジ色の炎が見える。
 現代風のエコライフを追求する寺杣さん宅に昨秋導入された新アイテムが、ペレットストーブだ。薪の代わりに間伐材や廃材、木くずなど木質系の廃棄物を粉砕、圧縮して作る固形の「木質ペレット」を燃料とする。薪と違って扱いやすい上、燃焼効率もほぼ100%といわれ、温室効果ガスの排出抑制にもつながるとされる。

癒やされる炎のゆらめき

 居間の隣の和室に置いた。「本来は太陽熱と蓄暖だけでやっていくところなんだけど、里山の資源を生かす薪ストーブだけは、どうしても入れたかったから…」。最初は薪ストーブそのものを取り付けたかったが、住宅街だけに煙も気になるし、妻の眞弓さん(57)も扱いやすいものをと考えた末、「ペレット」に決めたという。「上品なワインセラーのようなイタリア製のこの外観にもひとめぼれしてしまって」と眞弓さん。
 ボタン一つで着火し、求める火力に合わせてペレットがタンクから落ちてくる。火はゆらゆら、50センチ近くも立ち上り、そのぬくもりが体を温めてくれる。「炎がいろんな形に変わって、見ていて飽きない。体の力が抜ける」と寺杣さん。
 薪ストーブと比べ煙突が小さくて煙も少なく、タイマー設定できるなど使い勝手も良いという。「薪ストーブと石油ヒーターの間くらい手軽で、環境にも優しい。わたしたちの暮らしにはぴったり」(眞弓さん)
 ペレットの燃費は、灯油と同じくらいか、少し安くなる計算という。「価格は灯油のように大きく上下しないからいいね」と二人でにっこり。
 
県内でも設置増加 燃料販売は来月本格化
 
 ペレットストーブを取り扱う機械設計、ストーブ販売の「JASTY」(池田町)によると、県内でも近年人気が高まっていて、昨年は約20台を販売。これまでに全県で同社以外も含め約60台が使われているという。
 ペレットストーブは、もともと薪ストーブ需要が高く環境先進国といわれる北欧諸国で開発、普及してきた。オイルショック時には、日本にもストーブ本体や燃料となるペレット製造を試みる企業が登場。環境意識の高まりから、近年再び注目を集めている。岩手や長野などでは県全体で普及に取り組んでいる。

ペレット

 同社によると、ストーブ本体は30―50万円が主流、設置費用は約10万円から。ペレット燃料は、20キロ約800円で、8時間燃焼させると平均約10キロ消費するという。
 県内でペレット燃料は、越前市の中西製材と若狭町の社会福祉法人「コミュニティーネットワークふくい」で製造されている。ただ、同法人は同町内の公共施設への供給が中心で一般向けには販売していない。
 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同研究を行っている中西製材は3月20日から本格販売する予定。製材で出た県産スギを中心とする木くずのみを使っているため、「地元の山の健康にもつながる。化石燃料に頼らない代替エネルギーとして普及させたい」としている。

2009年2月12日(木曜日)

 (13) 【シリーズ・循環に生きる】 

 
人と食 優しくつなぐ箸
山口ちとせさん(越前市)
 

 古来、人は木に囲まれて生きてきた。木の性質を見抜き、巧みに暮らしの中に生かしてきた。家を造り、燃料として煮炊きをし、木の器によそい、そして端材で作った箸(はし)で食事をする…箸は木を使う最も身近な道具の一つだった。そこには先達の豊かな知恵が秘められている。

 
木のぬくもり 職人技に魅了
磨き込んだ美しさ 味も変わる
秘めた奥深い語源
 
 雪のやみ間につかの間の青空が広がると、格子戸越しに柔らかな光が差し込んできた。
 「きょうの雪は桜吹雪みたいね」。長い髪を後ろで束ね、藍(あい)染めの着物を着た山口ちとせさん(56)は、薪(まき)ストーブに薪をくべながら、格子のすき間に浮かぶ林に目を移した。
 山間部に位置する越前市市野々町。谷間の最も奥の高台に建つ古民家に、山口さんは7年前移り住んできた。ここで染めなどの工房を開く。

食事を楽しむ山口さん(左)

友人と自宅で食事を楽しむ山口さん(左)。手にす
るのは、使い慣れた木製の箸=越前市市野々町

 
 「自然の中にどっぷりつかった昔ながらの自給自足にこだわった暮らしは、ずっとあこがれだったから」
 こだわるあまり、居間の床板を自らの手ではがして土間をつくった。薪窯を置き、横にはうすときね。囲炉裏(いろり)まで再現した。その他、家の中には手回しミシンや織機…。「古いものはデザインも機能も素晴らしい」
 そんな“宝物”の中で今、ボランティアで普及啓発活動を行うほどにほれ込んでいるものがある。「これなの」と、台所から大事そうに持ってきたのは一膳(いちぜん)の「箸」。
   ◆ ◆ ◆
 あめ色で優しさを感じさせる木肌。持ち手の部分にねじったような、いかにも手作りのごつごつとした彫りが刻まれる。
 「店で一目ぼれして、もう15年以上も使っている。箸を持っている感覚がまるでなくて、体の一部分のように木のぬくもりが伝わってきて…」
 人の生きる原点、食べるという行為をもたらす箸。たった2本の棒にすぎないが、その用途はつかむ、挟む、支える、運ぶなど12通りもの機能がある。「箸を使うには微妙な力加減が必要で、この手先の器用さこそが日本の高い技術力を支えてきたんじゃないかって言われている…」。仲間たちを招いた食卓では、いったん箸に話題が及ぶと話は尽きない。
 これほどまでに引き込まれたきっかけは16年前、小浜市の箸製造販売会社「兵左衛門」の社長との出会いだった。
 ある会食の席。「箸を通して地球を思い、箸を通して人のくらしを考え、箸を通して自然のありがたさを伝える、そんな仕事をしたいんだ」―社長が語った箸づくりへの思いが深く印象に残った。
 同社工場ではその理念を求めるべく、割れたバットなど古材を再利用して箸に加工している。何度も漆を塗り重ね、その都度乾かし、削り、貝や卵の殻を砕いて模様を付け…、昔ながらの天然素材を使った職人たちの作業が続く。
 ものによっては完成まで1年以上掛かる気の長い工程だが、「箸は口に入れるものだから、どこまでもこだわりたい」。社長の姿勢に、今の時代を生きる大切なものを感じた。

若狭塗箸

幾重にも漆を塗り重ねた若狭塗箸は、職人の手によって丹念に磨き上げられる=小浜市内

 以来、家での食事はもちろん、外出の際も必ず袋の中に携帯用の若狭塗箸を「マイ箸」として持参し続ける。
   ◆ ◆ ◆
 「箸というと、割り箸もあるけど、その用途に込められた深い意味があるのをご存じ?」。山口さんはこんな質問を投げ掛けてきた。
 今でこそ「使い捨て」の道具にすぎない割り箸だが、「もともとは一期一会を大切にする気持ちを表すものだった」。古来、ハレの日のお膳に限って添えられることが多かったという。だから山口さんは、現代でも「一期一会」の意味をしっかり踏まえ、祝い箸として出す料理店では使うことにしている。
 「箸一つにも、昔の人のすてきな知恵が込められているでしょ」
 マイ箸の素材を木に求めるのも「舌に触れたときの優しさや、食べ物の味まで変わるような気がして。それに、大切に使えば長く使える」。色がはげたら漆を塗り直し、折れたらもう一方も削り同じ長さにして再利用する。
 さらに箸は、口の中は決して傷つけない。「食べるものに箸が合わせてくれるから。…考えると、日本人の生み出したものには、使う人に合わせてくれるものが多いと思う」。例えば畳の間は応接間にも寝室にもなるし、ふすまの戸は外せば隣の部屋とつなげられる。着物もげたもサイズは関係ない。物を包むにはかばんより風呂敷の方が大きさ、形に融通がきく。
 「そこに日本文化の優しさや思いやりを感じる。それって、日本人の人柄にも通じていると思う」
 
命宿す「母」、魂宿る2本の「柱」
 
 山口さんは近年、木製の「マイ箸」の普及を図る教室を精力的に開いている。その中で、箸の語源についても勉強を重ね、参加者に伝えている。一部を紹介しよう。
 ▼人と食の懸け橋 大和言葉で「は」は、両端、挟む、よみがえる、などの意味。「し」には、つなぎ留める、固定、静止するなどの意味がある。「文字通り、箸は人と食べ物を結ぶ『橋』なのね」と山口さん。「は」を重ねると、命を宿す「はは」(母)になる。
 ▼魂宿す柱 「はし」に似た言葉「はしら」にも深い意味合いがあった。柱には、神様や人の魂が宿るといわれていて、箸も2本の柱を意味するととらえた場合、「箸には使う人の魂が宿るといわれている」と山口さんは解説する。

2009年2月5日(木曜日)

 (12) 【シリーズ・循環に生きる】 

 
美しき水と寄り添って
宇随信子さん(永平寺町)
 

 山から流れ、あるいは地中からわき出てくる水は、やがて海に出て天に昇り、再び雨となって大地にもたらされる。水は天然の恵み。かつて人は、清らかな流れに寄り添い生きてきた。澄んだ水は田畑を潤し、生活では飲用となり、洗い場となり、そして子どもたちの遊び場…。現代人の多くが忘れかけた潤いがそこにあった。

 
伝統の洗い場で洗濯
山から豊かな流れ 冷たいけど洗いやすい 融雪にも活躍
 
 しーんと静まった杉木立。その下を、肌を刺すような冷たい朝の空気が漂う。永平寺町中心地の松岡神明3丁目。山に面した町の一角で、水路の水がごうごうとしぶきを立てて流れていく。

洗い場

冬から春先にかけて、洗い場には雪解けの豊富な水が流れてくる。かつては地域の多くが活用していた=永平寺町松岡神明3丁目

 周りは黒ずんだコンクリート壁に囲まれ、薄暗い空間。その中でジャバッ、ジャバッ、流れに向かって黙々と手足を動かす女性の姿があった。
 「雨が降った次の日は濁ったり水かさが増してだめだけど、そうじゃない日は来ることにしているんや」
 近くに住む理容師、宇随信子さん(68)は、かごの中からタオルなどを次々に取り出しては水に浸していった。足で踏み、ねじって水を絞る。
 約60年前に造られた洗い場。もとは天然の沢の流れを使っていたが、福井震災後に地元の住民たちが資金を出し合い、コンクリート張りに造り直したという。せき止め用の板をはめ込み、水をためて使用する仕組みで、宇随さんはこの水を使って洗濯のすすぎを行う。
 「昔は周りのみんなが来ていた。夜明けとともにね」。洗う場所が限られているため、われ先にと競うようにかごを抱え、順番待ちになることも。「それなりににぎやかやったよ。言うなら、井戸端会議。ここだけじゃなくて、川はどこもそうだった」
   ● ● ●
 九頭竜川を見下ろす緩やかな尾根。越の国の王たちが眠る松岡の山々は、渓流や沢が数多く流れる水の豊かな土地でもある。

洗い場の壁

洗い場の古びたコンクリートの壁には使いこなしたタワシやタオルが掛かる

 「ここの水は少し上に登った山の中からわき出ている。きれいな、澄んだ水でね。今でもサワガニがいるんや」
 山の持ち主は木の管理をしっかり行い、付近の住民が総出でやぶ刈りや清掃を定期的に行いながら水を守ってきた。それだけ重宝された水。「今はあまり山に入らなくなったけど、しっかり守っていけば、災害があったときなんかはまだ、飲み水に使えると思うんや」
 冬から春先にかけては、雪解け水が交じってあふれるように流れてくる。「この時季は冷たいけど、水量があるからむしろ洗いやすいし、洗いがいがある」
 さらに冬場、近くの家々は道路わきの水路をせき止め、あふれさせて、融雪にも使っているという。道から入り組んだ宇随さん宅は、雪が降るとわざわざパイプで引き込んで解かすほどだ。
 「本当に水が豊かで。おかげで、雪ではあまり困らないし、ありがたい。強いて困るといえば、流した水が凍って転びそうになるときくらいかな」と笑う。
 春以降、さすがに水量は減っていくが、夏場の渇水期も水は途絶えることがない。「それが不思議」。野菜の土を落とす光景も見られるという。
   ● ● ●
 朝、新鮮な空気を吸い、水と触れ合うと気持ちいい。一日の始まりにこのすがすがしさを得られるのも、洗い場へ行く魅力の一つだ。仕事前に気持ちは引き締まる。
 「せっかくこんなに流れてくるのだから、そのまま通り過ぎてゆくのはもったいないという気がして…」。水とは長く大切に接していきたい―青々とした山の緑を見上げ、そう感じる。
 
環境に配慮 古きせっけん使い続け
 
 「水は天からの恵み。使うからには、ほんの小さなことかもしれないけど、環境にも意識しないと」―。宇随さんは20数年前から、家庭での洗濯や食器洗いでこだわって使い続けているものがある。昔ながらのせっけんだ。
 米ぬか脂肪酸やヤシ油など天然素材を主原料にした、いわゆる“純せっけん”。かつては洗浄の主流だったが、昭和の中ごろ、合成洗剤の登場とともに一般家庭では使われなくなっていった。

粉せっけん

宇随さんが洗濯に使っている粉せっけん

 その後、水環境の美化運動が盛んになった琵琶湖などで再び注目されるようになり、旧松岡町の消費者講座などでも取り上げられた。使い方次第では合成洗剤に負けない泡立ちや洗浄力が得られることが紹介されたという。
 興味を持った宇随さん。早速使ってみると、「汚れが本当によく落ちて。それに、においもあまりなくて、自然な香りだからうれしくなって」。
 以来、近くの女性たちと一緒に県外のメーカーからせっけんの共同購入を続けている。「せっけんは洗剤と違ってまず、お湯なんかでかき混ぜて泡立てないといけないのが面倒で、それが今は敬遠されるんだろうけど、そのペースに慣れたら気にならなくなるから」
 風呂を洗う際にも、合成洗剤は使わない。代わりに重曹をお湯に入れて済ませる。「トイレもゴム手袋をはめてペーパーなんかでふけば、汚れは結構落ちるもんやよ」。結果的に、そうした積み重ねが「環境に優しくなれば」という。
 
記者が体験
ドラム式でもイケる!
泡立ちグッド、娘も「面白い」
 
 せっけんで洗濯。そんなやり方もあるのかと取材で知った記者が早速、自宅で体験してみた。さて、結果は…。
 (ふくeライフ取材班・土生仁巳)
 
 わが家の洗濯機は近年はやりのドラム式。宇随さんいわく「ドラム式でも、ぬるま湯でまずせっけんを溶かし、泡立てればあとは普通と同じ」とのこと。それなら面倒くさがりの私でもできそうだ。
 早速ドラッグストアで粉せっけんを探した。家庭用品品質表示法で洗濯用洗剤はせっけんと合成洗剤を区別しており、品名にせっけん、複合せっけん(洗浄成分の一部が純せっけん分以外の界面活性剤)、合成洗剤の3種類がある。迷わずせっけんを購入。
 その夜、2歳の長女がケチャップで汚したフリースとスタイを粉せっけんで手洗いしてみた。すると赤い染みがみるみるきれいに。「へぇー、これは面白い」。翌朝いつもより1時間早く目をさまし、せっけん洗濯に挑戦した。
 最大の“標的”は夫が職場で使う白いタオル。機械油にまみれた手をふくので、毎日真っ黒になって帰ってくる。
 まずは規定量の粉せっけんを五リットルほどのぬるま湯で溶かす。ポイントはよくかき混ぜること、そして冷水を使わないこと。必然的に風呂の残り湯を使うので、環境にもいい。すると花が咲いたかのように泡が立った。娘も「ママ、泡ぼこぼこおもしろーい」。

せっけん洗濯に挑戦

ドラム式洗濯機でせっけん洗濯に挑戦。残り湯も有効活用

 次に、これを洗濯槽に入れる。だが一つ関門が。わが家のドラム式は、最初の洗濯槽内の重量で洗濯時間が左右される設定だった。
 そこで説明書を読み直すと、「せっけんを使う際は、いったん電源を入れた後、一時停止させてからせっけん液を入れて」とある。確かにこれでうまく稼働した。1時間後、無事洗濯は終了。タオルもいつもより白くなったような。
 これでも夫は喜んだが、欲を言えばもうちょっと白くなってほしい。それで思い出したのが、宇随さんの「二槽式洗濯機の方が汚れが取れる」との言葉。それなら、と実家の二槽式を使わせてもらうことに。
 二槽式の場合は「最初に低水位でぬるま湯をため、1分ほどかき混ぜてせっけんを溶かす」(宇随さん)。それから洗濯開始。
 終始近くにいなきゃいけないのは難点だが、洗濯物のバランス調整のため時間がかかるわが家のドラム式に比べ、「洗濯時間が短い」と宇随さんが話していた通りだ。残った水は次の洗濯にも使えて、夫のタオルもより白くなった。宇随さんが今でも二槽式にこだわる理由に納得。
 正直これまで、洗濯は“苦行”にしか思ってなかった私だが、“手作り”の泡でみるみるキレイになるのを見て、初めて面白いと感じた。
 その後、面白がる娘のため、固形せっけんと魚の形をした洗濯板までも買った次第だ。

2009年1月29日(木曜日)

 (11) 【シリーズ・循環に生きる】 

    続・火のある生活
 
炎の魅力が人を呼ぶ
藤田順一さん(鯖江)
 

 炎のある生活って何てすてきなんだろう―手に入れた人たちは口々にそう話す。周りにテレビも何も無くても、薪(まき)から立ち上がる炎を囲み、見ているだけで、飽きずに時は過ぎていく。会話が弾む、食もイケる。そして何より、それを求めて人が集まってくる。火には不思議な魅力がある。

 
街のど真ん中に石窯、薪ストーブ    
あったか料理 はじける笑顔
 
 パチパチ、パチパチ、石窯(いしがま)の扉を開き、真っ赤な炎が目に飛び込んでくると「ウオーッ!」。大勢の歓声が上がった。
 鯖江市中心部の本町通り。自宅のビルの庭に藤田順一さん(49)は1年余り前、石窯を取り付けた。その中で火がうなるような勢いで薪を焚(た)き、あつあつに熱した中でピザを焼く。
 ほかにもパンや豚肩ロース肉の丸焼き、仏料理のポトフ…。次々とできあがる料理を、家族や仲間たちと一緒に味わう。藤田家では今、ほぼ月1回のペースで開く石窯パーティーが、最大の楽しみだ。
   ★ ★ ★
 藤田さんが最初に薪ストーブを購入したのは16年前。簡易型で空気の調整ができず、燃費の悪い製品だったが「あったかいし、煮炊きもできる」。すっかり気に入り、10年前に本格的なストーブを手に入れた。

石窯で焼き上がったピザ

「さあ焼き上がったよ!」。藤田さん宅の石窯から出されたほかほかのピザに子どもたちは大喜び

 こんな街中で、本当に大丈夫? と思ってしまうところだが、いざ取り付けてみると「空気はきれいだし、窓ガラスの結露もない」。街中で意外にはまっているという。「昔は焚き火もしてたし、火の扱いでヒヤッとしたことも今のところないなあ」と笑みを浮かべる。
 その延長で取り付けたのが石窯だった。窯の内部を熱し、その余熱で調理する独特の仕組み。
 福井市の知人が庭に設置したのに影響を受け「うちにもあったら楽しいだろう」と思い、即実行。知人のタイル業者に依頼して造り上げた。
 これまでに焚いたのは計11回。遅くても朝六時には火を入れ、窯の温度を400度近くにまで上げる。「窯の内部が真っ赤になって、いったん暖めた熱は何時間も持続する。自然のその力が何とも不思議で」
 天然の火力でじっくりと焼き、煮込んだ料理は「味が違う」。たとえばポトフ。「石窯だと対流が起きないから、肉や野菜が移動しないし、アクも出ない。だからおいしさは抜群」

藤田さん(右)と家族

薪割りに精を出す藤田さん(右)と家族。斧を振るこのひとときも楽しい=鯖江市本町2丁目

 ただ、それだけの余熱を起こすには最低でも5時間はかかる。真冬だと前夜から火を起こす必要も。たった1枚ピザを焼くためにこれだけの手間をかけるのは惜しい。「だったら1枚焼くのも50枚焼くのも同じこと」。焼くときは家族や友人はもちろん、ブログで知り合った知人までも巻き込んでしまうようになった。
 「それがまた、新たな出会いを呼んで」。招いた友人が次回は、まったく知らない仲間を連れてきたり、そしてまたその友人、といった具合に。仲間の輪はどんどん広がり、今や参加者は50人を超えることもある。
 子どものころ、焚き火をするとみんなが集まってきたのを思い出す。「火って、きっと昔から、人を集める力があったと思うんだ」
   ★ ★ ★
 「そーれ、よっしゃー」
 藤田さん宅の庭では、たまに斧(おの)を振るう光景が見られる。石窯のほか、自宅に3台ある薪ストーブ用の薪を割る作業だ。
 薪は一冬だけでも2トンは必要。知り合いの山などで調達し持ち帰った分は、自宅の庭で薪を割り、少なくとも半年は干して乾燥させてから使う。手間はかかるが、作業を見かけた通りすがりの男性と盛り上がって一緒にビールを飲むなど、ここでもまた人のつながりが広がっている。
 「それに薪割りって、結構体力使うから、いい汗をかく」
 苦労して作った薪をストーブにくべ、その上でコーヒーのお湯をわかしつつ、お気に入りの音楽とともにくつろぐ。ロッキングチェアに腰掛けながらゆらめく炎を見ていると、疲れが癒やされる。「何より、心も体もあったまる」。この瞬間が、至福の時。
 
人気の薪ストーブ     
調達 情報が肝心
一冬最低2トン/杉もイケる
仲間と連携「5年で薪代ゼロ」も
 
 県内でも注目を集めている薪(まき)ストーブ。日本暖炉ストーブ協会正会員の販売店「暖欒(だんらん)」(福井市)によると、3年ほど前からその人気は一般にも浸透。同店の2008年の販売台数は50台に達するという。県内の薪ストーブ事情を探ってみた。
 ■値段は高いけど
 同店では、購入したいと訪れる約8割が男性で、新築を考える30代と、50―60代の団塊世代に大別できるという。
 気になるのはやはり価格。「トータルで100万円くらいとお答えしています」と澤崎哲夫社長。一般的に薪ストーブ本体は20―70万円、煙突50―60万円、煙突取り付け工事など施工費に15―20万円掛かる。

薪ストーブ

重厚でおしゃれな外観の薪ストーブ。気になるのは値段と薪集めだが…

 近年、インターネットなどで安く購入し自分で取り付ける人もいるが、「適切な煙突の種類やストーブを置く位置、壁との距離がある。火を扱うためにはきちんと知識を持った人に設置してもらわなければ危険」と澤崎社長は強調する。
 ■気になる薪の調達
 いざ稼働となった時、気がかりなのは薪の調達。澤崎社長によると、一般的に一冬越すには2―4トン必要だという。
 薪には向き不向きがある。県内山林の多くを占める杉などの針葉樹は燃えやすく薪には向かないといわれてきたが「焚きつけには適していて、薪としても混ぜて使う分にはさほど問題はない。むしろ本県の山を考えると杉を有効活用すべき」と澤崎社長は話す。
 県内でも近年扱う店が増えている。店や木の種類によって異なるが、1束約8キロで400―600円が相場。1トン単位や丸太の輪切りでまとめて購入すれば、お得だという。
 端材を無料で譲ってくれる製材所などもあり、地道に訪ね歩いて調達する人も。その他、ホームセンターでは、古新聞を圧縮して薪にする紙薪作り機や、おがくずを圧縮した薪など、環境にも財布にも優しいユニークな薪が登場している。
 ■ネットワーク
 薪を安く手に入れる方法といえば、何といっても「もらう」だろう。公園や街路樹の伐採現場など、木が積まれた場面に出くわせばチャンス。業者に断れば無償でゲットできる。それには「情報」が大切といわれる。
 より広範囲で情報を得るには、愛好家によるネットワークが効果を発揮するようだ。「ふくい薪割倶楽部」がその一つ。2002年4月に発足し、現在、福井市内を中心に約30人が参加している。普段からこまめに木の出る現場をチェックし、現場関係者らの承諾を得た上で木材の種類や量などの情報をメーリングリストで流す。指定の日時に集まったメンバーで木の切り出しや原木の運搬、玉切り作業を行っている。
 同倶楽部の木下義和さん=福井市=は「大人数で作業をすれば楽しい上にたくさんの薪が手に入る。薪ストーブ購入から5年たったけど、いまだに薪代は0円」と胸を張る。
 詳しくは同倶楽部ホームページ(http://www7a.biglobe.ne.jp/〜fki−woodchoppers/)まで。

2009年1月22日(木曜日)

 (10) 【シリーズ・循環に生きる】 

    続・火のある生活
 
七輪が生む 豊かな時間
田中保士・美智子さん(越前市)
 

 特段大きな囲炉裏(いろり)がなくても、街中の普通の家だって、日本古来の炎のある生活は再現できる。たとえば倉庫や蔵にほこりをかぶっている七輪(しちりん)や火鉢。それらを持ち出し、炭に火を入れるだけで生活は変わっていく。のんびり、ぬくもりを宿す家へと。

 
炎に安らぎ 夫婦の食事 うまさ格別
引かれた炭に達人の心意気
 
 ずっしりと重そうな七輪。その内部で幾つも重なった炭が競うようにオレンジ色に染まる。
 「さあ、そろそろ食べごろだろう」。田中保士さん(68)=越前市国高2丁目=は笑みを浮かべ、網の上にある陶器のふたを開けた。やや半熟の目玉焼きができあがり、ジューっと香ばしい音を立てている。

七輪が生む 豊かな時間

 「これはイギリス式の陶器。この中で卵を焼くのが、向こうの伝統のやり方らしいんだ。たまにはこんな、しゃれた食べ方もいいと思ってね」。中に少し油を垂らすだけで、あとは炭火が料理してくれる。じっくりと。「それが、まろやかないい味になる」
 秋口から春にかけて田中さんは、自宅の一室で妻の美智子さん(64)と七輪を囲むのが、生活の楽しみとなっている。
   ◎ ◎ ◎
 パチッ、パチッ、耳を近づけると、炭が静かにはじける音が聞こえる。「この炎を見ると、なんだかほっとする。郷愁みたいなものがくすぐられるのだろうか」。田中さんは、重く黒光りした火箸(ばし)で炭をつつき、しみじみとつぶやいた。
 太古から人は、家族で火を囲んで暮らしてきた。「それと比べたら、小さな七輪の火だけど、この上に野菜でも何でも冷蔵庫にあるものを載せるだけで不思議と食欲がわいてくる」。もちを置くと、その火力でぶわーっと膨れ上がる。「見てるだけでおいしい。じゃあ次は焼きおにぎりを、次はあれを、といった具合に、ついつい予定より多く食べてしまう」
 「食べ終わった後も、炭の美しい赤を見ていると会話が和やかになって、腰が重くなるの」と美智子さん。夜は炭の残り火の上に鍋を載せ、ダイコン、ニンジン、サトイモなどを入れてじわりと煮込んでおく。朝には野菜のうまみをたっぷり蓄えた味噌汁が楽しめると、満足そうだ。
   ◎ ◎ ◎
 「せっかくだから、こちらも見てごらん」
 案内されたのは自宅横、田中さんが所長を務める環境文化研究所のロビー。直径50センチほどの大きな火鉢があり、炭が焚(た)かれていた。実はこれ、使われないままさび付いた大鍋に灰を入れ、その周りを古材で囲んで手作りした“卓上火鉢”。
 「これがあると、お客さんも喜んでくれてね」
 このように田中さんは、古い民具を探し当て磨きながら再利用している。居間にある古びた火箸や机もその一つ。「高価な装飾品でなくても、無名の職人のものでもいい、使い勝手の良さを追究して磨き上げられた実用品こそが本当に美しいと思う」。そうした品の収集は夫婦の旅先の楽しみでもあるという。
 炭に関しても、この深い味わいに浸るきっかけには、職人の存在がある。

窯から出した炭

権八さんが窯から出してきた炭は、端々がしっかり整い黒く輝いていた=南越前町古木

 権八実さん(76)=南越前町古木。かつて旧今庄町一帯で盛んだった炭焼きの伝統の炎をともそうと、15年前再開した。山中で一人、顔や手を真っ黒に染め、窯と向き合っている。田中さんは、ライフワークとして取り組んでいる里地里山や川の環境保全活動の中で、権八さんと出会った。
 「昔は炭焼きが山を守ってたんや」。会うたび、権八さんの口から出てくる言葉が心に響く。
 木にとって勢いがあるのは、芽が出てから成長する3、40年間といわれる。炭焼きでは、伝統的に雑木は無作為に刈るのではなく、山の斜面を区分けし、順次刈り取る手法をとる。刈った一帯は明るくなって土壌も活性化し、株の上に出た芽が成長する。「そうして30年後、再び最初に刈った場所に戻ってくるんや。何代も何代も、そうやって森を元気にしてきた」。熱っぽい語り口に引きこまれ、好んで権八さんの炭を買い続けている。
   ◎ ◎ ◎
 「さあできた。欲しいだけ持ってけ!」。半月余りかけて焚(た)いた窯が開くとき、中から端々まで砕けないまま、でんと黒光りした炭が顔を出す。田中さんは、つーんとした香りに圧倒される。
 寒い夜、七輪に手をかざしていると、山を守る達人の気概を込めた炎が、ゆらゆら揺らめく。「それを見ると不思議な満足感を覚えるんだ」。湯船にも炭を入れる。その香りに包まれて、1日の疲れを癒やす。何とも言えない良き瞬間だ。
 
灰の力 実はすごい
あく抜き、肥料… 油汚れ 効果てきめん
取材で続々 先人の知恵
 
 囲炉裏や火鉢を使ってできた灰には、実は現代人が忘れかけた不思議な力がたくさんあるのをご存じだろうか。取材を進めていく中で、達人たちが灰に関する先人の知恵をさまざま教えてくれたので、ここで紹介しよう。
 ■磨けばピカピカ
 「洗剤なんてなかった時代には、器も床もみんな灰で磨いてね」。そう話すのは、「再利用術の巻(2)」に登場した鯖江市の丸山敏子さん(80)。油のぎっとり付いた皿は、灰を直接まぶし、水ですすぐだけできれいさっぱり汚れが落ちるという。
 実際に目の前で洗ってもらうと、泡こそ立たないものの、皿の油汚れも急須や湯飲みについた茶渋もするりと落ちた。キュッキュと音がなるほどきれいに。
 さらに頑固な汚れには、灰に水を注いで1時間ほど置いた上澄み液「灰汁(あく)」を使う。見かけはうす茶色の液体で、触るとぬるりとした感触。換気扇の羽根やガスコンロの五徳は、浸しておくだけで灰汁が真っ黒になるほど汚れが落ちるという。

丸山敏子さん

灰を使って五徳を磨く丸山敏子さん。頑固な油汚れもピカピカ=鯖江市河和田町

 「昔は囲炉裏で家の中はすすだらけ。年末の大掃除には灰や灰汁で磨いて新年を迎えたのよ」と丸山さん。家の改修をして囲炉裏がなくなってからも、雪つりに使う縄を燃やしたり、薪(まき)ストーブで出た灰を袋に詰めて保管。少しずつ大切に使っている。
 「白木の棚に付いたシミがどんな洗剤でこすっても落ちないの」と困っていた友人の目の前で灰汁をつけてふいたところ、生まれ変わったようにきれいになったと、喜ばれたという。
 ■調理にも使える!
 「灰が体に入っても安全ということを経験から知る先人は、調理にも灰を使っていたんや」と話すのは、池田町の山小屋で囲炉裏のある生活を送っている内藤緑さん(62)=「再利用術の巻(9)」で登場。
 今では重曹(炭酸)を使うのが一般的な山菜のあく抜きだが、「山菜をバット(平たい皿)に載せ、その上にふきんをかぶせて、灰をまんべんなく広げる。一晩水に浸せば、風味もしっかり残り色鮮やかに仕上がる」という。
 灰は庭木や農作物の肥料にもなる。福井市美山地区特産の赤カブラも、灰の効用を利用した焼き畑農法で作られている。
 ほかにも陶器のうわぐすりや酒造、染色、製紙、コンニャクの凝固剤、めんなどの食品加工…数え切れないほど幅広い分野で使われていた。昔は家庭から出た灰を回収し、染物屋などに売る「灰問屋」という業者もあったという。
 視点を炭に広げれば、脱臭や調湿効果は有名。さらに、風呂に入れれば「体がしんから温まって湯冷めしにくい」(権八実さん)。内藤さんからは「昔はよく、保管していた炭の上にわらを敷いて昼寝していた。すると、背中がぽかぽかして、体が浄化されるように気持ちよかった」というエピソードも。
 暮らしの変化とともにその多くは化学合成物質に取って代わった。「灰一つにも先人の知恵が詰まっている。だから、ほんのわずかでも無駄にはできないの」と語る丸山さんの言葉には、深く考えさせられるものがあった。
 (ふくeライフ取材班・土山実穂)

2009年1月15日(木曜日)

 (9)【シリーズ・循環に生きる】

 
炎のある生活 再び
長谷川浩さん(池田町)

 

 暗い板の間にあかあかと一つの炎が揺れる。その昔、多くの家庭にあった囲炉裏(いろり)。そこにはゆったりと豊かな時の流れがあった。森の恵みを燃料に、家族や仲間たちが囲んで暖を取り、談をはぐくんだ。深夜、薪のかけらが小さな残り火となり、灰となるまで―。

 
燃料の宝庫 山を生かしたい
工房に囲炉裏 自然との一体感 「心地いい」
 
 池田町の魚見川上流。蛇行する川に沿って木立に囲まれた細い山道が続く。

炎のある生活 再び

 彫刻家、長谷川浩さん(40)は12年前、深い山あいのこの地に工房を建て始めた。譲り受けた古民家の材料を使い、木造2階建ての建物をこつこつ造っている。「今も未完成。一生掛けて出来上がればいいなと思って。いわば池田のサグラダ・ファミリアです」と笑いながら話すほど気の長い作業を続ける。仕事の合間にできる範囲で手を掛けながら。
 「大自然にどっぷりつかって生きていきたい」。そんな人生の目標に向かって一歩ずつ歩んでいる。
 2階には「これこそ人生最高のぜいたく」というほどの宝物がある。3年前、幅1メートルほどの分厚い木材を四角形に組み、床にはめて完成させた囲炉裏だ。暖はこの囲炉裏と薪ストーブに頼っている。

木を切る長谷川さん

燃料調達のため間伐で倒れた木をチェーンソーで切る長谷川さん

 寒い夜、仲間たちが集うときは、薪や炭を焚(た)く。「自然の火っていうのは、熱が体のしんまで届いて暖かくなる。太陽のようなぬくもりがあって、ほんと心地いいんや」
   ◆ ◆ ◆
 自宅は一つ森を隔てた魚見集落にある。そこにも子どものころまで、囲炉裏があった。
 夕暮れになると、あちこちの家から煙が立ち上った。囲炉裏を囲むと、炎に照らし出される祖父母や父母らの笑顔があった。「そこでいぶした干し柿はおいしかったなあ」。夜、囲炉裏の火を見つめていると、懐かしい記憶がよみがえる。
 あの暮らしをもう一度―抱いてきたあこがれを現実の行動に駆り立てたのは、同郷の先輩、内藤緑さん(62)=鯖江市=との出会いだった。
 内藤さんは大病を機に古里の山に小屋を建て、2、3日おきに通いながら炭焼きや猟をして、のんびり暮らす生活を送っている。小屋は長谷川さんの工房にも近く、「おーい、ごっつぉあるで食べにこいやー」。よく招いては趣味の料理を振る舞ってくれる。
 小屋の1階中央にあるのは囲炉裏。よく乾いた広葉樹を惜しげもなくくべてシシ肉をあぶったり、煮炊きをする。「昔はこの辺りの川の水が盛り上がるほどに魚がいたんや」「あのマムシでも、捕まえて内臓をあぶると、これまたうまい…」。メラメラと燃え上がる炎の前で酒を交わすと、わいわい話は盛り上がる。
 夜の更けるのも忘れ、とろとろ時間が流れていく。
 「どうや、火を囲んでいると、腹は立たんし、悪い発想も浮かばんやろ」。優しい目で語り掛けてくる内藤さんの生き方が、何とも豊かに映る。
   ◆ ◆ ◆
 晴れた日、たまに長谷川さんは近くの森へ行き、チェーンソーを手に汗を流す。
 輪切りにしているのは間伐で倒されたままの杉の木。あるときは、林道などの工事現場に出掛け、廃材として山積みになっている木を譲り受ける。それらを木彫りの材料や燃料用に持ち帰る。
 なにせ、木材だけで暖をとろうと思うと、大量の薪が必要になる。「うちの古い薪ストーブなら、一日中しっかり焚くと、杉ならミカン箱8箱分くらいになるかな」。半年余り焚いた昨冬は、厚着を心掛けても薪ストーブ2台で軽トラ約5杯分もの薪を燃やしたという。さらに薪を割る作業、灰の始末もある。この生活には「それなりの覚悟もいる」。

工房

一面森に囲まれた魚見川の渓谷に立つ長谷川さんの工房。古民家の資材を再利用し建築中

 でも、苦労とは思わない。「薪は地球の恵みだから」。ありがたく使わせてもらったら再び植林や間伐などで新芽の成長を手助けし、山を育て恩返しする。そこにこそ、自然と一体になったすがすがしさがある。「少なくとも、使えば枯渇するだけの化石燃料を使う生活にはない…」
 山に入ってつくづく感じるのは、「池田はすごい資源の宝庫なんだってこと」。面積の9割超を森林が占める同町。「大量伐採せずにちゃんと管理すれば、ずっと使える燃料が無限にある」
 最近は、知人が「これ使うか」と間伐や建設現場などで出た木をわざわざ持ってきてくれる。中には「木を切っても売れんし、好きなの間伐して持っていきね」と声を掛けてくれる人まで。そんな心遣いがうれしい。
 「こんな山奥なのに、地域の資源を生かし、助け合っていけば、十分幸せに暮らせるんだなあ」

2009年1月8日(木曜日)

 (8) 【シリーズ・循環に生きる】

 
農の恵み 清らかに家を飾る
伊藤美智子さん(坂井市)
 

 自ら手を掛けた産物が家を飾り、食卓を潤す。そこには人の営みと自然が絡み合い、互いに恵みをもたらす「循環」があるたとえ海や山、田畑から離れていても、その一部でもいい、現代の生活に取り入れてみよう。きっと忘れかけていた楽しさ、そして大切な何かが見えてくる。「今の時代にはむしろ、ぜいたくなんやよ」。土と生きる女性からはそんな声さえ聞こえてくる。

 
緑鮮やか稲わら 友人と楽しくしめ飾りに
かきもち干し年間のおやつ
 
 コーン、コーン―。薄暗い農舎の土間から木槌(づち)をたたく乾いた音が響いてきた。
 「これをやらんと、正月は迎えられんでの」。農家の主婦、伊藤美智子さん(72)=坂井市坂井町下関=が手に抱えていたのはわらの束。たたいて柔らかくしているのだという。

農の恵み 清らかに家を飾る

 かつて盛んだった冬季のわら細工。各地で次々と姿を消す中、伊藤家では今も年末になると、昔ながらの手作業でわらを仕込み、しめ飾りを作っている。今年の正月も玄関や農舎、水回りなどを清らかに彩った。
   ◆ ◆ ◆
 農舎に入ると、整然と並べられたわらの束が目に入ってくる。どれも高さ1メートル超。自宅の田んぼで収穫したものだ。
 どのわらも背筋を伸ばすかのように凛(りん)と立ち、今まで生えていたかのような青々とした色。そして何より、豊かな香りを漂わせる。
 かつて米俵や畑の肥料、火葬用に使ったわらは、色が黄色に抜けても問題なかった。「ほやけど、年の瀬を飾るしめ飾り用は、美しい緑色を生かしたいでの」
 そのため伊藤さんは、しめ飾り専用に「タンチョウモチ」というもち米の一種を栽培する。その稲はしなやかでいて粘りがあり、強い力でねじり上げるしめ縄づくりに適しているという。植える場所は田んぼの真ん中ではなくあぜ付近。「近くに道とか高いものがあった方が、日に当たろうと背が伸びてくれるから」。稲の習性を巧みに見抜いての選択だ。
 収穫後も太陽にはさらさず、天気の良い日に農舎で陰干し。「地べたに置くと空気が通らず、地面に当たる部分が赤くなってまうから」とさおにかけたり、はしごを倒した上に置いたりと、手の込んだ作業を繰り返す。
 いったんしぼみかけたわら細工に本格的に取り組み始めて23年間、試行錯誤を重ねた末の“上質わら”の仕込み方だという。できたわらは、11月の新嘗祭で神社のお払いを受け、感謝をささげる。

しめ飾りの制作を楽しむ伊藤さん(右)

友人たちと一緒に、しめ飾りの制作を楽しむ伊藤さん(右)=坂井市坂井町下関

 今やしめ飾りの出来栄えは近所の評判を呼び、「一緒にやらせて」と毎年、年末になると伊藤さん宅に仲間が集う。農舎の中はいつも、手を動かしながらおしゃべりをする女性たちの笑いが絶えない。
 「気の置けない友達と楽しく過ごせる。このひとときが毎年楽しみ」。近所の和をも深めてくれた。
   ◆ ◆ ◆
 「さあ、これでも召し上がって」
 台所から戻ってきた伊藤さんは、熱く湯気が立つほどほかほかの、自家製のかきもちを袋いっぱいに持ってきた。
 年末に夫と二人で、きねとうすでついたもち。固くなった後に薄い長方形に切り、農舎で陰干しした。春先、かりかりになったところで缶に入れ、密封して保存食として使っている。
 「これが私らのおやつなんや。食べたいときに食べたい量だけ出して、さっと油に通すだけで、簡単にできるんやよ」
 口に入れると、もちが砕け散るとともにほんのりと甘みが広がる。
 「塩しか入れんけど、甘いやろ。もち米の自然なうまみやろね」と目を細める。

かきもち

伊藤さんがわらで編んだかきもち。乾いた春以降は、油に通して菓子として味わう

 かきもちの乾燥はこれからの季節が本番。十数枚を縦一列に、3本のわらを編みながら一気に巻き付け、柱につるす。ここで使うわらも、しめ飾りで余ったものだという。「わらって、クリスマスリースにもできる。ほやで最後の1本まで残さず使い切るんやざ」
 かきもちをつるすのにわらを使うのは、湿気を吸収してくれるから。ナイロン製に比べ、縛った部分にカビが生えにくいのだという。これも代々受け継がれてきた知恵だ。
 もち米は毎年、5―10臼(15―30キロ)ほどつく。夫婦2人の1年間のおやつには十分過ぎるほど。伊藤さんはついた中に豆やゴマ、小エビ、シラスなど家族の好みに応じていろいろな食材を混ぜる。「すると、出来上がったときの楽しみが一段と増すんや」
 米だけではない。食べるものは、なるべく自宅でとれたものを使う。「スーパーで買うのは、足りんときだけ。うちで無農薬で育てたもんは、やっぱおいしいでの」
 白菜や大根は、順次漬物に。みそも自家製の大豆で仕込む。「孫が“ばばみそ”や“ばばつけ”はおいしいって。ほやで嫁いだ娘がよう取りに来るんやわ。それがうれしい」
   × × ×
 再利用術の巻、今回からは現代の生活であまり使われなくなった里・山の資源の“再利用”に焦点を当てていく。かつてあった「循環」を巧みに暮らしに取り入れながら、すてきに楽しく生きる人たちを追う。

2008年12月25日(木曜日)

 (7) 

 
野の草花 家に安らぎ
フラワーデザイナー・上木美枝さん(越前市)
 

 土手や道端に生える草花。車に乗っている時は意識さえしなかったけれど、たまに散歩に出掛けてみると、さりげなく咲くその存在に気づく。たった一輪でも、葉の一枚でもいい、花瓶に挿せば部屋に清らかな色合いでアクセントを与え、住人を美しく迎える。

 
階段や廊下 さりげなく一輪
紅茶にはミントの葉、デザートにも
土手や道端の表情 優しく摘んで

野の草花 家に安らぎ

 
 ずっしりと重量感のある青磁の火鉢。上に置かれた鉄瓶から、ノイバラの真っ赤な実がつるとともに顔を出している。鉄の深い黒との対照が美しい。
 「散歩していたとき、河原にいっぱい生えていた。こうして飾ると、きれいだろうなと思って…」。自宅の座敷でフラワーデザイナー上木美枝さん(27)は、うねるように伸びる緑色のつるをさわりながら、柔らかな笑みを浮かべた。
 「冬の今だって、目をこらせば、かわいい花びらや実が、落ち葉の横に身を潜めている」
   ★ ★ ★
 越前市中心部に近い村国山。古くからの家並みが広がるふもとの一角に、上木さん宅はある。
 木造2階建て。1階に和室や台所が田の字型にあり、いかにも昭和期の、町中によく見かける建築。古びた家に上木さんは、市内の親元を離れ一人暮らしをしている。
 借りた当初、座敷には畳もなく、照明も外れていた。天井にはクモの巣。大家さんは「前の人が出て行った時に壊そうと思ってたんや。あなたみたいな若い子が本当にここに?」と気遣ってくれたほど。
 「でも、こんな日本的な家が好きだった。母方のおばあちゃんの家がそうだったから。太くて黒い柱があって、畳や障子…。薄暗かったけど、それが妙に落ちついて」
 床や柱を丹念に磨いた。床の間に掛け軸、隣には古だんす、日本画のついたてを置いた。縁側にある碁盤は木製の重厚な造り。黒ずみ、いかにも年季が入った…。いずれも母方の実家を改築するとき、祖父母が生前使っていたものを譲り受けた。それらの上に、土色をした越前焼の花器を置き、季節の花を生ける。

窓際に草花を添える

窓際は、冬のこの時季もおしゃれなカップに草花を添え、古布で彩る=越前市

 夜は、あえて天井の明かりをつけず、和紙でつくったあんどんで照らした。「すると床の間や火鉢がぼーっと黄色く浮かび上がって、その中に花があると、『おー、かっちょいー』って思う。遅くに仕事から帰ってきて、こたつでくつろぐと、花が世間から遠ざけてくれ、自然に眠くなる」
   ★ ★ ★
 座敷以外にも、階段の一段一段や廊下の壁、窓枠、家の至る所に花や木の実を飾る。花器には、欠けた皿や茶わん、醤油(しょうゆ)さしなども活用する。その下に古布を敷き、脇には青竹を添え、和紙のランプで照らしてムードを出す。
 「花は特段、華やかなものでなくてもいい。むしろ家の周りにある何げない草花の方が、こうした家には似合うと思う」。家に飾るほとんどは、近くの山や川を散歩して摘んでくる。
 「これはミントの葉。道端の土手にあって…。鼻を近づけるとほのかに香るでしょ」。花がなくても、形が美しいアケビやシャガなどの葉を飾るだけで部屋は引き立つ。「花や葉の一つ一つに表情があって、そんな出合いが楽しい」
 普段は見向きもされない草花だけど、最後の最後までけなげに花びらを広げる。そんな生命力に励まされ、優しい気分にしてくれる。「なんて落ち着くんだろう」。友達もそう話し、好んで遊びに来てくれる。すきま風が吹き込む寒い家なのに…。

地蔵堂

散歩の途中、心を温めてくれる地蔵堂。すぐ横の道端には、ミントの葉が顔をのぞかせていた

 夕食は鍋を囲み、デザートの皿には摘み取った草花を添える。紅茶にはミントの葉を浮かべて香りを楽しむ。庭先に群生するドクダミは、摘んでガーゼにくるみ、風呂に入れる。「入浴中、顔になでると肌がつるつるになって」
   ★ ★ ★
 春の朝、玄関を出ると白いものがゆらりと落ちてきた。山の斜面にある桜の花びらだった。
 6月の夜、車のライトを消すと、ホタルが舞っていた。
 朝の散歩では年中変わらない、いい光景に出合う。村国山登山口にある地蔵堂。大小幾つもの地蔵が、赤や紫のかわいい布をまとっている。毎朝、近くのおばあちゃんが来て、きれいにほこりをはたいている。
 「いい所に住んでいるな」。日がたつにつれ、心からそう思うようになっている。=次回は1月8日=

2008年12月18日(木曜日)

 (6) 

 
希望の灯 この手で
笹原和美さん(福井)
 

 照明って、いつのころから部屋全体をこうこうと照らすようになったのだろう。小雪の舞う夜、闇に浮かぶあんどんを見つめると、ふと、そんなことが脳裏をよぎる。家や町を温かく彩り、心を和ませる淡い炎。ときにそれは、明日への希望の灯ともなっていく。

 
ちょっと光を落としてみると 部屋は美しく 癒やしの空間に
町を、心を、和ませて 流木使ったあんどん
真っ赤な夕日の 美しさなぞり
 
 遠く海の水が紫色に染まると、浜辺の集落の窓から一つ、また一つと明かりがともる。
 「小さいころから、つらいことがあると、海岸や家の2階の窓から真っ赤な夕日を眺めて、心を落ちつかせていた。この光も、夕日の柔らかな雰囲気に似ている…」

希望の灯 この手で

 笹原和美さん(29)=福井市免鳥町=は、石段の上で幾つも揺れる明かりをうっとりと見つめていた。
 海へと続く集落を見渡せる高台。八幡神社に笹原さんは4年前、手作りのあんどんを寄贈した。
 高さ30センチほどのものを約70基。裏山に茂る竹を切り、彫刻刀などを使い、約2カ月掛けてこつこつ作り上げた。
 「正月が来るたび、何で多くの人が遠くの大きな神社へ初詣でに行くのか、不思議だった。近くのお宮さんをいいムードにして盛り上げたいなって話したら、友達も喜んで手伝ってくれて」
 大みそか、鳥居から拝殿にかけて並べてみた。夜になると、ろうそくの明かりが列になって表面の四角い穴から漏れてきた。近所の人たちが「いいね」「きれいだね」って喜んでくれた。
 「明かりに浮かび上がるみんなの笑顔がうれしかった」。思い出すたびに心温まる大切な記憶―。
   ◆ ◆ ◆
 もともと、絵を描いたり、工作が好きだった。その年、ランプシェード作家を紹介する新聞記事が目に留まった。写真にあったのは、和紙を通して放たれる電球のふんわりとした光。「それを見て、これだって思った」

八幡神社の階段

八幡神社の階段に飾られた手作りあんどん。淡いろうそくの明かりが古い空間を彩る=福井市免鳥町

 ちょうどそのころは、つらいことが重なり、気持ちが沈んでいた。そんな中で出合った和紙を通した光の色合いは、忙しくてなかなか見られなくなっていた夕日と同じだった。すぐに作家のもとを訪れ、弟子入りを志願した。
 その冬は、たまたま母が応募した水仙娘にも選ばれていた。年明け、活動の一環で南越前町にある北前船主の館「右近家」を訪れたとき、目にしたのは、明治期の切妻造りの家屋や蔵。「何てすてきな雰囲気の家並みなんだろう」。ここにはきっと、流木で作ったあんどんが似合う…直感的にイメージした。
 川から海へ水面を果てしなく漂う流木。浜に打ち上げられると、だれの気に留まることなく朽ちていく。水辺に材料は限りなくある。「流木を使ったあんどんでここをライトアップしたら…」。提案すると、地元の人たちは目を輝かせた。
 河野地区で毎春開かれる「うめまつり」に合わせ、右近家の家並みを明かりで彩るイベントを―そんな計画が一気に進み始めた。
 早速、浜辺や九頭竜湖、足羽川沿いを歩きながら流木を拾っては磨いた。四角く組み合わせ、和紙を張って作り上げたあんどんは6基。まつりの日、夕日のシルエットが闇に変わるころ、ろうそくが和紙に映る赤や黄の明かりが木造の家並みを優しく包み始めた。人々が足を止め、あんどんを見つめる。大みそかに見た同じ表情だった。
   ◆ ◆ ◆
 仕事で「ほとんど自分の時間がない」という今も、たまに自宅でランプシェード作りに没頭する。「すべてを忘れさせてくれる大切な瞬間だから…」

「右近家」の家並み

流木を組み合わせたあんどんが「右近家」の明治期の家並みを赤や黄で彩った=2005年、南越前町

 目指すのはいつも、あの夕日の色。完成した多くは友人にプレゼントするが、お気に入りの幾つかは部屋に飾る。心が疲れた夜は天井の照明を消し、あんどんの明かりだけで過ごす。
 薄暗いようだけど、慣れると意外に暗さを感じない。そして何より、間接照明で家具や壁を照らすと、陰となった部分の黒が空間の深みを出して美しい。「まるで別の部屋にいるみたいに」。うっとり、ぼんやりとした光を見つめていると、緊張がほぐれ、自然と眠りについていく。
 「そこでアルバムを眺めたりすると、今のわたしがあるのは多くの出会いや支えがあってこそなんだって、なんだか、前向きになれる」
   ◆ ◆ ◆
 深夜、だれもいない通りを歩くと、街灯が青白い光を放ち、各家の窓から幾つもの明かりが漏れてくる。コンビニの窓、自販機が明るく光っている。
 「今と違って昔は、家族で1本のろうそくを囲んでいたんだろうな…」―部屋の光を落とすようになって、見えてきたものがある。

2008年12月11日(木曜日)

 (5) 

 
古い着物に 新しい命
義野陽子さん(勝山)
 

 生活から着物が消え始めたのはいつのころだろう。気になっていた祖母の古びたたんす。こっそり開けてみると、中には色あせたかすりや帯がぎっしり詰まっていた。素朴な普段着だけど、どこか引き込まれる深い色合い。そこには先達の織り、染めの意匠が注がれ、ときに娘、孫へと大切に受け継がれていった。ほどいては縫い合わせ、またほどき…、汗と思い出をにじませながら。

 
近所のおばちゃんや 祖母から譲り受けた 思い出の一枚
着付けは5分。毎日ジーンズ感覚
 
 コトコト、コトコト…。板張りの壁の向こうから、そば粉をひく臼の音が響いてくる。

古い着物に新しい命

 かつて国内有数の繊維産地として栄えた勝山市。当時の面影をとどめる中心部の細い路地が入り組む一角に、1軒のそば店がある。「いらっしゃい」。のれんをくぐると、調理場横のカウンターから店主の娘、義野陽子さん(39)が柔らかな笑顔をのぞかせた。
 身にまとうのは、紺色のウールの着物。
 実は義野さん、着物に関しては勝山でちょっとした有名人だ。
 「どうぞ、ご覧あれ」
 店舗兼自宅となっているそば店。義野さんは奥の押し入れから衣装ケースを持ち出した。
 引き出しを開けると、紅や紺、黄、緑など色とりどりの着物や小物がぎっしり。「着物は100枚はあるかな」。自慢のコレクションだ。
 ただし新品はわずかで、手持ちの9割はいただいたものだという。
 「これはうちのおばあちゃんから、こっちは近所のおばちゃん…」。一枚一枚手にしては、解説する。
   * * *
 着始めたのは8年前。趣味で始めた「織り」をきっかけに、着物に魅入られた。
 当時は制服がある会社勤めだったため、休日だけ着物を着るようにしてみた。7年前、家業を手伝うようになってからは、毎日欠かさず着ている。休みの日、友達と一緒にいる時も、県外に出掛けるときも。
 「うちは子どもが男しかいないから、着物を着てくれる人がいなくて」「あなたならきっと着てくれると思って」―。いつしか店の常連さんや近所のお年寄りが、自分が着なくなった普段着用を分けてくれるようになった。

着物姿で出かける義野さん

店の前を普段着の着物姿で出かける義野さん=勝山市内

 「ちょっと布が弱ってても、この生地一枚に、いろいろな思い出があるんだろうな、と思うと、ありがたくて」
 2年前の夏、横浜で行われた妹の結婚式に出席する際、移動中に「気が向いたから」洋服を着てみた。でも流行があって長く着られない洋服の限界を痛感した。
 「仮にキャミソールだったら、同じ夏でも暑い盛りだけ、ほんの短い期間しか着られない。着物だったら2カ月ぐらいは同じ物を着られるのに…」。それきり、洋服は完全に着なくなった。
   * * *
 着物を着ていて気づいたのは「多少の温度変化には耐えられること」。夏は風通しがよい木綿など薄物、冬は熱が体内にこもりやすいウール地などを使い分けて重ねる。
 特に真夏、室温が50度近くまで上がるそば店の調理場では、木綿のありがたさを痛感する。
 「それにね、木綿もウールも洗濯機やコインランドリーで洗える。その手軽さも魅力かな」
 着物は着付けが面倒な作業。でもそれは、面倒なじゅばんや帯を省略することで克服した。肌じゅばんに日本手ぬぐいを縫いつけ、それをえり代わりに。帯の代わりにだて締めで止める。「上っ張り(上着)を羽織れば、多少の省略は気にならない」
 着付けにかかる時間は今や5分少々。「Tシャツとジーンズを着る感覚かな」と笑う。
 そして何より、引かれるのは、「着物には無駄なところが何一つないところ」
 体の変化に合わせて何度も仕立て直す着物だけど、反物には最小限のハサミしか入れない工夫が施される。糸をほどくとまた反物に戻る。祖母から母、そして娘へと受け継がれてきた技。日本文化の奥深さを感じる。
 そんな先達の心意気を感じ、これからもずっと着物と付き合っていくつもりだ。
 
記者も体験してみました ▼ ▽ ▽
 
 以前から着物を粋に着こなす女性に、あこがれを抱いていた。「Tシャツとジーンズ感覚で着られるから」。そんな義野さんの言葉で「それなら私にもできるかな」。母の着なくなった普段着用の着物に袖を通し、休日をゆったり、過ごしてみた。(文化生活部・土生(はぶ)仁巳)
 
軽やか つややか あったか
自分の存在、ワンランクアップした気分
 
 「長いこと着てなかったで、こうやって着てくれるとうれしいわ」。母は大喜びで冬用のウールの着物を貸してくれた。母は嫁入りの際に、訪問着や喪服だけでなく普段着用にも着物をこしらえたが、なかなか着る機会に恵まれずにいたという。
 帯板は省略し、帯も面ファスナーで止める簡単なもの。足袋の代わりに五本指の靴下にするなど、随分簡略化した着方だが、直前まで着ていた1980円の安い普段着よりは、ずっと粋な姿だ。普段猫背だが、着物を着ると背筋が伸びる。2歳半の長女は「ママ、かわいい」と言ってくれた。小太り、ずんどう、顔が大きいという着物体形が幸いしたのかも。
 自宅のアパートに戻り、さっそく掃除。ダサイ部屋着で家事をするよりも、多少着崩れてもつややかに見える“着物マジック”。今日は恒例(?)の夫婦げんかもない。

意外に動きやすい

着物で外出しても、意外に動きやすくて買い物もスムーズ=福井市のアピタ福井大和田店

 かつて結婚披露宴で色打ち掛けを着たときは全く身動きが取れず、ひな壇で固まってしまったが、普段着の着物は動きやすく、軽やか。掃除機は片手でスイスイ。床掃除も苦にならない。ちらかっていた2DKの部屋が、久々にすっきりした。
   * * *
 このまま家にこもるのももったいない。福井市内のショッピングセンターに一人で買い物へ出かけた。
 雪国生まれのくせに大の寒がり。おまけに低血圧なので、この季節は手脚が全く温まらず、洋服のときは下着2枚、セーターにジャケット、マフラーを着ても寒くてこごえていた。
 だからこの日、外の冷たい風を心配したが、意外にも着物は温かい。特に女性が冷やしてはいけない下半身やおなかに何重にも布が重なるので、むしろ汗ばむぐらいだ。
 この日は小雨交じりだったので、すそがぬれないようにと、祖母が30年前に葬式の際に使ったというもんぺを貸してくれた。もんぺはダサイかな、と思っていたが、実際はくと予想以上にはきやすく、動きやすい。昔は雪かきなどにも重宝したんだろうな、と思った。
   * * *
 店内で偶然、会社の先輩に出会った。「何や、えらいオシャレして。何かあったんか?」と驚かれた。
 お世辞にもここ数年、着こなしでほめられたことがない。それが、着物というだけでワンランクアップ。粋に見てもらえてありがたかった。
 顔なじみの店員さんにも「今日はお出かけですか」など、必要以上に声をかけられた。ただ、洋服店で「よかったら試着してみてくださいね」と言われたのには混乱したが。
 すっかり着物が気に入ってしまい「ヒマになったら、着付け習ってみようかな」とまで思った。母も乗り気で「だったら正月も着ねの。この着物、あげるで」。そんなわけで、正月は母の着物を着た私と、私のお古の着物を来た長女とで、初詣でに出かける予定だ。

2008年12月4日(木曜日)

 (4) 

 
自然持ち込み 癒やしの部屋
山家まりあさん(あわら)
 

 日差しを受けて輝く南国の海は、エメラルド色だった。拾った貝殻は、心地よかったあの瞬間を思い出させてくれる。アロマオイルを添えて部屋に並べると、心の奥にまで届く癒やしの香り。空の青に映えた純白の記憶とともに心身の疲れを忘れさせる。海では何てことない貝殻だったのに…。

 
思い出の貝殻、サンゴに アロマオイル
この枝、写真立てになりそう
 
 扉を開けると、部屋の入り口に置かれた木製のいすが目に飛び込んできた。クマの小さなぬいぐるみや松ぼっくりが置かれた空間は、まるで小さな“展示場”。

自然持ち込み 癒やしの部屋

 あわら市内の自宅を案内してくれた金津創作の森陶芸工房スタッフ、山家(やんべ)まりあさん(31)は、いすの上にあった貝殻をそっと手の上に載せて見せてくれた。
 関東の美術大を出た後、陶芸家の助手として沖縄の工房に1カ月半こもったことがある。「そのときの思い出の品」
 長い髪を束ね、その上に巻いたタオルも、作業着も泥だらけにして土や火と格闘した。ある晴れた日の午後、工房にこもりっきりの様子を見て「せっかくこんなに晴れてるんだから、気分転換に出掛けようよ」と仲間たちが連れていってくれた海岸。白い砂浜に貝殻が点々と輝いていた。砂の間にはヤドカリが担いでいそうな白いとんがり帽子の巻き貝が見えた。目を凝らすと、シジミのような小さな貝やサンゴのかけらもたくさん…。
 「あの記憶を、いつまでも大事にしたいと思って」
 たんすの上にも、砂浜で無邪気にかき集めた貝殻やサンゴが置かれている。透明な皿の上で、かんきつ系のさわやかな香りを放っている。アロマオイルを垂らして、染み込ませているのだという。「真っ白の貝やサンゴって、きれいな造形作品みたい。そこからいい香りがゆっくり部屋中に広がっていくのが心地いい」

フォトスタンド

木の枝で作られたフォトスタンドが、部屋を彩る=あわら市内の自宅

 手のひらほどある大型の貝は、鍵などの小物入れにも使う。お香を入れてたくこともあるという。「貝って、案外丈夫で何度も使えるから、ほかにもきっといろいろ使えるはず」
   ● ● ●
 山家さんが創作の森に来たのは4年前。
 手が空いた休み時間にはたびたび、工房を取り囲む森の中を歩く。
 「あ、この枝かわいい」
 色合いや曲がり方が気に入った小枝を見つけると、自宅に持ち帰る。そして、手作りのインテリアへと変えていく。
 台所の壁にある小枝もお気に入りの一つ。壁の表面に両面テープで接着し、ポストカードや友達との写真、手紙などを挟んでいる。太めの小枝にはS字フックを引っかけ、壁に張り付けて、ほうきやかばん掛けにした。水道の蛇口近くにも枝を取り付け、タオルを掛ける。
 生まれは杜(もり)の都・仙台。「昔から森や林で小枝やドングリ、山菜とかを取るのが好きだった。自然の色合いとか曲線とかって作り出せない美しさだと思う。だから、つい目に留まったものがあると、拾ってしまう」

枝を拾い集める山家さん

落ち葉が散り敷く森の小道で枝を拾い集める山家さん=あわら市の金津創作の森

 飾るたび、部屋の雰囲気が柔らかくなり、そして落ち着く。
   ● ● ●
 初冬にさしかかった森の小道。ふと上を見上げると、色づいた葉のすき間に一瞬、青空が顔をのぞかせた。透き通った青が何ともすがすがしい。
 「外を歩くたび、この澄んだ空気や森、海がある福井にせっかく住んでいるのだから『楽しまないと』って、思う」
 自宅前を竹田川の静かな流れが横切る。夏の川辺では、日差しを背に受けながら魚釣りを楽しむ姿、子どもたちの笑い声も響いた。
 ぴちゃっ―。玄関にはそんな水音が響きそうな大型の金魚鉢を傘立てとして使っている。鉢はガラス作家の友人から譲り受けた。その底に純白の貝殻やサンゴをぎっしりと敷き詰め、来客の目を楽しませる。
 川の見える窓辺にも、使わなくなったガラス瓶を置き、土を入れ、草花を育てている。
 「買ってきたものばかりでも生活はできるけれど、わたしはやっぱり命を感じる自然の物が好き。飾ったのを見たり、使ったりしていると、何だか元気をもらえる気がする」
 これから先、どんな自然と出合えるのか、わくわくする。

2008年11月27日(木曜日)

 (3) 

 
空き瓶だって ゴミじゃない
ガラス作家・高緑由美子さん(あわら)
 

空き瓶だってゴミじゃない

 本当のモノの輝きって、何だろう。例えば、引き出しの奥から出てきたガラス玉。新しいものを買わなくったって、身の回りの素材をちょっと工夫すれば、部屋はすてきな空間に変わっていく。特段上等な家じゃなくてもいい。そう、6畳のアパートの一室でも―。

 
削って着色、おしゃれなペン立て
端材を使えば、すてきなアルバム
CDも壁に飾るとしゃれた空間に
 
 大小の炉がいくつも並ぶ。あられが舞い、冷たい風が吹き付ける初冬だというのに、工房は炎で熱気を帯びている。炉で赤く膨らんだ塊を取り出し、何度もかたどるうちに、きらりと輝くガラスの皿が姿を現した。
 「きれいでしょ」
 あわら市の金津創作の森にあるガラス工房「エズラグラススタジオ」。ガラス作家の高緑由美子さん(38)=東京都出身=は、汗をぬぐいながら作品を見つめた。
 高緑さんを訪ねた理由―。実は、趣味で手掛ける別の作品に「eライフ」のヒントを求めるためだ。
   ◆ ◇ ◆
 工房の片隅に置かれている茶や緑の空き瓶。よく見ると、カラフルに色づけされた絵柄が入っている。
 「もともとは栄養ドリンクやお酒の瓶なんだけどね」

空き瓶もよみがえる

空き瓶も模様を付ければ美しくよみがえる。工房では、おしゃれなペン立てとして活用=金津創作の森のガラス工房「エズラグラススタジオ」

 高緑さんは、ほほえみながら瓶を明かりの前に持っていくと、ガラスの表面がぱあっと光を放った。
 普通なら資源ゴミ行きとなるが「捨てなくったって、彩ればオリジナルの作品になるの」。表面をかわいく模様替えして、ペン立てなどに再活用する。
 工房では砂を使った特殊な研磨機で模様を作るが、一般家庭でもリューター(電気彫刻機)で表面に模様を彫り、色鉛筆で思い思いの色を入れれば、不用品が鮮やかに息を吹き返すと、高緑さんは教えてくれた。ラッカーで定着させれば、色落ちもないという。
 「これなら簡単にできるでしょ。リューターはホームセンターでも安く売ってるしね」
   ◆ ◇ ◆
 高緑さんはこんな技も披露してくれた。
 ドリンクの空き瓶を笛に見立て、飲み口に息を吹きかける。すると「ボォーッ」と低い音が鳴った。
 次は水を入れて棒でたたく。澄んだ美しい音を奏でた。
 「音階別に瓶を並べて指揮者を付けると、ちょっとした演奏会ができる」と目を輝かせる。
 ガラスの破片(端材)も、そのままだと危険だが、電気窯で一瞬、熱すると角が丸くなる。赤、青、茶とさまざまな色が並ぶとビーズみたいでカラフル。
 「ガラスって、割れてもゴミじゃない」。だから、高緑さんは端材も捨てず、持ち帰る。
   ◆ ◇ ◆
 ということは、高緑さんの住まいも…。
 あわら市内にあるアパートにお邪魔すると、期待通りだった。

すてきに壁

すてきに壁を彩った高緑さん宅=あわら市内

 六畳の“作業部屋”に入ると、壁一面に点々と光を放つ円状の飾り。自分が聴きたい音楽のCDを、むきだしのまま壁に張ってインテリアの一部にしている。
 「再利用といえば、これもそう」と見せてくれたのは、おしゃれな手製の茶色いアルバム。
 一瞬、既製品にも見えたが、実は段ボールに古着を切って重ね、その上からガラスの端材を張り付け、とじ穴を開けて作ったものだ。
 「窯での作業って、どうしても服に穴が開いたり、焦げたりするでしょ。そうなると古着店でも商品価値がない。だからこうして使ったらどうかな、って」
 とじひもも、古着に使われていた茶色いビニール製のひもの端に、焦げ茶のビーズを付けたリメーク品。表紙をめくると、写真が張られた台紙が、市販のものより薄いことに気付く。よく見ると、これまた気に入ったデザインのポスターを切ったものだった。
◆◇◆
 家具から家電、収納用品に至るまで、高緑さんの自宅に新品は少ない。
 好きなガラス作品を飾っている白い木製の棚も、実は展示会用に使っていたものをもらった。家族の写真を飾っている白い木製の棚も、後輩が作ってくれたもの。ちゃぶ台も知人から譲り受けた。塗装は薄くはがれ少々がたついている。でも「デザインがいいし、愛着があるから」と大事に使い続ける。
 「かわいいでしょ、この色」と、部屋の奥から出してきたのは、鮮やかな緑色の段ボール。廃材としてゴミ箱行きだったものを拾ってきたという。「これもいずれ、何かの形で作り直したいんですよ」。そうやって考えるのもまた、楽しい作業だ。
 
  × × ×
 
 今週から2回は、金津創作の森の若きアーティストの感性に、すてきな「再利用術」のヒントを得ていく。

2008年11月20日(木曜日)

 (2) 

 
「古き」を磨き 「和」でもてなす
丸山 敏子さん(鯖江)
 

 越前漆器の里、鯖江市河和田町。職人町の風情漂う路地の奥、山の端(は)の一角に築100年を超える古民家がある。昔の趣を残す空間を大切につなぎ、巧みな手芸で彩る達人がいると聞き、訪ねてみた。

 
廃材は捨てずに人形、屏風…
100年超受け継いだ器、今も現役
手作りの温かさに、人が次々訪れる
 

古き」を磨き「和」でもてなす

 
 「せっかく来られたんやで、ゆっくりしていって」
 こけむした石段の上で丸山敏子さん(80)は、にこやかに迎えてくれた。
 奥の座敷に座ると、茶碗に釜の湯をそそぎ、ゆったりと茶を点て始める。
 縁側の向こうには色付いた庭の木々。静まった空間にさらさらと茶筅(せん)を振るかすかな音が響いた。
   ◆ ◆ ◆
 「ふふっ、お茶は素人さんなんや。期待せんといてね」。うっとり見とれる視線を遮るように、丸山さんは話し掛けてきた。
 「このお茶のセットも、わたしが作ったものやから…」

昔のまま保存される玄関

柱などが昔のまま保存される玄関。手作りのついたて(右)や人形(中)が華やいだ雰囲気を醸し出す

 茶器を囲むのは、美しい山並みが描かれた日本画の屏風(びょうぶ)。そのあでやかさから、いかにも新調したかに見えたが、実は結婚のときに使った丸帯を切って張り付けたものだという。
 もう一つ、木枠の屏風がある。これも、知り合いの家で使わなくなったらんまを譲り受け、ちょうつがいでつなげて再生した。
 「これだけじゃないのよ」
 笑みを浮かべて案内してくれたのは玄関。これまた、重厚そうな美人画が描かれているついたては、ふろしきを張り付けたものだった。滋賀県の彦根城にある国宝の屏風絵。観光に訪れた時、精巧に印刷されたふろしきが目にとまり、「何かに使えそう」―。長い間、蔵で眠っていた木製のついたてを、知恵でよみがえらせた。
 玄関正面には、父の代からある振り子式の古時計。同じく、大切に使い続けている古だんすが、どしっと太い黒柱の横に鎮座している。その上や脇に置かれた大小の日本人形は、これまた丸山さんの手作りで、捨てずにとっておいた空き缶や空き瓶に古い着物を重ねたものだという。
 「こんな古いうちでも、人形なんかがあると、ちょっぴり華やいだ気がするでしょ。そう思うと楽しくて」
   ◆ ◆ ◆

振る舞ってくれた夕食

使いこなした朱塗りの漆器で振る舞ってくれた夕食。体が喜ぶような感覚を覚えた

 晩秋の夕暮れは早い。室内に闇が広がると、テーブル脇に置かれた火鉢から炭のほんわかと燃える赤色が浮かび上がってきた。
 「さあ、ご飯できたよ。ほっかほかの炊きたて」
 朱塗りのお膳(ぜん)を抱えた丸山さんが姿を現した。
 器に盛られたのは、すこやラッキョウ、ニンジンの豆あえ、おから…すべて手作りという。
 季節の野菜を中心に、焼き魚を加えた昔ながらのメニュー。「味の付いた加工品は買わない。買わなくてもおいしいものができるから」と、これまでずっと、このスタイルを貫いてきた。
 「特別なごっつぉじゃないけど、食べた人が『丸山さんのおいしいんや』って言ってくれる、それがうれしくて…」
 漆の椀(わん)は、100年以上も前から受け継いできたものを客人用に使い続ける。鮮やかな朱色はほとんどはげることなく、つやを放つ。食事を出すたびに磨いてきたという。
 卓上の焼きサバを食べ終えると、アラを集めて台所へ持ち帰った。頭や太い骨はすぐに捨てずに、みそ汁のだしとして再利用する。

人形

縁側にさりげなく置かれた人形

 「何ともいえんいい味が出るの。ほれ、飲んでみね」
 汁をすすり、むしゃむしゃとご飯をほおばると、丸山さんはうれしそうに微笑んだ。
   ◆ ◆ ◆
 以前、海外に住む長男が帰国した時、京都に住むナイジェリア出身の同僚を連れてきた際もこうしてもてなした。
 「いつも通りのうちの料理を出して、そうやって日本の文化を伝えたいの。食べられなくてもいいと思って。でも彼は喜んでね、息子が家にいなくても何度も遊びに来てくれて」
 丸山さんの漬ける梅酒が大好きで、いつも悪そうに空き瓶を抱えてはやってきたという。
 「最後には、お母さんと呼ばれて思わず2人で抱き合って泣いちゃった」
 そうしていつも、丸山さん宅には近所の人たちや知人が代わる代わる訪れ、語り、食事を共にしていく。
 人を心地よく迎えられるよう、家も庭も毎日少しずつ手を掛ける。
 「人との出会いは勉強。だから楽しいの。この年になってもね、本当に…」

2008年11月13日(木曜日)

 (1) 

 
古き素材 「美」を紡ぐ
陶芸家・幸炎れい子さん(越前町)
 

 紅葉した山々と澄んだ空気に囲まれ、静かな時間が流れる。越前町蚊谷寺の古民家。築80年以上というこの家に自宅兼工房を構えて20年になるのが、陶芸家の幸炎(こうえん)れい子さん(61)だ。

 

廃材を生かし   
こつこつ作り上げた
原風景の心地よさ
 

居間でくつろぐ幸炎さん

年月を経てなお息づく美しい調度品に囲まれ、居間でくつろぐ幸炎さん

 
 
「傷があるとみっともないけど、
この家なら『年輪』という美しさになる」
 
 家に足を踏み入れると、土のにおいが漂う。
 自作の越前焼の花器を並べ、季節の花を生けて「展示室」と名付けた土間。薄暗い空間に、窓から優しい光が漏れてくる。
 天井を見上げると、和紙を張ったランプシェードがほんわかと黄色の明かりを浮かべていた。骨組みは、地元の住民が「霜よけ」として畑作用に使っていた木製のかごを活用したものだという。
 「どう? 新しく買わなくったって、周りにはいいものがあるから」
 部屋の片隅には、寺の改築の際、譲り受けた古だんすが置かれている。居間の押し入れに使われているのも、これまた解体した家からもらったアシの茎で丁寧に編まれたよしずの戸。壊れた部分には、気に入った柄の和紙を張って使い続ける。
 黒ずんだ柱や白壁、漆塗りの格子戸の前に違和感なく溶けこんでいる。
 「つぎはぎって感じはしないでしょ。和紙って自然の素材の柔らかさに合うと思うの。こうやって手を加えるのがまた、楽しくて…」

展示室

木のかごに和紙を張ったランプシェードが輝く展示室

   ■ ■ ■
 古だんすの上には自身の手による越前焼の花器、それに草花を飾っている。家の周りの野山に咲いていたものだという。花器の下にあるのも、使われなくなった古着の帯を切った敷物。色あせて、かすれた色彩がむしろ、焼き物の土色や、たんすの古ぼけた黒をつつましく引き立てているかのようだ。
 それまで薄暗かった室内に午後の柔らかい日差しが差し込んできた。
 黒みがちな室内で、部屋の仕切り用に掛けられた桃色ののれんが、ぱあっと輝いた。名古屋の友人が「きっとこの家に合うと思って」と仕立ててくれた麻の作品だ。
 奥の部屋に腰をおろすと、のれん越しに居間の黒の調度品、そして窓の奥に緑が広がっている。淡い水彩画を見ているよう。
 初めて来た家なのに妙に落ち着き、それでいて心地よくなる。
 「友達はみんな、そう言ってくれる。そうして集まってきてくれるのが、うれしい」
   ■ ■ ■
 入居した当初、特に物置だった2階のほこりや虫がひどく、「住めたもんじゃなかった」。それでもここをついのすみかと決めたのは、夫の思い出がいっぱい詰まった場所だから。
 原因不明の難病、筋委縮性側索硬化症に襲われ、16年前に亡くなった夫の陶芸家、ベン・コーエンさん(米国出身)。1981年から工房として使っていたこの古民家と、ここから見える緑豊かな谷あいの風景を心から愛していた。
 良質の素材を使って先達が手掛け、長年使いこなした家財は、傷つき、はげて、くすんでも、それがまた美しい―。

居間

午後の柔らかい日差しが麻でできた桃色ののれんを照らし、華やいだ居間

 そう話す建築家の手で家を改修した。その時、2階の子ども部屋の天井は思い切って取り外し、柱をむき出しにした。柱の傷も、はげた白壁もそのまま残し、あえて見せる。そして磨き上げた。電球の明かりに浮かび上がる夜の色彩は、海外の建築家の目には「芸術」とさえ映ったようだ。
 「傷があるとみっともないと思うけど、この家だったら違うんだよね。それも『年輪』という美しさになる」
 本当に良いものなら、何度でも再利用に耐える。それを見抜く目を磨き、流行にまどわされず、衝動買いをせず、長く付き合えるものだけを選んできた。その積み上げが今に至っている。
 「私にとっての『美』は、自分の居心地のいい住み方」。畳に和だんす、そして一輪の花。幸炎さんが心から愛する江戸文化の無駄のない美、そして「粋な心」をなぞるように。
 
  × × ×
 
 「福井には古くても生かせる素材、生かしてきた文化がたくさんある」と、島根や京都で育った幸炎さんの目には映るという。良い素材を繰り返し長く使うという、日本文化が持ち合わせていた「美」であると―。ふくeライフ第2章は「再利用」をキーワードに、すてきな生き方を送っている達人たちを追う。

2008年10月9日(木曜日)

 手軽で安くて健康的 ”えきチャリ”でGO!

 
独自の「2人乗り」好評
あわら「創生塾」 石畳を粋に
 
 ガソリン価格高騰による自動車離れや環境への意識が高まる中、移動手段を電車、自転車へと切り替える動きが広がっている。そこで全国的に注目を集めているのが駅併設のレンタサイクル。買い物や観光客向けの需要の高まりを見込み、参入する自治体、企業が増えているという。県内の“えきチャリ”事情はどうなのか。敦賀やあわらなどの各駅を訪ねてみた。
(文化生活部・土生(はぶ)仁巳)
 
 自転車の後部にリヤカーとハンドル、サドルがついた2人乗り。そんな一風変わった自転車を貸し出すことで今、注目のスポットが、えちぜん鉄道あわら湯のまち駅だ。
 芦原温泉活性化に取り組む若手グループ「湯けむり創生塾」が昨夏、駅舎内の一角に5台を配置。1時間500円(3時間1000円、1日2000円、延長1時間につき500円)でレンタルを始めた。「最近の温泉は大人数の宴会より、家族やカップルなど少人数で予約する人が増えている。湯巡りにペアで活用してほしかった」と塾員の笹原修之さん。毎月10―15件の利用があるという。早速、夫や知人家族の計7人で駅を訪れ、体験してみた。

ユニークな2人乗り自転車

芦原温泉街で貸し出されている観光用のユニークな2人乗り自転車=あわら市内

 普段見慣れない後部座席のスタイル。男性たちは見るなり「珍しい」「かっこいい」と興味津々だ。後ろに人を乗せるだけに、最初は「ペダルが重そう」という印象があったが、実際に乗ってみると軽やか。女性の私でもスムーズに乗りこなせ「ハマりそう!」。
 ただ一点、ペダルを逆回転させるとフットブレーキがかかってしまう機能があるため、最初は乗りにくい。でも、マニア心をくすぐられるのか、男性陣は「これ、面白いわ」と少年のような笑顔。
 駅から間もなく、老舗旅館の壁のわきには柳の木、石畳が敷かれたところもあり、温泉街の粋な雰囲気を感じながら走った。車のドライブにはない新鮮な感覚。お菓子屋や湯けむり横丁など気に入った店もたくさん見つけ、全員「また来たい」と喜んだ。
 1週間後、名古屋市の会社員、赤川雄一さん(26)ら夫婦2組が借りに来た。坂井市三国町のワンダーランドまで往復約5キロを走ったという。「初めて訪れたあわらで、こんな珍しい自転車に乗れて楽しかった」と笑顔。風を切りながらの田んぼや丘陵の眺めは、なかなかのものだったという。
 
直流化が転機 年間1000件増
敦賀観光協 海へ街へ45台
 
 「すみませーん、自転車借りたいんですけど」―。週末のJR敦賀駅観光案内所。関西からの新快速が駅に止まると、乗客が続々と有料レンタサイクルを借りに来る。
 1996年、県内でも比較的早い時期から“えきチャリ”を導入している同駅。観光振興策の一環として敦賀観光協会が2時間まで300―400円(以降2時間ごとに200円ずつ上乗せ)で貸し出してきた。特に2006年10月の直流化後は毎年1000件ペースで利用が増え、昨年度は約3800件の貸し出しがあったという。

敦賀観光協会のレンタサイクル

敦賀観光協会のレンタサイクルは年間4000件近い利用がある=JR敦賀駅前

 「関西方面からの新快速は追い風になってますね」と同協会の岸本昇事務局次長。気比神宮や気比の松原などを自転車で巡りながら、健康的に観光を楽しむ人が目立つ。
 高まる自転車人気を受けて今年4月には、スポーツ型を新たに6台追加。レンタル用の保有台数はこれまでの一般自転車(ママチャリ)33台、電動自転車6台と合わせ45台に増えた。「中には、駅から15キロ近く離れた色が浜や水島まで足を伸ばす人もいる」(同協会)そうだ。日本海の青い海、対岸には遠く続く越前海岸のがけ…潮風を受けて走る敦賀湾は想像しただけで快適そう。
 観光以外にも、親子3人で市内の親族に会うために訪れたという兵庫県西宮市の男性(41)は「自転車ならバスを待っている間に好きな場所に行けるし、小回りが利くのがいい」。市内に顧客訪問のため訪れた福井市の会社員、帆谷麻友子さん(24)も「駐車料金を取られる心配もないし、いい汗をかけて一石二鳥」。2人が見せた笑顔が印象的だ。
 
車持たぬ学生 「無料助かる」
えち鉄 10駅に111台
 
 「タダで使えるって友達から聞いて『それなら私も使ってみようかな』って思った」と話すのは永平寺町の女子高生(18)。えちぜん鉄道越前新保駅(福井市)では、レンタサイクルを手にする若者から、こんな声が聞かれた。
 同鉄道は4年前、同市が放置自転車対策として行っていたレンタサイクル事業を引き継ぎ、青色に塗り直したリサイクル品を1回2日間、無料で貸し出すサービスを始めた。現在では市外を含む沿線10駅に111台が配備され、年間1万件を超す利用があるという。「無料ということで学生の移動手段に活用されているようですよ」と同鉄道広報営業開発グループの佐々木大二郎さん。
 同市大和田町の大型ショッピングセンターが近い同駅は最も利用が多く、最多の30台を配備している。「通学用の電車の定期を使えば、お金をかけずに大和田まで行ける。タダなのはありがたい」と同女子高生。
 取材した中には、学校の最寄り駅から放課後、JR福井駅前や友人宅で遊ぶために借りる“したたかな”学生もいたが、同鉄道は「それも乗客サービスの一環」と容認。「福井は駅から歩いて移動できる街のつくりをしていない。自転車で行動範囲が広がり、電車を利用するきっかけとなってくれれば」と期待している。

2008年9月25日(木曜日)


 (14) ケータイ活用術(下)

 
「待ち」がなくなる
テーマパーク 医療 交通機関
 

 朝の医療機関の待合室、人気レストランの夕食時、週末のテーマパーク…並ぶのが当たり前のように思っていた順番待ち。これが、進化する携帯電話とインターネット、電子マネーの融合によって消え始めている。遅れるバスにいらいらせず、携帯を手に余裕でコーヒーを一杯。そんな光景も見られだした。ときに「時間」は何にも換えがたい貴重な財産。その“節約”で、せわしい現代社会で一服のゆとりを得られるのなら、悪くはない。
(ふくeライフ取材班)

 
入場口かざしてスルー
アトラクション 混雑状況チェック
休日に6つ“制覇”も 先行のUSJ
 
 「ゲート付近のアトラクションは、人が最初に入る傾向があるから、入場の波がいったん引く昼間がすいていて狙い目やで」―。
 大阪のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」。坂井市の女性会社員(33)は、遊びに行くときには、関西在住の友人(33)から効率よく回る“裏技”を聞いている。週1回通い詰め「USJを知り尽くす」と自慢の友人。園内の構造や人の動きなどを巧みに見極めて得た経験則だ。
 その友人がもう一つ耳打ちしてくれたのが「携帯を使うと、もっと便利やよ」
  ◆  ◆  ◆
 主要アトラクションの待ち時間を携帯サイトで配信するサービス。わざわざ掲示板を見に行かなくても、刻々と変化する待ち情報を手元に入手できるシステムだ。国内テーマパークでは先行してUSJが導入した。
 混雑した週末、人気のアトラクションは1時間、2時間待ちがたびたび。少しでも順番を先にと、あくせくと並びがちだが「ショーや食事、おみやげ屋さんなんかをゆっくり楽しんで、空いてるときに好みのアトラクションを一つでも多く回っていった方が、お得やんか」というのが友人のアドバイス。
 一方、アトラクションをバリバリ“制覇”するのが楽しみという越前市の女性会社員(24)は、順番待ちの列に並びながらサイトをこまめにチェックし、乗り終えたら素早く待ち時間の少ないところへ移動。「春休みの週末でも、一日に6つ“制覇”できたことがある」と自慢する。アトラクションの合間にパレードや野外ステージのショータイムも戦略的に観賞できて「ケータイは欠かせないかも」と話す。
  ◆  ◆  ◆
 入場ゲートではこんな光景も見られ始めた。
 チケット購入ブースではおなじみの長蛇の列。でも横に目を移すと、並ばずに何人もが入場口をスルー。「えっ、優待者?」。よく見ると、手には携帯―。
 事前に入場券をサイトで購入し、入場口で携帯画面をかざすかプリントアウトしたチケットで入場できる「ダイレクトイン」。USJでは、そんなサービスを昨年末から行っている。

携帯で待ち時間が消えていく

携帯で待ち時間が消えていく。バスも医院もテーマパークも、効率よくゆったり過ごせたらうれしい(コラージュ)

 年5回は夫や子どもと一緒に遊びに行くという福井市の主婦、西川陽子さん(35)も、前もって購入する一人。車で片道3時間近くかかる場所だけに「ちょっとの待ち時間でも省略できると大きい。混雑期のブースは100メートル近い列になるのを知っている。でも今は昔のように着いても焦らないし、優待されたみたいで得した気分」とにっこり。
 
専用サイトで情報
バス遅れても余裕のコーヒー
 
 ■変わる診療待ち■
 携帯サイトを使った待ち時間の解消は街中でも広がっている。その一つが医療機関。
 自宅で受け付けを済ませて番号を入手し、予定時間までその都度、診察状況をチェックできる―そんなシステムが既に開発されている。システム会社「アイチケット」(本社大阪)によると、県内医療機関でも2004年に導入が始まり、現在は14医院で利用されている。
 3年前の1月に導入した坂井市のつちだ小児科では、既に患者の半数が利用。院長の土田晋也さんは「以前なら風邪の流行期になると、空き駐車場がなくなるほど混雑していたが、今はかなり解消されている」と話す。
 同小児科に通う同市内の3児の母、中山ひろみさん(32)はインフルエンザが流行した2年前の冬、子どもが風邪をひいた際にアクセスしたところ、「待ち時間が120分と表示されびっくりした」と記憶する。
 「もし、知らずに駆け込んだら、小さい子と長く待つ羽目になっていた。その間に別の病気をもらったり、こちらがうつす可能性もあったし」と中山さん。このシステムに満足そう。
 ■ダイヤ乱れも平気■
 導入は公共交通機関でも進んでいる。コミュニティーバス「すまいるバス」を運営する「まちづくり福井」は、同バスの運行状況を携帯サイトで知る「いまどこサービス」を展開中。
 「屋根やベンチのないバス停が大半なので、雪などでダイヤが乱れたとき、少しでも不安を解消してもらいたいと思って」と宮川雅敏社長。年間平均約6万件のアクセスがあり、特に雪が多かった06年は、年間約9万件にまで膨らんだ。高齢者向けには電話での音声情報も提供中だ。
 同携帯情報を愛用する福井市の男性会社員(59)は「雨や雪でバスが遅れていることを知ったときは、バス停近くでコーヒーを飲んで、待ち時間を有効に使う」と話す。
 ■外食店も続々?■
 進化する電子マネーと組み合わせれば、店に行く前に自宅で注文を済ませることも可能。それによって順番待ちもなくしていく―外食産業ではそんな試みも始まっている。
 大手ハンバーガーチェーン「マクドナルド」は今年5月から、自宅で買いたい商品を選択し、店内で瞬時に注文と支払いができるサービスを九州と山口の一部を皮切りに開始した。現在は東京23区にも拡大し「今後、福井を含め国内全店


に順次展開していきたい」と日本マクドナルドコミュニケーション部。また、福井市に12月、支店をオープンさせる回転すしチェーンの「無添くら寿司」(本部大阪)は、携帯サイトで会員登録すると指定時間に優先案内するサービスを展開中。
 携帯と衛星利用測位システム(GPS)の組み合わせで、店へのアクセス時間も短縮できる。
 雑誌などで知った店に行きたいな、と思うとき「込み合った路地や夜道でもいつも音声で案内してくれるし、渋滞や周辺の駐車場なども分かるので便利」と話すのは、永平寺町の男性会社員(33)。「通信料はかかるけど、目的地まで最短経路でたどり着けるので時間もガソリン代も節約できる」。旅先でも、現地で食事する店を携帯で探し、さらに店までの道のりをナビゲートしてもらっている。
 「今までにない楽しみが広がっている。これから先、どこまで進んでいくのかワクワクする」

2008年9月18日(木曜日)


 (13) ケータイ活用術(中)

 
支払い楽ちん ポイントお得
 

 レジで順番待ちをしているとき、前の人が紙幣やコインを出すと思いきや、携帯電話を取り出して「シャリーン♪」と電子音―。見慣れない光景に最初のころ、ちょっとドキッとした経験はないだろうか。通話やメールといった本来の機能を超えて進化する携帯電話。それを象徴する存在の一つが「電子マネー」だろう。カードも含めた発行数は毎月、国内で100万を超えて膨らんでいるともいわれる。「ケータイ活用術」今回は、携帯電話を切り口に、広がる電子のお金の世界をのぞいてみた。(ふくeライフ取材班)

 
首都圏では「必需品」 電子マネー搭載
鯖江往復の男性 カードと賢く併用
 
 「ピッ♪」。午前8時10分。JR川崎駅構内の自動改札機に携帯電話をかざすと、音が鳴ると同時に改札が開く。急ぎ足で通り抜けるスーツ姿の男性は、鯖江市出身で川崎市在住の会社員、山口達郎さん(35)=仮名。朝の日課になっている新聞とたばこを駅構内の売店で手にし、携帯をレジの読み取り機にかざして「シャリーン♪」。
 東京で電車を降りると、向かう先はコンビニ。「朝はパンと会社のコーヒーで済ませちゃうことが多い」という山口さん。ここでの支払いも「シャリーン♪」。
 携帯電話に電子マネー専用のソフトが内蔵された通称「おサイフケータイ」。今、先行する首都圏を中心に広がりを見せている。JRの改札やコンビニのほか、喫茶店、ホテル…。電子マネーを使える場所は年々増え、「駅だけでも、通勤で見かける人はもうほとんど携帯電話かSuica(スイカ)などのカードをかざしている」と山口さん。
 プリペイド型電子マネー「Edy(エディ)」
を運営するビットワレット(本社東京)によると、2001年11月に本格運用が始まってから7年。全国での発行数は今や年間約4300万に膨らみ、毎月70万―100万のペースで増えている。このうち、携帯電話分は約830万件で、月々20万件の増加を見せているという。
 魅力は「スピーディーな精算」と山口さん。「朝の忙しいときに小銭を出したり、お釣りを受け取ったりする手間が省けて楽。小銭を落として冷や汗をかくこともないし」。丸一日、財布を出さずに帰宅する日もあるという。「もはや必需品」とも。

  ◆ ◆ ◆

 山口さんがおサイフケータイを使い始めたのは昨年1月。クレジットカード(クレカ)でマイレージポイントをためて、飛行機で帰省する友人から「どうせお金を使うなら、現金で支払うより、ポイントが付くクレカを使った方が結果的にお得。電子マネーでもためられるよ」と言われたのがきっかけだ。

ポイントをためる

 通勤で電車を利用する山口さんは、JR東日本が提供する電子マネー「スイカ」を携帯に組み込んで活用。今では1カ月の生活費のうち、4万円前後を電子マネーで決済するほどに利用を拡大。それによってたまる「スイカポイント」は約50円。電車賃に使っている。
 さらに週末は、親の介護のため鯖江の実家に戻って過ごすことが多い山口さん。新幹線や夜行バスで1カ月に掛かる旅費は6万円に上る。切符はすべてクレジットカードで精算。携帯電話一つでレジをスルーできる使い勝手の良さでは電子マネーが便利だが、クレカの方がポイントをためるための、より多様なサービスがある。この現状を見極め、たまったポイントを「スイカポイント」に移行できるサービスを巧みに活用している。旅費で得られるポイントは約1000円分。「1カ月にこの額は大きい」とにんまり。
 そのほか買い物も、ポイントの還元率の高い店を選ぶ徹底ぶりで、電子マネーへの“蓄え”を楽しんでいる。
 
コンビニ、SC… 県内でも使える店続々(>∀<)
家計簿代わり「グゥ〜」
 
 県内でも最近、コンビニやショッピングセンター(SC)のレジなどで「おサイフケータイ」を手にする光景が見られるようになった。この機会に、携帯から電子マネー全般に視点を広げて県内の利用状況を調べてみると…。

レジは携帯を出すだけ

いったんお金をチャージ(左上)しておけば、レジは携帯を出すだけで素早く楽ちん(コラージュ)=いずれも福井市内

 地方都市でもシェアを広げる電子マネー最大手のビットワレットによると、県内でEdyを使える店は大手コンビニやSCのほか、飲食店、ガソリンスタンドなど約520店。JCBなどの「QUICPay(クイックペイ)」は約200店(全国チェーン店を除く)、NTTドコモの「iD」は約900店にまで広がっているという。
 SCについては、Edyやクイックペイはアルプラザなどを展開する平和堂、アピタなどを展開するユニー全店で使用可能。チャージ(入金)できる機器も配備されている。
 このうち4月に導入した福井市のアピタ福井大和田店では、一日平均30―40件の電子マネー利用がある。「従来なら平均20―30秒掛かっている精算が、電子マネーは半分の時間で済む」と業務副店長の細川幸紀さん(46)。「意外にも若い人から年配の主婦や70代の男性まで幅広い利用がある」という。
 同店の導入を機に早速使いだしたという同市の女性会社員(38)は、午後5時半に勤め先を出た後、同店の食品売り場に立ち寄るのが日課。込み合う時間帯だけに「思った以上に精算が簡単で時間が掛からないから、一度使うとやめられない」とすっかり愛用の様子。
 電子マネーは航空会社のマイレージサービスなどとも連携していることから、クレカと併用して使いこなす“達人”も。「たまったマイルを電子マネーに交換すれば、チャージ不要で再び買い物できる。得した気がするんだよね」と同市の男性会社員(37)は、電子マネーのもたらす買い物の“新境地”を実感する。
 お金を使う実感がわかない電子マネーだけに、使いすぎには注意が必要だが、一方で「電子マネーは家計簿代わりにもなる」とアドバイスしてくれたのは同市の会社員、山岸令奈さん(24)。「コンビニなどで使うこまごまとした雑費は意外と高くつく。無駄な買い物をけん制するのにちょうどいい」と話す。
 レジで支払いの際には残高が表示されるほか、携帯電話のホームページで利用明細も確認できるため「いつどこで使ったかが一目でチェックできる点もお気に入り」と笑顔を浮かべる。

2008年9月11日(木曜日)


 (12) ケータイ活用術(上)

 
キターー(°∀°)ーー!


 

 今や、現代人の生活に欠かせないツールとなった携帯電話。メール、ネット検索、音楽配信、チケット予約、衛星を使った位置確認、おサイフケータイ…。日々広がるその世界は、目を見張るばかり。でも、進化する機能にどこまでついていっているだろうか。まだ気付いていないお得な使い方や、楽しく便利な活用法を見つければ、あなたの新しい世界が広がっていくはずだ。
(ふくeライフ取材班)

 
文字サイズでも差/「Re:」削除で思いやり
 
 ■充電は気長に■
 まずは、通話料金の節約につながるお得な活用術を探ってみよう。
 携帯各社の顧客獲得競争が激しさを増し、各社が設定する「かけ放題・メール使い放題」の料金は、1カ月1000円を切るプランまで登場。利用者にとってはますますお得感が増してきた。そうした現状を背景に各社の販売店が「意外に見落としがちな節約のコツ」と強調するのが、料金プランの小まめな見直しだ。新プランが次々出てくる一方で、「目を向けずに実質、損をしている人も少なくない」とショップの店員は口をそろえる。

料金プランも小まめに点検

かわいい画像はたくさん送りたい。でもデータ量には注意。料金プランも小まめに点検(コラージュ)

 このように、割安感が広がる中でも、節約の達人たちの目にかかると、こだわるべき余地はさまざまあるようだ。その一つが充電。
 「必ず残量が一(表示の最少レベル)になってから充電を行うと決めている」と話すのは、福井大大学院の寺崎寛章さん(25)。電池パックの寿命は充電回数300―500回と、回数によって決まっているため、残量が多いうちに充電すると、その分損することになり、「結果、節約にならない」。工学系の寺崎さんにとって、その点は見過ごせない部分。
 バッテリー交換となった場合、1500―4000円が必要で、むだな交換の積み重ねは大きいと見る。
 ■キーワードは半角■
 意外な節約の“一手”がメールの文字サイズ。半角にするとデータ量が少なくなるため、料金は1円未満だが安くなる。鯖江市の女性会社員(24)は「半角文字はかわいいから『―だネ』とか語尾によく使う。それが節約になるなら、ちょっぴりうれしいかな」。
 画像の送受信にも要注意だ。坂井市の主婦、吉田峰子さん(59)は「千葉在住の長女が、孫の動画を携帯メールで送ってきた月は、請求額が3000円近く跳ね上がって驚いた」と体験談を明かす。
 パケット通信料定額制のサービスに加入していない場合、動画、写真の添付ファイルはもちろん、メールの文字数に至るまでデータ量の多いものは、受信側も高額の出費につながる恐れがあるという。実態はどうなのか。
 福井市内の携帯大手D社販売店によると、同サービスに加入せずメールを送ると、本文百文字で送信側だけでなく、受信側も約3円かかる。店長の村中一寛さん(34)は「絵文字やデコメールもデータ量が多く、100文字に絵文字を10文字加えるだけで送信側は1通20円、受信側も18円になる。逆に言えばメールを半角で送ればその分、通信料は安くなる」と解説。
 ■題名にも注目■
 もう一点、盲点となりそうなのが、メールの題名。A社やS社のメール送受信には、題名の文字数も料金に反映される。「この事実を知って、逆に、通信相手への気配りに応用している」というのが、福井大3年の高田明日香さん(21)。本人はD社携帯所有だが、メールを返信する際に題名の頭に付く「Re:」を都度削除しているという。
 「たった3文字だけど、積み重ねると、A社とかの携帯を持っている友達にとっては大きいと思って…。小さなことだけど、それを上回る大切なものが得られる気がする」。この視点には取材班も脱帽。
 
“ナイス愛デア”恋人用2台目 増殖中
格安プラン 巧みに融合
 
 恋人同士、夜に携帯を手にすると、10分、20分…つい長電話してしまうものだ。そこで気になるのが通話料。定額プランでも、毎日八分以上の通話で1万円を超える携帯会社もある。「う〜ん、何とかならないかな」
 そんな悩みを、逆手にとったある楽しみ方が今、若者たちの間で広がっている。恋人専用の「サブ携帯」所有だ。
 大手A社の携帯を持つ福井市の会社員(27)も、彼女との通話代が悩みの種だった。せっかくゲットした彼女の心をつかみ続けるには、仕事で遅くなった夜でも、毎日必ず電話をかけたい。でも、彼女の携帯(D社)も含め、料金設定を考えると「10分程度話すのが精いっぱいだった」

「もう1台」

彼氏、彼女とは専用の「もう1台」=福井市

 そんなとき、友人が耳打ちしてくれたのが「別の会社の端末を2台目に持ったらどう?」。
 友人が指摘するのは、携帯の使用を1社だけに固執せず、各社の低価格プランを冷静に見極めれば、使い方次第では2台目を持った方が安くなるというアドバイス。
 例えば、S社の携帯同士だと毎月980円で午前1時―午後9時までならかけ放題。PHSも手掛けるW社なら、同社同士もしくはPHS同士だと、2時間45分以内の通話なら何回かけても一日中無料となる、月々2900円のお得な定額プランが出ている。ただ、S社やW社の端末に切り替えても、これらの格安プランの恩恵を受ける通話相手は、同一社の端末を持つ人に限られる。さらに、PHSの場合は通話範囲が限られる上に番号やメールアドレスが変わってしまい、結構面倒なことに。

変更前と変更後の料金プラン

 そこで友人が言うのは、「通話相手が恋人に限られ、しかも同じ会社の端末を持つなら、2台あっても、料金プラン次第でかなり節約になる=表参照」との経験談だ。
 「そんな発想の転換があるのかと、目が覚めたようだった」と男性。彼女もこの案に大賛成。W社を選んだこのカップルは、それぞれ1台目の定額プランを引き下げた。男性の月々の料金は2台分で8000円。新たな端末の購入費も、最低限の通話機能を持つシンプルなものを選んだことで6000円台で収まった。
 「2台持っていると、ぜいたくなようで、実は費用が安いなんて不思議」と二人。その後、彼女が県外に移ったため遠距離恋愛になったが、このプランなら距離は無関係。「時間も気にしないで会話できて、2台目はなかなか気に入ってますよ」と男性。
 福井市内のS社販売店の店長、中嶋浩人さん(38)は、そうした発想から「恋人同士で来店する割合がどんどん増えている」と話す。
 既に世の中は、携帯の”一人2台所有時代”へと移っているのだろうか。

2008年8月27日(水曜日)


 (11) 密着! カリスマ節電主婦

 
ちりも積もれば半減
 

 お盆を過ぎ、県内は一気に秋の空気に包まれだしたが、この夏、皆さんはどこまで”eライフ度”を高められただろうか。「節約術の巻」今回は、節電シリーズの最終回。家電製品のエコな使い方で「カリスマ主婦」と呼ばれる女性たちに密着してみた。こつこつ地道な実践の積み重ねで、夏の電気代の半減をも実現させている“すご腕”ぶりに迫った。(ふくeライフ取材班)

 
村上さん (越前市)
TVにタイマー つけっ放し解消
 
 ■テレビは音量でも■
 写真を見ていただきたい。越前市の主婦、村上和子さん(68)が手にするのは、不要になったお茶の空き箱で作ったタイマー。タンス上のテレビとケーブルでつながっていて、指定した時間になるとテレビの電源が落ちる仕組みになっている。

村上さん

夏場の電気代は月4、5000円台を維持し続けている村上さん=越前市

 実はこれ、エコライフを実践し始めた和子さんに触発された、夫の重明さん(70)お手製のもの。寝室のテレビをつけたまま寝てしまい、朝には砂嵐の画面、ということも少なくなかったという自らの反省も踏まえ、学生時代から得意だった電気工学を生かして作ったという。
 音量についても、大きいと消費電力も大きくなることを工学的な知識として持っていた重明さん。小さな音でも耳元で聞こえやすいよう、箱の側面に穴を開けてスピーカーを内蔵した。
 「省エネは無駄な使い方をこまめになくし、その積み重ねだと考えるようになった」と村上さん。テレビ番組は朝夕のニュースなど関心のあるものをあらかじめ選択。番組の途中に電話が鳴ったり家事、トイレで立つときも、必ず主電源から切るようにしている。
 もちろん、家電製品の中で消費電力が最も大きいとされるエアコンも節約の一大ターゲット。来客時以外は使わないようにしようと夫婦で話し合った。猛暑日が続いた今夏もほぼノーエアコンを通している。こうした努力が知れ渡り、財団法人・省エネルギーセンターからは省エネ普及指導員に認定された。「夫婦2人で、あれこれ工夫してやっていると楽しいものですよ」と笑顔を見せる。
 
中野さん (福井市)
冷蔵庫にカーテン
 
 ■冷蔵庫にも一工夫■
 エアコン、テレビとともに消費電力量が多いのが冷蔵庫だ。
 環境省の環境カウンセラーに選ばれている福井市の主婦、中野佐知子さん(66)が取り組むのは、ドア開閉時に無駄な冷気を逃さない工夫。いろいろ試した末、効果的と見ているのが“カーテン”の取り付けだ。庫内の天井部分から、冷蔵室と同じ面積のオレフィン系フィルム(通販などで購入可能)をつり下げる。

中野さん宅の冷蔵庫

中野さん宅の冷蔵庫は、節電を意識して常にすっきりと整理整頓=福井市

 使う頻度の高い調味料の置き場所も一工夫。みそは目に付く冷蔵室中央、めんつゆやたれは扉ポケットなどに固定すれば「ドアを開けっ放しにして探すことが減る」とアドバイスする。
 同様の取り組みは村上さんも実践中。特に強調するのは買い物の仕方で、食材をまとめ買いせず、冷蔵庫内に3分の1程度しか入れない。詰め込んだ食料を半分以下にすると、庫内の冷気の循環が良くなり、電気代節約につながるというわけだ。
 その他、台所で中野さんは、炊飯器はご飯がたけたらスイッチを切り、都度電子レンジで再加熱する徹底ぶり。電気ポットについても「都度わかせばいい」と、一度も買ったことがない。
 照明器具も使わないところはこまめに消す。電力消費が大きいとされる白熱電球は、トイレ、洗面台、風呂場、外灯にあったものを2年かけてすべて電球形蛍光ランプに切り替えた。エアコンも順次、省エネタイプに交換するこだわりようだ。
 

電気代

 ■家計簿で緻密に■
 夫、長女と3人暮らしの中野さん。今年7月の電気代は約6000円。2002年に1万円以上かかっていたことを考えると、半額近い節約ぶり。村上さんも夫と2人暮らしながら「電気代は夏場でも4000―5000円台を維持している」と胸を張る。
 2人に共通するのは、緻密(ちみつ)な家計簿づくり。月々の電気代の増減はもちろん、ガス代、水道代、灯油代などの光熱費やガソリン代を隅々まで記入している。「家計簿を付けると漠然と過ごすことがなくなった」と中野さん。浮いた費用は「主に良質の食材を購入するのにあてるんですよ。それも楽しみ」とにっこり。
 
省エネセンター 節電術教えます
電球 エコ替えで年1850円減/ほこりにも注意
 
 カリスマ主婦たちが工夫のよりどころとしているのは、家電製品の節電策などの研究を進めている財団法人・省エネルギーセンター(本部・東京)のデータだ。同センター企画広報部の山川文子さんに、主な製品ごとのアドバイスを求めた(エアコンは特集済みなので省略)。
 
 ▽冷蔵庫
 扉を開けている時間について、一般家庭の平均的な開閉回数で実験したところ、20秒から10秒に短縮するだけで、容量400リットルの冷蔵庫で年間130円節約できるとのデータが出ている。

家庭における消費電力量の割合

 山川さんは「常温で保存できるものも冷蔵庫に入れていませんか」と問いかける。缶詰や瓶詰、調味料は未開封なら冷蔵する必要がない。余計なものを詰め込むと何が入っているのか忘れやすく、見えにくくなる。それによる無駄な開閉をなくせば、年間230円の節約に。
 置き場所は、壁に密着させないで離せば年間990円の節約になるとのデータも。
 ▽照明器具
 「まずはこまめに消すこと」と山川さん。白熱電球(54ワット)なら点灯時間を1日1時間短縮した場合、年間約430円の節約に。
 白熱電球から電球形蛍光ランプへのエコ替えも効果的という。蛍光ランプの寿命はおおよそ白熱電球の6倍で、電気代は4分の1以下。54ワットの白熱電球から、同じ明るさに相当する12ワットの電球形蛍光ランプに交換した場合、年間約1850円浮く(1日5時間半使用として計算)。「電球形蛍光ランプは白熱電球より価格はやや高いけれど、長い目で見れば結局お得」という。
 もう一点、「かさにたまったほこりをふき取ってみては」とアドバイスする。居間の照明を1年間掃除しない場合、ほこりが光を遮り、明るさが10%低下。特に台所は飛び散る油などで汚れるため、30%も低下し、同じ電気代でも明るさは損だ。
 ▽テレビ
 静電気で画面にほこりがつきやすい。実際は画面が汚れているのに、暗さ解消のため画面の明るさをリモコンで上げるとしたら、その分消費電力が増加。ブラウン管テレビ(25インチ)では、画面の明るさを「最大」から「中央」に調節すると、年間660円の節約になる。
 音量も、ブラウン管(25インチ)の場合、「最大」から「中央」に調節すれば、年間約50円お得だ。

2008年8月21日(木曜日)


 (10) 続・エアコンセーブ

 
涼 自然の力で
 

 木陰や水辺の涼しさをご存じだろう。サラサラ流れる水、揺れる木の葉の音、そよ風に肌が包まれて冷茶を一服―何とも心地いい瞬間だ。緑や水、風の力を先人たちは巧みに暮らしの中に取り入れてきた。「涼」をつくるのはエアコンだけじゃない。現代の生活にも、ちょっとした知恵と工夫で自然を絡めれば、節約の域を超えた、別次元の快適さが見えてくる。エコな残暑を楽しむ先駆者たちの世界に案内しよう。(ふくeライフ取材班)

 
趣深く 打ち水 1.5度低下、朝夕に効果
 
 ジャバッ―。金魚が泳ぐ小さな池からひしゃくで水をすくう。腕を大きく伸ばすと、透明な水滴が弧を描いて飛び散った。雨上がりのようなあのにおい。
 石畳の通りが続く福井市の愛宕坂。通りに面した料亭「離世」の店主、飛矢孝行さん(45)は夕方、玄関先に立つのが日課となっている。「お客さまを迎えるための準備」。今日もやるぞ! という心の区切りという。「それに夏は玄関前を通る夜風が涼しくて」

水をまく飛矢さん

ひしゃくで石畳に水をまく飛矢さん=福井市

 日本古来の打ち水。さすがに木おけにひしゃくを手にする姿はあまり見られなくなったが、ホースやじょうろでお手軽にやってみようかな! そんな声は若い世代からも聞こえてくる。
 大野市の林志津可さん(23)も今年から実践し始めた一人。うだるような暑さが続いた今夏だが、「エアコンのつけっぱなしは、もったいない気がして」。何か自分なりにやってみようと考え、思い付いたのが打ち水。朝晩、玄関先に水をまいている祖父母や両親の姿を思い出した。
 試しにやってみた7月の朝、「冷たい風が家にさーっと入ってきて、あーっ、エアコンを付けなくても、こうすれば自然の風って涼しくなるんだって感じた」。以来、朝夕欠かさず水を打ち続け、まいてから2時間はエアコンをつけないようにする。すっかり習慣付いているという。
 冷たい風が家の中を通り抜けやすくするためにも、「水をまく前に玄関や窓などを開けて家の中に風の通り道をつくるのがポイント」と、こつをつかむほどに。
 打ち水の効果について、福井大准教授の吉田伸治さん(35)は「まいた水が気化するとき地表の熱を奪い、照り返しも少なくなる」と解説する。特に日差しが弱くなる朝夕や残暑の時季(乾燥した日)は効果の持続性が高いという。2004年夏、福井市の田原町商店街で行った実験では、水をまいた20―30分後、その部分の気温が1―1.5度、路面温度は最大14度低下した。
 「まき方によっても涼しさに差が出る」と話すのは、長年打ち水に取り組んでいる國泰寺=勝山市=前住職の乾隆俊さん(76)。夜のお勤めで一座を組み心静かに目を閉じると、夜風のかすかな違いを感じ取る。一面にホースでまいてぬらしたときより、おけで水しぶきを立てながら円弧状にまき、むらをつくった方が「より涼しい風が舞う」というのが乾さんの経験則だ。
 さらに乾さんは「打ち水には、四季を通じてすがすがしく客を迎える意味もある」と強調する。ほうきではいた後、水で清めて玄関を整える。昔ながらの、ひしゃくでちびちびまくしぐさの奥には、客の皮ぐつをぬらさないよう踏み場をつくるといった思いやりの心も秘めるという。
 
ブーム来た!! 緑のカーテン

おいしく、電力3割減  ゴーヤー人気上昇

 
 高さ、幅とも3メートルを超えるだろう。玄関両脇の壁一面を緑色の葉が生い茂り、太陽の光に輝いている。目を凝らすと、長さ30センチはありそうなゴーヤーが身を潜めている。
 「室内から見てもきれいですよ」と、家の中を案内してくれたのは福井市の会社員、深草美千代さん(46)。縁側に座ると、重なり合う葉が濃淡を描き、絵画の大画面を見ているよう。「風が吹くたびに葉が揺れる様子を見ると、暑さや時間が過ぎるのも忘れて、思わずぼーっとしてしまって…」
 今夏、県内でゴーヤーを使った緑のカーテンづくりが、ちょっとしたブームとなっている。

深草さん宅の縁側

深草さん宅の縁側を覆い尽くしたゴーヤーの葉。濃淡鮮やかな緑色は涼感たっぷり=福井市

 日差しを遮るすだれなどの代わりとしてつる性の植物を使う場合、以前ならアサガオ、ヘチマなどが定番だったが、近年は沖縄料理で知られるこの亜熱帯植物へと勢力図が変わっているらしい。
 ホームセンターみつわ(本部福井市)の園芸担当者は「緑のカーテン用に、と購入する人の9割は今やゴーヤー苗を選ぶ」と話す。虫が付きにくくて初心者でも育てやすい。葉もアサガオなどに比べて大きく、実も食材として使えるとあって全国的に人気上昇中という。同店では6月、問い合わせの多さに急きょ特設コーナーを初設置。1店舗で1日に40ポットも売れる日もあったとか。
 深草さんも今年初めて緑のカーテン作りに取り組んだ一人。5月末、縁側にネットを張り、下にプランター5つを並べて苗を植え育ててきた。驚いたのはその成長力。つるは1日に10センチ以上伸びた日もあり、7月初旬には背丈ほどの高さが一面、葉で覆われるほどに。「見た目もそうだけど、葉を通った風がひんやりとして、ほとんどエアコンなしで過ごせる。設定温度も去年より2度高い29度で大丈夫」と深草さん。
 中旬になると実がつきはじめ、これまでに24本を収穫。定番のゴーヤーチャンプルのほか、ごまあえやサラダ、納豆あえを作って家族に好評だという。「きれいで、おいしくて、涼しくて、いい感じ」と笑顔。
 緑のカーテンの実際の節電効果はどうなのか。
 中部電力がつる性植物を使って行った実験によると、エアコンの消費電力(設定温度28度)を20―30%削減できるとの結果が出ている。葉が直射日光の熱エネルギーを反射して室内の温度上昇を抑制。さらに、葉の気孔から水分を蒸発する「蒸散作用」によって葉の温度が下がるため、葉の生い茂る窓付近での体感温度は11度低いとのデータも。
 「居間で過ごすときはエアコン2台のうち1台の稼働で十分」と効果を実感するのは、福井市の会社員、高山泰孝さん(50)。「8月の電気代は2000円は安くなる」と見込み、にんまりだ。
 今年から家族でゴーヤーづくりに挑戦中という福井市の主婦、安田喜美子さん(78)は振り返る。「小さいころは祖父母がカボチャなどで窓辺に日よけを作ってくれた。文明の利器が発達しても、昔の人の知恵や自然の力にはかなわんね」

2008年8月14日(木曜日)


 (9) エアコンセーブ

 
お得に扇風機 エコと“涼立”
 

 節約や、地球環境の点からも気になる夏場のエアコン。とはいえ、いきなり冷房ゼロといっても、快適さに慣れきった現代人には難しいかもしれない。そこでちょっと、エコライフの先駆者たちの声に耳を傾けてみよう。ほんの少しの工夫と我慢でも、それなりの「エコ」は実現することが分かってくる。さあ、節約モードへ一歩を踏み出してみませんか。(ふくeライフ取材班)

 
電気代2割強削減
 
 ■売り上げ2・5倍■
 福井市の100満ボルト福井本店。先月の売り上げが前年比2.5倍増となった人気製品が、扇風機やサーキュレーター(送風機)だ。
 エアコンだけをつけるより、これらを併用すれば節電につながるとして今、節約派の注目を集めているという。同市内の家具・雑貨店でも販売は好調で、既に売り切れ状態の店舗も。

節電効果が注目の扇風機

エアコンと併用で節電効果が注目の扇風機。おしゃれな型も登場し売れ行き好調という=福井市の雑貨店「チェルシーニューヨーク・スタイル」

 「エアコンの冷気は床にたまりやすく、なかなか部屋中に行き渡らない。さらに室温が高いうちにエアコン単独で室内を冷やそうとすると、電力を大幅に消費してしまう」と解説してくれたのはマルツ電波環境課の滝沢大さん。送風により空気の循環を促すことで、室内の温度むらをなくせば、電気代も少なくて済むというわけだ。
 ■28度がミソ■
 送風機と併用する実際の効果はどれほどなのか。東京電力「くらしのラボ」が2003年8月、同社技術開発研究所(横浜)で行った実験では次のような結果が出ている。
 外気温が30度のとき、設定温度26度でエアコンを動かしたときと比べ、設定を28度に上げた上で扇風機を弱運転で併用した場合は、消費電力は約22%ダウンしたという(2階建て住宅の南向き5.5畳の部屋で、エアコン16時間稼働で実験)。
 ただし温度設定を26度のまま扇風機を併用しても効果はなく、消費電力は扇風機にかかる分が加算されて逆に10%上がるとの結果も。「28度」という温度も大きなウエートを占めているようだ。
 ちなみに、県内ではエアコンを1時間使用した場合の電気代は、8―12畳対応(インバーター制御)で14.78円。これに対し扇風機(40ワット)なら0.89円程度で済む(北陸電力福井支店調べ)ことからも、エアコンの消費電力の大きさがうかがえる。
 さらに、地球温暖化対策の観点からも、冷房の温度を27度から1度上げるだけで二酸化炭素(C02)排出量は1台当たり年間12.4キロ減少する(外気温31度)と、財団法人「省エネルギーセンター」。環境省がエコな冷房使用の目安として28度以上の設定を呼びかけているのも、こうしたデータからだ。
 これらの忠実な実践者が、同省から「環境カウンセラー」として委嘱されている福井市の主婦、中野佐知子さん(66)。やむなく冷房をつけるとしても、設定は29度で送風機と併用。しかも1時間で切り、あとは送風機だけで窓や玄関から入ってくる風を循環させるといった、独自の工夫を試みている。「夏でも自然風は涼しくて、うまく組み合わせれば大幅に電気代は削減できる」と話す。
 また「エアコンのフィルターのこまめな清掃も効果的」と中野さん。同センターによると、月1回か2回の清掃で電気代は1台につき年間700円、C02も13.1キロ減。「この数字を意識して毎週掃除している」という。
 ■エコ替えも続々■
 エアコンの消費電力を抑えるには、省電力機能が向上した最新機種への“エコ替え”も一手といわれる。
 100満ボルト福井本店の加藤稔店長は「10年前の製品と比べると、約6割もの電気代を削減できる商品もある」と話す。それを見込んでか、同店の先月のエアコン売り上げは前年比2.5倍増。「特に初の猛暑日となった18日を含む3連休以降は3倍増」という。
 ただ、エアコンは8畳用以上のタイプだと10万円前後必要で「買い替えても元が取れるのか」と二の足を踏む人もいるかもしれない。
 その点に関しては、同省のプロジェクトチーム「チームマイナス6%」が、ホームページ「ECOシミュレーター」(http://www.team−6.jp/kaikae/)を立ち上げ、費用対効果の計算をサポートしているのでご参考に。
 
本紙に実践例が続々
氷で冷風、水シャワー…努力してます
 
 本紙「ケータイ投票箱」で取材班が行った調査(10日付読者面掲載)では回答者の六割が今夏、環境や経済効果を意識して、設定温度アップへ行動を移しているとの結果が出た。その他、少しでもエアコンを使わずに過ごそうとする地道な努力の声が数多く寄せられている。この場でも紹介しよう。
  ×  ×  ×
 ▽昼間、エアコンをつけずに頑張る坂井市の女性パート社員(42)は、夏休み中で3人の子どもが家にいるにもかかわらず、扇風機と窓から入る自然風だけで乗り切る。「頑張ったご褒美(ほうび)にお風呂に入る前に一部屋だけエアコンをつけ、家族6人がそこに集まる」
 ▽「寝るときは氷枕を使い、さらに扇風機の前に凍らせたペットボトルを置いて風を冷たくする」と話すのは同市のこももさん(44)=ハンドルネーム。今年から実践し始めたというが「ひんやりと涼しい風が来るので、今年の夏は寝るとき、まだ一度もエアコンを使っていないけれど、大丈夫」
 ▽大野市の林志津可さん(23)は「体がほてるときは、水シャワーでしのぐ」。さらに、暑くても午前中はエアコンをつけず、家の周りに打ち水をして乗り切る。「エアコンはなるべく設定温度を上げ、扇風機主体で頑張る」
 
2世帯で頑張ってます! 月1万円
オール電化逆手に冷房は夕方以降 日中は汗
エコ奮闘中 今井さん一家(福井)密着
 
 地道な節約の工夫で、夏場でも電気代を月1万円前後に抑え込んでいる家庭がある。しかも、オール電化でかつ隣接する母親の家の電気代も負担しながらだ。
 福井市の自営業、今井浩史さん(43)宅。オール電化の標準的世帯で電気代が月平均1万6000―1万9000円(北陸電力調べ)とされる中で、かなりの健闘だろう。
   ◆◆◆
 もともと「節約という概念が好きだった」という今井さん。今夏はさらに極めるため、日中の仕事場は扇風機一つで乗り切ろうと決意した。オフィスは自宅2階にある書斎。南向きベランダにすだれなどをかけて遮熱した上で、平均気温が27.2度と暑かった先月も、ひたいに汗をにじませながらITコンサルタント業の仕事をやり通した。

今井さん一家

日中は扇風機で暑さをしのぐ今井さん一家。家族団らんの夕方以降は順次冷房を解禁。部屋には送風機の風も舞う=福井市

 1階リビングも同様。学校が夏休みに入ってからは、家族全員が日中も家で過ごしているが、家に計3台あるエアコンは一切使わず、扇風機を回すのみ。
 夕方5時、ようやくリビングのみエアコンを解禁する。サーキュレーター、扇風機と併用させて涼しくなったところに、一家4人が集まって晩ご飯だ。設定温度も環境省がエコライフの目安とする28度を上回る29―30度で固定。「暑い日は設定が30度でも涼しく感じるくらい」と笑顔を見せる。
 「日中も直射日光が遮られるだけで、体感温度は違う」と今井さん。「自然風が入ってくれば十分涼しいし、扇風機の風が当たると全然違う」とも。
 実際に取材班が室内温を測定してみたところ、午後2時の外気温(35度)との差は1度程度だったが、扇風機を付けると32度前後まで下がった。
    ◆◆◆
 今井さん宅がオール電化に切り替えたのは2年前。契約内容を見て注目したのが、時間帯によって電気料金が違う点だ。

光熱費の比較

 今井さん宅の電気料金プランは、午前10時―午後5時は1キロワット当たり1時間32円かかる(夏季のみ)が、午後5時―同10時と午前8時―同10時は同20円で、日中より10円以上安くなる。さらに午後10時―午前5時は同7円にまで下がるため、リビング以外のエアコンを解禁するのはそれ以降と決めた。毎晩、時計の針が10時を回ると、中学生の長女は「やっと涼しい部屋で眠れる」とばかり、自分の部屋へ急ぐ。当然、洗濯も午後10時以降。
 また日曜と祝日に限って、電気料金が日中も1キロワット当たり1時間20円に下がるため、「家族で出かけるのは専ら土曜日(長期休暇中は平日も)と決めている」ほどの徹底ぶりだ。
 「スイッチ一つで涼しくなる便利な時代だからこそ、そんな楽さを子どもになじませたくない」と今井さん。「浮いた金額で外食するなど、めりはりをつけながら頑張っています」と満足そうだ。

2008年8月7日(木曜日)


 (8) エンジョイ!自転車ライフ[下]

 
安全 快適 伴ってこそ
 

 風の気持ちよさや季節のにおい―。このエコ時代にはとても魅力的な自転車ライフだが、気になるのが自転車を取り巻く道路環境だ。「ツーキニスト」の目で見ると安全・快適とは程遠く、中でも通勤・通学者が集まる福井市街の幹線道はお粗末な“通行ゾーン”が目立つ。ならばと、安全な自分だけの「マイルート」、安心の装備・交通マナーを求めて街に出た。
(ふくeライフ取材班)

 
市街地 狭い“通行帯”
安心ルート 見極めよう
  
 ■お寒い県都の幹線■
 自転車通行環境の実態はどうなのか。福井市街地については、NPO法人「ふくい路面電車とまちづくり(ROBA)の会」が昨春から一年間、詳細に検証しているので紹介しよう。
 市街地の全幹線道を対象に安全か危険か、高校生らのアンケートや実地調査を基に詳しく分析。診断結果は今年5月発行した「ふくいりんりんマップ」に色分けして記されている。自転車に適した道路は安全性や快適さのレベルに応じて緑や青色で表示、反対に狭くて車の通行量が多いなど注意が必要な道路には赤色。

自転車マップ

 同マップの概略図を作ったので見ていただきたい。緑や青の実線が少ないことに気付くだろう。「JR福井駅周辺は比較的自転車で走行しやすいが、離れるほど走りにくくなる」と事務局長の清水省吾さん(48)。
 象徴するケースが市街地中心部を南北に貫くフェニックス通り北部だ。付近には高校や大学、美術館、博物館が集中する。県によると、同通りの田原町周辺を通行する自転車は1日に約2900台(2005年現在)と多い。
 大名町交差点から北へ進むと、田原町までは幅数メートルの広い歩道内に緑色の自転車ゾーンが設けられ、歩行者も含め安全でゆとりを持った通行が可能。しかし田原町から北部は一転、北へ向かうほどに歩道は狭くなる。車道と白線で分けられた路側帯は自転車1台がやっと通れるほど狭いところも。ピア跡地から北進すると電柱が中央に立ち並んでいたり、側溝のフタが割れていたり…。
 通行する高校生から聞かれる言葉は「車道から歩道に入る際の段差が大きく、衝撃で荷物が落ちるほど」(女子)、「横を車がびゅんびゅん通っていて、神経を使う」(男子)。
 同会会長の内田桂嗣さん(55)は「健康的で便利な自転車なのに、今の道路整備の実状は車が中心だから」。公共交通と自転車、歩行者が中心となったまちづくりを推進する同会だが、自転車通行の環境に関しては後手に回ることを憂慮する。

中心部の歩道
対照的な北部

(上)自転車ゾーンを色分けしゆとりある中心部の歩道。(下)対照的に北部は1台がやっと通れる程度で電柱も林立。同じフェニックス通りでも差は大きい=福井市

 ■マイルートで打開■
 幹線道がこうした現状の中、自転車通勤・通学者の中には、一本横にそれた住宅街を通る姿も見られる。
 ただ、自転車の死傷事故で多いのが車との出合い頭といわれる。住宅街は塀などで交差点の見通しが悪かったり、渋滞を避ける車の抜け道になっていたりして「むしろ危険」(同会)との指摘も。
 同マップを見ると、東西に長く伸びた緑色の線が目に入ってくる。九頭竜川や足羽川河川敷の自転車道だ。「春の堤防は桜や野花に包まれるなど、美しい環境の中でサイクリングを楽しみながら移動できる」と話すのは自転車で通学する市内の大学院生、藤井歩さん(24)。同会では、幹線道をベースにしながらも、少々遠回りでもそうしたルートも加えることで「安全な自分だけのマイルートを見いだすのも一手」と提案する。
 市街地にはその他、養浩館と湊小を東西に結ぶ春山周辺にも通りやすい道が整備されている。羽水高北部の木田地区や、円山小南側の北四ツ居から南四ツ居にかけての一帯など郊外にも、安全と診断されたルートが比較的多い場所もあり、マイルートにはお薦めという。
 
福井、敦賀ではモデル事業も
 
 ■整備後押しには…■
 1997年から10年間、県内で起きた交通事故の年間平均死傷者数は約6400人。このうち自転車絡みは679人もいる。
 こうした実態を行政側も憂慮する。国交省福井河川国道事務所は今年1月、自転車道整備に関する広報文の中で、事故が多い原因として交通マナーを軽視した通行とともに、「安全で快適な交通環境の未整備が要因と考えられる」と指摘した。県内で整備済みの歩道1375キロのうち、自転車が通行できる区間は492キロと36%にとどまっている。車道についても歩道との間に路側帯はあるものの、自転車が走行することを目的に整備された車道はゼロだ。
 同省や県などは新たな一手として今春から、福井市大和田地区と敦賀市で自転車専用レーンを設けるモデル事業に着手した。歩行者と自転車の通行ゾーンを区別する効果を本格的に検証し、その他周辺地域にも広げる一歩にしようと構想を描く。
 ただ、実際に路側帯や歩道を拡幅するとなると、財政負担に加え沿道の移転も余儀なくされる。市民の理解と盛り上げが欠かせない。やはり、ツーキニストの増加こそが、機運を高め後押しする力となるのか。
  


                         (下)

 
重装でも「かっこいい」
気付くと仲間が増えていた
 
 私の場合、朝の通勤は子どもの保育園への送迎を兼ねる。それを自転車通勤に変えるとしたら、何よりも安全面が最優先だ。

意外な?反響

出勤前に長女を園へ預けに。保育士さんやお母さんからは「かっこいい」と意外な?反響=坂井市内

 実は、愛車の後方に付けたのは、欧州製「チャイルドシート」。車のシートのような背もたれとシートベルトがあり、子どもの持ち手にもなるカラフルなセーフティーバーまで付いている。
 自転車を修理に出した際、専門店の店長に薦められたものだが、最初は「これで保育園に行くと、浮くだろうな」と少々引き気味。マウンテンバイクに大がかりなチャイルドシートという前代未聞の“コラボレーション”に、写真を見た友人も「人力車みたい(笑)」とメールで一言。
 だが、都会では流行しているというし、専門誌にもオシャレに紹介されている。品定めに一緒に来た娘も「このイス、乗りたい」と楽しそう。派手でも娘の安全と笑顔が第一だ。
    ◆◆◆
 いざ登園初日。「やっぱり場違いかな」とこの期に及んでも不安だった。だが意外にも、娘の担任の保育士さんは「かっこいい!」。
 何と、ほかの子のパパさんからも「これなら男の僕でも娘と自転車に乗れる。どこで買ったんですか」と興味津々の様子で聞かれた。周囲の予想だにしない好反応。自転車先進地・欧州のなせる技?
    ◆◆◆
 自宅から保育園までは約500メートル。この季節、今までは車内が冷えるまで無駄にアイドリングしていた。それが解消され、時間もお金も節約されることに、この日初めて気付いた。
 さらに、朝の“ツーリング”は、平日なかなか一緒にいてあげられない母子の空白を埋める役目も果たしてくれる。何日かすると、最初2、3人だった園の自転車送迎組は10人近くにまで増えた。ちょっとうれしい。
 その半面、夜間の危険性も実感。朝は快適な農道も夜は街灯がなく、視界を全く確保できない。何より車がこちらに気付かず、後方から追突されるのが怖い。反射材を後方に3つ、LEDライトは前後に1つずつ用意したが、猛スピードで真横をすり抜ける車もいるので油断できない。
 首都圏に住む義母が「福井は1人1台が車だけど、こっちは1人1台自転車って感じ」と話していた。自転車が本当に1人1台必需品になれば、地球環境にも財布にも優しく、街の環境も“弱者”に優しく変わっていくはず―そう信じてペダルをこぎ続けている。  (土生(はぶ)仁巳)
 
 

ツーキスト天国

 
デンマーク事情 (下)
国有自転車道3000キロ 首都で無料貸与
 
 自転車を持たない人がほとんどいないといわれるほどにデンマークでは、自転車への関心が高い。
 本土(グリーンランドを除く)の面積は北海道より小さい4万3000平方キロ。この国土に3000キロにも及ぶ国有の自転車専用道路が整備されている。環境に優しい道路として「グリーンルート」と名付けられ、幅は2.2―2.5メートル。車道と歩道の間に青で色分けされ=写真、1日3万台も通る道路も。世界でも珍しい専用信号「グリーンウエーブ」も設けられ、朝夕ラッシュ時の安全・スムーズな通行を確保している。

デンマーク

 こうした環境整備を後押ししたのが自転車人気。「健康や環境にいいということに加え、電車や地下鉄にまで自転車を持ち込める仕組みをとっていることも、自転車が愛されるようになった理由」とデンマーク大使館商務官のイェンス・イェンセンさん(31)は話す。
 首都コペンハーゲンでは1996年、自転車を無料で貸し出す「シティーバイク」制度も導入。2000台が用意され、貸し出し・返却用「ラック」も110カ所に開設。スタイリッシュなデザインの自転車は市民や観光客の人気を呼び、街の名物になっているという。「環境都市」を世界に発信する主力はまさに“自転車”なのだ。(取材班)

2008年7月31日(木曜日)


 (7) エンジョイ!自転車ライフ[上]

 
エコ時代 軽快に開く
 

 澄んだ早朝の空気はおいしい。スタイルにこだわって購入した“相棒”のハンドルを手にし、ペダルを踏む。風に髪がなびく―。ツーキニスト(自転車通勤者)の世界に足を踏み入れた人は、その壮快感の虜(とりこ)になるようだ。職場へ汗だくで行ったっていいじゃないか。一度始めてみよう。週末の家族での移動も、ちょっとだけ車から切り替えてみよう。そこにはエコ時代を切り開く新たなライフスタイルの一ページが広がってくるはずだ。(ふくeライフ取材班)

 
おしゃれに快適通勤、キャンプだって二輪で…
需要先取り 新型が続々
  
 ■進化するアイテム■
 せっかく毎日、自転車を使うのなら、格好よくスピーディーに乗りたいものだ。もっとかわいく、もっと乗りやすく…といった思いも芽生えてくるだろう。そうした需要を先取りし、後押しするかのように近年、さまざまなタイプの自転車が開発され市場に送り出されている。
 「5年前と比べると種類は10倍くらいになってるかな」。勝山市の「サイクルコミュニケーション・ナチュラル」店長の森下治雄さん(37)は、自転車市場の変動を指摘する。
 中でも注目を集めているのがスポーツバイクの一つ「クロスバイク」。マウンテンバイク(MTB)の握りやすいストレートハンドルと、ロードレーサーの走りやすい細めのタイヤなどを融合させた新タイプの自転車だ。MTBのカジュアルな雰囲気を持ちながらも街中、長距離を問わずスムーズに走らせてくれる設計。

鈴木さん

お気に入りのロングバイクに乗る鈴木さん。「夏はこれでキャンプに」と目を輝かせる=27日、福井市

 2年前に購入した福井市の男性会社員(27)は「足をペダルに乗せるだけでタイヤが回る。まるで道を滑るような感じ」とお気に入りの様子。健康のために、と何度となく始めたジョギングは5日間でギブアップしたが、「この自転車で毎朝1時間走るツーリングは2年間無理せず続けられている」と笑顔を見せる。
 「車に例えるとロードレーサーがスポーツカー、MTBが四輪駆動車。その中間のクロスバイクはコンパクトカーかな」と表現するのは福井市の「サーバ・サイクルズ」店長、藤井義之さん(44)。自転車通勤を始めようと店に訪れる人は性能を知ってその気になるようで、4月以降購入者が増え、今や販売台数の6割を占めるという。
 ■お出かけに新スタイル■
 もう一つ、20―30代に最近人気なのが「ミニベロ」。折り畳みを含むタイヤサイズ20インチ前後の小径自転車だ。
 駅前などへ出掛けるときは車のトランクに積み込み、郊外の安くてすいている駐車場に車を止めて街へ繰り出す。完全に自転車に切り替えなくても、そんなスタイルからまず楽しみ始めているのは福井市の会社員、黒瀬晶子さん(23)。「駅前商店街の狭い路地でも小回りが利くでしょ。駐車場のない裏通りの小さなお店も見つけられるし、街の楽しみが広がった感じ」
 こうした女性層も狙ったのか、専門店にはピンクや黄緑色などカラフルな車体が目立つ。ウエアやリュックサック、サドルなど関連グッズのバリエーションもこの5年余りの間、急増中という。輸入物ではヘビ柄や国旗の入ったタイヤなども出現、品切れで入手困難といわれるほど。14年前からツーリングにはまっている福井市の公務員、酒井章さん(36)は「ウエアは通気性などの機能に加え、普段着でも格好良く着られるものも多くなった」。トータルでファッションを楽しめば、自転車ライフの満足度は一段と増すはずとアドバイスする。
 ■二輪版ワゴンも■
 週末に荷物をたくさん積んでキャンプに行くなら、車じゃなくて、よりエコに自転車で行けたらなあ! 最近はそんな要望に応える自転車まで登場してきている。
 「珍しい車種に乗っている人が自転車レースに参加するみたい」。今月27日、そんなうわさを聞きつけ、福井市の大会会場へ出掛けてみると、続々ゴールする参加者の中に全長2メートルほどの水色の自転車が目に飛び込んできた。
 「いいでしょ」と見せてくれたのは越前市の会社員、鈴木康太郎さん(24)。ビール箱や大型のクーラーボックスでも楽に置けそうな後輪の荷台。米国メーカーが「車に頼らない生活を」と企画・開発したロングバイクだ。日本では今年2月に発売。注文から3カ月待ちになるほどのヒット商品となっている。
 「風景や自然のにおい、虫の音にも気付ける自転車のスピードが、僕の生き方には合っている」と鈴木さん。「今夏はアルコールストーブ、たき火台、折り畳みのイス、寝袋などをがんがん載せてキャンプに」と計画を練る。
 アウトドア関連では、GPS(衛星利用測位システム)とインターネットとの組み合わせにより、地球規模で「宝探し」を楽しむゲームも登場した。街中の小道や歴史的建造物などに参加者が隠し、ネット上に登録した宝物を、GPSを駆使して探し回る。米国の会社が「ジオキャッシング」と名付けて展開。宝は世界で62万カ所、国内でも既に1500カ所以上に設置され、自転車愛好家の間でもサイクリングを楽しむ新たな手段として、取り組む人が出始めている。
 「自転車のあるライフスタイルって、今後どんどん楽しく格好よくなる」と先駆者たちの言う世界が広がっていく。
 


                         (上)

 
通勤時間がスポーツに
酷暑何の 7日で体重1.5キロ減
 
 「暑いのに、ようやるのう」。周囲に半ばあきれられながらも、往復14キロの自転車通勤を開始したのが、今月14日。「自転車通勤にすると、通勤時間をスポーツにできるんですよ」。本企画の取材で聞いた福井市内の自転車店店長の一言に、心を動かされた。結婚後、運動する時間が取れないことが悩みだっただけに

通勤途中の記者

通勤途中、農道を駆け抜ける取材班の記者。青々とした稲穂が広がるさわやかな田園風景を独り占め=福井市

「それ、いいですね!」。決断は速かった。
 開始初日。いつもより30分早く家を出た。気温は既に25度近くあるが、曇り空で風が心地良い。自転車を始めるにはもってこいだ。
 多少不安があったが、こぎ始めると追い風を受けたためか、意外にペダルは軽かった。新鮮な空気を浴びると、ストレスと運動不足とでよどんだ心と体が洗われるような、すがすがしさを感じた。
 信号待ちで止まると汗がじわりとにじむ。それも走り始めるとすっと引き、ひんやりとした涼しさに変わる。道路脇の緑の稲が風に揺れ、小川の水がさらさらと流れる。
 育児と仕事で自分の時間など皆無に等しく、独身時代常連だったフィットネスクラブにも通えずにいた。それだけに、風に吹かれながら店長の言葉をかみしめた。自転車通勤ならば、単なる移動にすぎない時間を有意義な時間にできる。
 帰宅後足が張り、疲労で布団に直行した。だけどそれ以上に感じたのは「走りきった」達成感と充実感。開始1週間で体重は1.5キロ、体脂肪率も1%減った。
    ◆◆◆
 そんな私の「愛車」は、入社2年目に10万円を出して“大人買い”したマウンテンバイク。実は長年手入れを怠りサビだらけで、7年近く倉庫に眠ったままだった。すると店長が「もったいない。修理するで、持ってきてや」。

支出

 1週間後、ボロ自転車は新品同様に生まれ変わった。移動ツールを超え、自分磨きという役割まで担った。自称エコマニアの実母は「エコでかっこいいがの!」。さらに乗り気になった。
    ◆◆◆
 マイカー通勤だと私の車(1300cc)の場合、往復14キロで1リットルのガソリンを消費する。今なら180円分だ。一方の自転車は水分が必要な程度で、マイ水筒で節約できる。休日の買い物も自転車で済ませた。荷物を軽くしようと心掛けるので、無駄な衝動買いが減る。思わぬ節約効果?
 店長いわく「冬期間(12月―2月)をのぞくと月20日は自転車に乗れますよ」。もう少し気楽に月15日と考えると、修理代など初期投資約5万円は、2年あまりで元が取れる計算(※メモ参照)だ。調子に乗って帰宅後、飲み食いでエンゲル係数を上げなければ、の話だが。(土生(はぶ)仁巳)
   × × ×
 ツーキニストを自ら実践! とばかり、取材班の一人、30代“ママ記者”が自転車通勤に着手した。体験談を報告する。
 
 

ツーキスト天国

 
デンマーク事情 (上)
通勤「7年後に5割」 三輪車も頻繁
 
 三輪自転車の前方に設けられた巨大なかご。中に座るのはヘルメットをかぶった幼児―こんな変わったスタイルの自転車=写真=が街中を頻繁に行き交う国がある。北欧のデンマークだ。
 同国のメーカーが25年以上前に開発した「クリスチャニアバイク」。一見大きな荷台は不便そうに思えるが、二輪と違って左右のバランスが安定し、母親がわが子を見守りながら安心して運転できるとあって評判を呼び、徐々に普及してきたという。

デンマーク

 デンマーク大使館商務官のイェンス・イェンセンさん(31)は「朝、子どもをクリスチャニアバイクで送るのは、今では日常的な光景」と話す。
 温室効果ガス削減にいち早く取り組んできた北欧。中でもデンマークでは、ほぼ全土が平らな地形も手伝ってか、移動のベースを自転車に置く人が多い。首都コペンハーゲンでは36%(2007年現在)が通勤通学で利用している。「これは世界に誇る高い水準」とイェンセンさん。
 2015年には50%に引き上げることを目標に据え、押しも押されもせぬ世界一の自転車都市を目指し、まい進中という。
  × × ×
 ちょっと視野を広げ、世界の“ツーキニスト王国”とされるデンマークの自転車事情を見てみたい。同国大使館の協力を得て紹介する。(取材班)

2008年7月17日(木曜日)


 (6) 続・カーセーブ

 
“脱クルマ”進行中
 

 ガソリン価格にビクビクしながら運転するくらいなら、この際、移動手段の柱を思い切ってバスや電車といった公共交通機関や、自転車へ転換してみるのも一手かもしれない。ちょっぴり面倒くさくて時間もかかるけど、環境・健康志向をくすぐり、スローライフをエンジョイできるというのが、実践を試みた先駆者たちの視点だ。「節約術の巻」今回は県民に芽生え出した“脱車”の動きを追う。(ふくeライフ取材班)

 
電車、バス定期ぐんぐん
頑張ってます! 家族で自転車ライフ
 
 ■道路に異変?■
 「首都圏で渋滞が減っている」「首都高速の通行量が減少」―ガソリン価格が再高騰した先月以降、こんな報道が新聞やテレビをにぎわわせ始めた。理由は車離れとも…。本県はどうなのか。
 県内で最も車が集中する場所の一つといわれる福井市の国道8号北四ツ居―米松交差点間。通行量の自動観測を行っている県警交通規制課に集計を求めてみると、今月の第1週、通勤ラッシュの午前7時から1時間に同区間を通った台数は7日間で延べ2万346台と、昨年同期比584台減少していた。
 特に土日の2日間は計341台の減少と、マイナス幅が目立つ。週末の外出を中心に“脱車”に流れていることを示すデータだろうか。
 ■公共交通は一転■
 対照的に、えちぜん鉄道の先月の通勤定期利用者数は、前年同月比17%増となる4万4000人。福井鉄道も17%増の1万8540人と過去最高の伸び率となっている。京福バスも先月は4%の増だ。

アミーナさん

自転車を列車に乗せるため、分解して専用の袋に入れるアミーナさん=JR福井駅前

 「バス通勤も、慣れると結構楽やね」と話すのは坂井市の男性パート店員(59)。今年5月、思い切って通勤手段を切り替えた。自宅から福井市北部の職場までは10キロ弱。以前は仕事のない日も連日、車を“足”として使い、ガソリン代は月1万円以上掛かっていた。今は行きのバスに加えて「帰りは娘が迎えに来てくれるから、通勤でかかる費用は片道のバス代(360円)だけ」。交通費は約1000円安くなった程度だが、自宅からバス停まで約10分の道のりを遠回りして20分かけて歩くと「健康にもいいし、景色も楽しめて気分がいい」と満足そう。
 ■“チャリン党”続々■
 近場の移動なら自転車も切り替え手段の一つだろう。
 福井市の専門店「バルバワークス」では先月、1カ月間の来店者数が昨年同月比で倍増となった。「ガソリン高騰に加え、メタボ検診やエコを意識する30代から60代までの男性が多く来店されている」と寺崎嘉彦店長(43)。
 福井大教授の光藤誠太郎さん(43)は、ガソリンの暫定税率が復活した5月から本格的に自転車通勤を始めた。悪天候以外の日は、学校まで約4キロを卒業生から譲り受けた「ママチャリ」で通う。今は車を家族での買い物にしか使わない。「毎月6000円くらいかかっていたガソリン代も、2200円にまで減った」と笑顔を見せる。
 家族ぐるみで自転車ライフをスタートさせる人も出始めた。福井市の西田浩一さん(39)は「地球環境への貢献と家計の節約のため、できる範囲でやってみよう」と、三月から徐々に自転車通勤の回数を増やしている。妻の麻記さん(38)も買い物の“足”を自転車に切り替え。
 それに刺激を受けたのが小学五年の長男、隼基君(11)だ。野球スポーツ少年団の練習に自転車で出掛けるようになった。それまで週3日、車で送り迎えをしていた麻記さんは「ガソリン代に加え、時間の節約にもなり助かる」とにっこり。隼基君は「一人一人がこうすることで、地球が良くなり、空気もきれいになったらいいな」と志は高い。
 ただ、自転車での移動は安全対策が不可欠。自転車通勤歴十年という上山富士夫さん(55)=勝山市=は片道10・6キロを毎朝30分かけて走るが、「信号が青でも車が突っ込んできた経験がある」と話し、通行中の注意を促す。夜間対策で照明器具も欠かさず、「ヘルメットや修理具も毎日忘れず身につけている」という念の入れようだ。
 
チャリ&ライドも「ナイス」
電車と併用意外に手軽
 
 燃費はもちろんゼロ、温室効果ガスも出さず、地球環境にも「いい感じ」の自転車。でも街から街へ数キロ、何十キロといった長距離移動はちょっとしんどい…。そういった方には、エコな鉄道との組み合わせはいかがだろうか。その名も「チャリ&ライド」。
 首都圏に比べ鉄道網が貧弱な本県でも、鉄道と自転車を組み合わせれば、時間と体力次第で縦横無尽に動き回ることができる。車を手放し実践し始めた人もいるようだ。

西田さん一家

家族ぐるみで自転車ライフを始めた西田さん一家=福井市

 福井市内の高校で英語を教えているアミーナ・マスブさん(30)は福井へ来て1年間は軽自動車に乗ったが、昨春手放し自転車通勤に切り替えた。買い物をはじめ、すべての用事を自転車で済ませている。
 遠方についても「列車に自転車を載せれば簡単」。仕事が終わった後、坂井市丸岡町に住む友人を訪ね、食事を楽しむこともよくあるという。JR福井駅まで自転車で移動し、福井―丸岡間は列車で11分。待ち時間も含めると移動に使うのは計40分。車の移動とは10―20分違う程度で、夕刻は渋滞も多いと考えれば「列車と自転車の方がベリーナイス!」。
 JRでは、タイヤを外して専用の袋に収納すれば手回り品として車両に持ち込むことができる。分解や組み立てはちょっと面倒に思えるが、「作業は覚えれば意外に簡単だし、遠い所へ行くほど景色も楽しめる」と笑顔。昨夏は佐渡島まで列車とフェリーを乗り継ぎ、自転車で島を一周。来月には日本縦断ツアーも計画中という“強者(つわもの)”だ。
 アミーナさんの出身地、米国ペンシルベニア州ピッツバーグでは自転車通勤の人も多いという。ただ、道はでこぼこで自転車専用レーンもない。それに比べると福井の道は「田んぼの景色や平らな道を楽しめ、サイクリングも始めやすい」。ピッツバーグは鉄道が発達していないだけに「列車に自転車を乗せて簡単に遠出できる日本はうらやましい」とにっこり。
 自転車をわざわざ分解しなくても、車両にそのまま持ち込める―そんな一歩進んだシステムを導入しているのが、えちぜん鉄道だ。昨年始まった「サイクルトレイン」。今年は昨年の倍の計90日間運行する計画で、先月22日までに延べ514人が利用。昨年1年間の994人を大きく上回る勢いという。
 「自転車を持ち込めば、降りる駅と帰りに乗る駅が違っても平気だし、駐車場を気にせず動き回れるのがいい」と話すのは、あわら市の自営業、大宮健司さん(45)。2006年3月、それまで乗っていた軽貨物自動車を手放して以来、市外へ遠出の際は電車を活用し続けている。
 楽しみの一つは山や川の自然が豊かな奥越への遠征。同鉄道が土日・祝日に発行する一日800円のお得な乗り放題フリーきっぷを使って勝山まで向かい、レンタサイクルを借りて大野方面へ足を延ばす。先月は一度も車に乗らずに終えたという達人は「混雑する街中を電車や自転車ですり抜けていくのは快感」とも。
  
 【メモ】県内では福井鉄道でも、片手で持てる範囲であれば、折り畳み自転車や、タイヤを外して専用の袋に入れた自転車を手荷物として扱う。えちぜん鉄道で自転車と一緒に乗車できる時間帯は、土日・祝日の午前8時から午後6時まで。1台200円のサイクルチケットを購入すれば、1日に何度でも自転車を持ち込むことができる。利用できる駅は福井、松岡、新田塚、三国など12駅。

2008年7月2日(水曜日)


 (5) 「カーセーブ」

 
エコ替え“加速”
 

 ガソリン価格の高騰が止まらない。燃費を浮かすエコドライブの一方で、愛車の買い替え期を迎えた人の中には、より燃費が良くて温室効果ガス排出も少ないタイプに―いわゆる「エコ替え」の動きが、じわり県内でも広がっている。いっそのこと車そのものを手放しちゃえと、4輪から2輪へと、極端な行動に出る人さえ出始めた。「節約術の巻」今回は、あの手この手で”足”のスリム化を試みる人たちを、ハード面から迫ってみる。(ふくeライフ取材班)

 
「ハイブリッド」高いけど… 地球にイイ感じ
軽貨物も案外イイ
 
 ■ぐんぐん3割増■
 「燃費が良い車」と聞いて思い浮かべるのがハイブリッド車だろう。福井トヨタ自動車(福井市)では1―6月の受注台数が194台で前年同期比29%増。昨年度から国、市町の公的補助金が打ち切られたにもかかわらず、人気は急上昇。
 福井市の会社員、前田智史さん(28)は昨年2月、結婚を機に、8人乗りの国産ハイブリッド(ミニバン)を購入した。
 1リットル当たりの走行距離は前の車(1800CCセダン)が9.5キロ程度だったのに対し、現在は車の大きさも排気量も増えたのに最高12キロまで伸びた。「結婚して出掛ける回数はぐんと増したのに、ガソリン代は月2万円で変わらずに済んでいる」と笑顔を浮かべる。
 購入価格は同一車種に比べ約100万円高く、資金が伴わないとなかなかできない決断だが、「元を取ろうと思って買ったわけではなく、燃費や性能、環境を自分なりに考えた上での購入」と納得顔。
 ハイブリッド歴10年の福井工大教授、前田博司さん(62)=大野市=も、毎日の通勤が片道約60キロと長いだけに、長く乗れば購入費は高くても節約効果は大きいとみている。「ガソリンの使用を減らせて地球環境に貢献していると思うだけで気分が違う」と、満足そうだ。
 ■共有で安く■
 車の維持費を浮かせる手段として、最近登場したのが、複数の会員が1台を共同利用する「カーシェアリング」。
 同システムを展開する事業所が、昨秋福井市内に進出。県内でも利用が広まりつつある。

越前市の「モトクラブ」

オートバイ専門店への修理依頼は例年の倍近くに伸びているところも=越前市の「モトクラブ」

 カーシェアリング運営会社ユーピーアール(東京)は県内2カ所の駐車場に専用の車を1台ずつ配置。会員になれば、携帯電話やパソコンで車両の空き状況を確認し、好きな時間に予約ができる。入会金や月会費のほか、走行距離、使用時間(15分当たり昼間は100―200円)に応じた料金を支払う仕組み。
 広告を見て、すぐに申し込んだという福井市内の50代男性は、週3、4回利用している。車を所有すれば、税金や駐車場、ガソリン代などが掛かるが、男性が支払うのは毎回2時間ほどの利用で月約3万円。「通勤で毎日使うわけではないので、使いたいときに使えて、その分しかお金が掛からないこのシステムが気に入っている」と話す。
 業者のサービスを使わないまでも、近くに住む人たちで乗り合わせて通勤費を浮かせている人も出始めているようだ。
 ■「4」も狙い目■
 節約派に、ひそかな注目を集めているのが4ナンバーの軽ワゴン車だ。一般の軽乗用車に比べ自動車税が年間4000円とさらに割安になる。

軽自動車も案外イイ

 坂井市の矢口正雄さん(61)は3年前に軽乗用車から買い替え。1リットル当たり13キロと燃費はほぼ同じだが、「荷物がたくさん乗るし、車検も普通車に比べ数万円安い」とお得感を実感する。
 車好きという鯖江市の会社役員(40)は、ドイツ車のセカンドカーとして最近購入。日常の“足”はもっぱら4ナンバーだ。以前は“おじさんカー”といった印象だが、「今はかっこいい型も出ていて、環境にいいって感じで、すてきに乗れている。子どもが野球してるんで、送迎にバンバン使いたい」とにっこり。
 ただ、任意保険をかけるとき、「割引特典である年齢制限が全年齢担保になってしまうため、長期契約の場合は不利になる可能性もある」と専門店。「車の買い換えは、必要性をいろいろ吟味して」とアドバイスする。
 
往年の二輪再び
倉庫から修理へ “シューリスト”増加
通勤費1万円減も
 
 「あのころは安かったよな」―最近のガソリン価格高騰を受け、学生時代を思い出した元ライダーのお父さんもいるだろう。車に比べてちょっと危ないけど、燃費は格段に優れているオートバイ。もしかして、かつての愛車を倉庫から引きずり出してきている人もいるのでは…。
 そんな推測を基に、県内の二輪販売店に聞いてみると、いました! 越前市のオートバイ専門店「モトクラブ」には今年に入って、車検の点検修理以外で例年の倍近い、月20件の修理依頼が舞い込んでいるという。バッテリーの修理だけでも30件と、異例の多さだ。
    ◆  ◆  ◆
 永平寺町の会社員(53)はこの春、15年ぶりに通勤用にオートバイ生活を復活させた。愛車の四輪(3000CCステーションワゴン)に乗るのは悪天候の日のみ。毎朝、空を見上げ「いける」と見た日はヘルメットをかぶり、大野市の勤め先まで約60キロを往復する。
 大型二輪免許を取ったのは18歳のとき。休日は750CCにまたがり、岐阜・高山などにツーリングへ。家庭を持った15年前に手放したが、「昔の感覚を思い出したい」と2年前、一回り小さい250CCのオートバイを購入していた。「でも、車での移動に慣れきってしまったこともあって、1000キロも走らないまま車庫に眠らせていた」と男性。ガソリン価格高騰は、二輪熱を本気で復活させるいい機会になったという。
 朝起きて、青空が広がっていると、にやりとする。軽やかなエンジン音を聞きながらハンドルを握り、風を切る感触が楽しい。
 この二輪の場合、燃費は1リットル当たり30数キロ。ステーションワゴンだけのころはガソリン代に月4万円近くかかっていたが、「今は月3万に減った」と喜ぶ。
    ◆  ◆  ◆
 福井市の専門店「赤い3輪車」にも、月15件ほどの修理依頼が来ている。1980年に生産された原付きバイクの修理依頼は遠く宮城からのもの。こうしたツーリストならぬ“シューリスト”の増加は全国的な流れのようだ。
 「部品がもう生産されていない場合や、タイヤなども値上がりしているので修理代が高くつく場合もある」(店長)というが、高い燃料をばらまくよりは「愛着のあるバイクに」という思いが上回っているとみている。ただ、何年も放置されたガソリンは危険と、注意を促す。

2008年6月26日(木曜日)


 (4) エコドライブ

 
燃費向上に“走”意工夫
 

 ガソリン価格が1リットル170円台に高騰し、「いずれ200円台?」とさえ、ささやかれる。気になるのは今や多くの県民の日常の”足”となっている車の燃料代。特に長距離の通勤者や、家族でのドライブにと張り切って大型のワンボックスカーなどを購入したお父さんたちには痛手。家計へのしわ寄せを、何とかセーブして切り抜けたいものだ。「節約術の巻」今回は「エコドライブ」をキーワードに、県内の達人たちが実践する燃費向上のあの手この手の取り組みを紹介する。(ふくeライフ取材班)

 
給油、空気圧、オイル小まめに
「エアコン切る」
車重もアクセルも引き締め
 
 ■第2の波■
 福井市内のカー用品店をのぞくと、燃費対策グッズコーナーで品定めする人が目立つ。マッハ福井店によると、売り上げのピークはガソリンが高騰し始めた昨春。その後いったん売れ行きは落ち着いたが、ガソリン価格170円台突破直前の5月下旬から再び伸び始めたという。「高騰のタイミングにシビアに連動している」と同店カー用品アドバイザーの三澤民雄さん(46)。燃料代節減策として次のようなアドバイスをしてくれた。
 現在販売されているグッズは約20種類あるが、多くが燃費を直接向上させるというより、性能の低下防止などに主眼を置いているという。「低燃費の柱は何と言っても、ドライバー自身の意識による部分が大きい」
 ■車重で1キロ違う?■
 エコドライブの実際の現状はどうなのか。市内の各カー用品店を訪れた実践者にアンケートを取ってみると、回答で最も多かったのが「急発進・急停車をしない」。「車の軽量化が効果的」といった声も複数聞かれた。

低燃費運転を心掛ける前田さん

車の燃費測定器を取りつけ、低燃費運転を心掛ける前田さん=福井市内

 国産2500CCのミニバンに乗っている福井市の会社員(32)は「月4、5回、満タン(60リットル)で給油するので、ガソリン価格が20円上がったら月6000円変わる。それは痛手」と、1年前から実践に踏み切った。
 そこで着目したのが車重。スノーボードやキャンプなどアウトドア系を趣味にしているこの男性。レジャー用品の収納場所は車のトランクで積みっぱなしだったが、すべて下ろした。これで車重は30キロダウン。ガソリンも、満タンなら重さ約45キロにもなることから、面倒でも少量ずつ入れることで軽減を図った。
 1リットル当たりの走行距離は「街乗りで8―9キロ行くようになった。1キロは変わったと思う。やればできるもの」と手応えをつかむ。
 10年前製造の国産軽四輪駆動車に乗っている坂井市の会社員(51)も給油量の軽量化に取り組む。この男性がさらに重視するのはアイドリングストップ。赤信号が40秒以上続く交差点では必ずエンジンを切る徹底ぶりだ。「夏タイヤなら1リットル当たり13キロは行く。同じ型の車を比較しても、頑張っている方では」と笑顔を浮かべる。
 ■省電力も効果■
 第一次、二次オイルショックを機にこの30年余りの間、「エアコン付きの車を買っても一度も付けたことがない」と断言するつわものもいる。谷口満さん(50)=福井市=だ。愛車は業務用も兼ねた軽バン。この車の場合、「エアコンのコンプレッサーを回さないだけで、エンジン回転は200―300は変わる」と話す。長期的に見た場合、積み重ねは大きいと強調する。
 国産1500CCに乗っている福井大3年の男子学生(20)=同市=も脱エアコン派。「エアコンを付けると、ガソリンを食う勢いが違うような気がして…」。ちなみに横にいた彼女(19)=鯖江市=も「愛車は窓全開です」。効果は微量かもしれないけど、節約に努力していると思うと気分がいいもの。「風を受けて走ると開放的」と笑顔。
 ■地道に、こつこつ■
 もう一点、三澤さんは「タイヤも大事」とアドバイスする。空気圧を適正にすることで路面との摩擦が少なくなり、転がりやすくなる。「さらにエンジンオイルも小まめに替えないと、エンジンの駆動系に負荷がかかるから、燃費に悪影響」。いずれにせよ、あの手この手を地道に、こつこつ積み重ねが大切という。
 
ち密足技 1リットル16→19キロ
“達人”に聞く
 
 努力と工夫で「1、2割は燃費改善できている」と語る前田勇希さん(33)=福井市=の実践例を紹介しよう。
 愛車は2年前購入の国産1200CC。半年前までは、一般道を1リットル当たり16キロほどで走っていたが、原油先物が1バレル=100ドルを突破した昨年末に一念発起。今では10・15モード燃費(約19キロ)付近をキープする。郊外なら20キロに達することも。
 車を改造したわけではない。移動距離や消費ガソリン量に応じて瞬間燃費などを計算・表示する測定器(ネット販売価格2万数千円)を運転パネルに取り付けたのみ。「それが正確かどうかは分からないけど、自分の意識付けになればと思って」
 分かったのは発進時の燃費が「劇的に高い」こと。「ここにポイントがあると思った」。測定器をにらみながらアクセルの踏み幅を1センチ、2センチと変えてみたり、じわり強く踏んでいったりと、さまざま試し、足裏に覚え込ませていった。
 「急発進、急停車だけじゃなく、加速が鈍すぎてもガソリン消費が大きいことを発見した」と前田さん。エンジンの回転が3000を超えないよう注意しながら素早く加速させ、その後はアクセルを極力一定に保つのがベストとみている。アイドリングにも気を使い、信号待ちが多い道路や時間帯は極力避ける。車内に余分な荷物も置かない。
 前田さんの愛車の場合、「最も燃費効率が良いのは高速道を時速80キロで走ること」と、これまた経験でつかんだ。「往復700キロ圏の名古屋なら渋滞さえなければ無給油で行き来できる」と自信を見せる。

 
  達人たちの「低燃費運転」虎の巻
 
 一、急発進・急停車を避ける(加速が遅すぎても燃料消費が大)
 一、目標のエンジン回転数を定め、超えないよう加速
 一、無駄な荷物は置かず、ガソリンも分割で入れて車重を軽く
 一、エアコンなど電力消費を減らす
 一、タイヤの空気圧は適正に
 一、オイル交換も小まめに
 一、アイドリングストップ。信号待ちが多いコース、渋滞は避ける
 
2008年6月4日(水曜日)


 (3) お出かけ「関西編」

 
車と電車でGO!GO!
京都、大阪行くなら…
パーク&ライド お得でっせ
 

 郊外から駅まで車で移動し、都市中心部へは電車で入る「パークアンドライド(P&R)」。欧米で進む環境配慮型のこのシステム、目的は温室効果ガス削減や渋滞解消といった印象が強いが、福井の“節約の達人”たちの手にかかると、交通費を浮かせる絶好の手段にも生まれ変わる。ターゲットは関西へのアクセス。ガソリン価格が高騰する今、格安駐車場に、発達する鉄道網をうまく組み合わせれば、お得で快適な旅が楽しめるというのだ。「節約術の巻」今回はP&Rをキーワードに、京都、大阪の出かけ方を追う。(ふくeライフ取材班)

 
無料駐車場 新疋田以西狙い目
 
 ■起点その一は疋田■
 片道200キロ以内の京都や大阪は福井から日帰り圏。「長男が住む京都に毎月1回、夫妻で出かけるのが楽しみ」というあわら市の会社員(48)が目を付けたのは、滋賀県境に近いJR新疋田駅(敦賀市)。2年前、快速電車が敦賀市に乗り入れたのを機に市が整備した無料駐車場の存在だ。
 47台が時間無制限で止められる同駐車場。ここを起点に湖西線経由の新快速を使うと、京都まで夫婦2人で往復5800円。丸岡ICから敦賀ICまで高速道でアクセスしても、ガソリン代を含め計1万円強で済む。2人で芦原温泉―京都間を特急で往復した場合の半額だ。
 京都までずっと高速道で行く場合、往復の高速代(8700円)に走行距離約3百数十キロのガソリン代を含めれば1万数千円かかる上、「京都市内の駐車場代が高いことも考えると、乗り換えは面倒でも金銭的には気楽」と会社員。移動時間も新疋田―京都間は湖西線経由なら1時間余りで結ぶため、高速道利用とさほど変わらない。
 ■滋賀県内も便利■
 滋賀県内にも達人たちが狙う駅がいくつかある。年3、4回は京都に出かけるという永平寺町の団体職員松露耕太郎さん(24)は、JR近江今津駅まで車で行き、併設の無料駐車場に止めて新快速に乗り換える。

JR新疋田駅無料駐車場

パークアンドライドを使った”節約派”に注目のJR新疋田駅無料駐車場=敦賀市疋田

 近江今津―京都間は約50分でアクセス。友人4人と乗り合いで一般道を行けば、割り勘のガソリン代と電車代(1人往復1900円)込みで1人当たり往復3000円で済むという。
 高島市が管理する同駐車場。隣接する市の施設も含めると209台が止められるが、近隣には既にP&R派の“穴場”として利便性が知れ渡っているため「平日は通勤客で満杯」。ただ、土日なら比較的すいているので「お薦め」とも。
 とはいえ、指定席のない電車で1時間前後の移動は、子連れの家族には大変。特に夕方の復路は満員で、長く立ちっぱなしとなることも。さらに、大阪まで行くとなると、新快速とはいえプラス30分かかる。
 「せっかく滋賀県内まで来るのなら、車でできるだけ大都市圏に近づき、道路が込み合う前に電車に乗り換えて目的地に、というのも一手」と話すのは同県出身の女性(33)=鯖江市。
 二児の母でもあるこの女性は、JR草津駅前の市立地下駐車場(265台収容)が、京都駅ビルの伊勢丹デパートで3000円以上買い物すると4時間無料になることに着目。「買い物好きの女性なら、気持ちよく琵琶湖をドライブしたついでに草津駅まで一般道で出かけてJRに乗り換える方法も楽しい」と、地元出身女性ならではの“技”を明かしてくれた。
 草津―京都間は新快速で約20分(1人往復800円)、大阪までは約50分と、電車にかかる時間も費用も圧縮される。
 鯖江から草津までは100キロ以上もあり、「それならいっそう、途中越えで京都まで車で行っても距離は一緒では」と突っ込みを受けることも。「でも、山間部は運転が不慣れな人には大変だし…」と同女性。
 ■京都東部なら■
 草津よりもう一段京都に近い大津市では、市が京阪電鉄と合同でP&Rを実施中。
 同電鉄浜大津駅では、京都市営地下鉄と京阪電車大津線が一日乗り放題となる「京都地下鉄・京阪大津線1dayチケット」(1000円)や同市営地下鉄の乗車券などを購入すれば、駐車料金は終日500円で済む。
 京阪沿線上の京都東部へ行きたい場合にはこちらがお得かも。
 
草津経由8800円 ええ感じ
取材班一家 体験しました
 
 京都、大阪方面は、JR草津駅からのP&Rもお得―とする滋賀県出身女性のアドバイス。「伊勢丹で買い物をすれば…」の情報に「いい感じ!」と声を上げた取材班。それなら、と取材班の1人が一日、一家4人で体験してみた。
  ×  ×  ×

パーク&ライド

 午前7時半、越前市でガソリンを満タンにし、国道8号をスタート。敦賀湾沿い、琵琶湖北部とも車の流れはスムーズ。山の高台を通る「湖西道路」からは、青く輝く湖の壮大なパノラマが広がり、なるほど快適。草津市までは有料の琵琶湖大橋を通らないといけないが、湖上ドライブもなかなかのもの。10時すぎには草津駅に到着した。
 走行距離は約125キロ。琵琶湖北・西部はバイパスが整備され道路事情も良かったせいか、疲労感は思いのほか少ない。
 地下駐車場はすいていた。京都まで新快速で4駅、20分余り。京都駅で早めの昼食をとった後、十分に余力があったので「伊勢丹散策」に意欲満々の妻と長女を駅ビルのデパートへ残し、長男と2人で大阪へ出掛けてみた。
 使ったのは新快速。高槻と新大阪に停車するだけで、ほぼ特急並みの速さ。大阪駅付近で1時間半ほど過ごした後、京都で女性陣と合流し草津へ。
 県外のデパートで買い物ができたことに女性陣は満足そう。長女が欲しがっていたエプロンや水着セットなど3000円余りを購入したことで駐車場の4時間無料券をゲット。駐車時間は1時間オーバーしたものの、追加料金は200円で済んだ。帰路もスムーズで、午後6時半ごろには越前市に。
 この日の交通費は1人平均2200円。ドライブついでに大都会の刺激も得て、安上がりに1日を満喫できた感があり、女性のアドバイスに納得。
 
 ▽ガソリン代 4250円
(越前市−草津間往復約250キロ、1リットル=170円、10キロ走行で計算)
 ▽有料道路代  400円
(琵琶湖大橋・往復)
 ▽駐車場代   200円
(1時間追加分、4時間は無料)
 ▽電車代   4020円
(草津−京都往復4人=大人800円×2、小学生400円×2、京都−大阪往復2人=大人1080円×1、小学生540円×1)
 ▽合計    8870円

2008年5月28日(水曜日)


 (2) 出張「東京編」

 
空路利用ぐんぐん増
 

 刺激的な大都会へたまには出掛けてみたい。首都圏相手にバリバリとビジネスを展開したい。けど…、気になるのが交通費。できるなら、よりお得に行き来したいものだ。近年、首都圏を中心に激しさを増している交通各社の顧客獲得競争。旅行プランや顧客サービスをこまめにチェックすれば、「節約できるチャンスは意外に多い」と、出張通を自負する県内の”達人”たちは話す。「節約術の巻」今回は、「お得な出張術」をキーワードに、東京へ行くあの手この手の”極意”を探った。(ふくeライフ取材班)

 
早期予約、特典… 割引アイテム進化
  
 ■安くなる「空」■
 東京へ出張や旅行というと、まず思い浮かべるのが新幹線と飛行機。この対決、最近は空路を使う人がぐんぐん増えているという。特に小松空港に近い嶺北北部では、飛行機派がかなり優勢とも。調べてみると…。
 福井市北部にあるJTBトラベランド福井エルパ店では「東京出張客の8割が飛行機を利用」。JR福井駅前に位置する関係上、昔から鉄道利用客が多い近畿日本ツーリスト福井支店でも「以前はほぼ新幹線だったが、今は飛行機が新幹線に四対六で迫る勢い」。

小松空港

東京行きの飛行機に乗り込むサラリーマンたち=小松空港

 航空法が改正された2000年以降、航空各社の割引き合戦が激化。予約を変更できないことを条件に早期予約を受け付ける期間限定割引券が定着しつつある。特に夏休み前の梅雨時は、節約派にとって一つの狙い目。小松―羽田間を運行する2社の通常料金は片道約2万2000円だが、6月25日以降の場合、ANAの「旅割運賃」は1万1800円から。JALの「先得割引」は1万700円からと、正規の半値を下回る。
 また、航空会社が提供するサービスポイント「マイル」をためれば、特典航空券に交換できるなど「割引アイテムがさまざま“進化”している」(福井市、35歳男性)と利用者らは魅力を話す。
 旅行社が企画する宿泊とのセットプランでも、小松―羽田間が都心のホテル代込みで大人一人往復2万4000円台からと、JRの東京往復割引切符(福井発着で2万4880円、交通費のみ)に比べ割安。宿泊込みの旅券を購入する際、JRは二人催行が基本だが、飛行機は一人でも可能とあって、出張での利用者が流れているようだ。
 ■利便性はやはり…■
嶺北南部、嶺南
新幹線が優勢

 嶺北南部や嶺南の傾向はどうなのか。日本旅行ワールド(本社鯖江市)によると「この地域での取り扱いは新幹線が中心」という。
 理由は、空路の割引きを上回る都心へのアクセスの利便性にあるようだ。
 仮にJR鯖江駅から出発すると、福井駅まで(普通列車で片道230円、15分)出た後、京福バスターミナルまで歩き、小松空港連絡バス(1220円、58分)に乗り継ぐ。小松―羽田間は待ち時間を含め約1時間。都心までモノレール(浜松町駅まで片道470円、空港快速で18分)もしくは京急(品川駅まで片道400円、エアポート快特で17分)に乗り継ぎ、さらに目的地まで出向くことを考えれば、費用対効果からも「最寄りの駅から直行のJRの方が便利」となる。
 嶺南からは米原経由の新幹線なら3時間で都心に着く上、JR敦賀、小浜駅は東京往復割引切符を購入すれば駐車場が無料になる。
 JR芦原温泉駅でも東京往復割引切符を購入すると駅併設の駐車場が無料。武生駅は駐車場が7日間400円になる。福井駅も24時間以内なら1200円となる駐車場割引券がお得。
 ■時間あるなら■
 料金を最優先させるなら、高速バスが断トツ。京福、福鉄とも往復で昼便1万2000円、夜行便1万4800円だ。高志観光は7月まで期間限定で、片道5800円の夜行バスツアー「えちぜんライナー」を運行中。
 さらに安く行きたいなら、JRの期間限定の特別企画乗車券「青春18きっぷ」で乗り継ぐのも手。ただし、こちらは時間と体力にちょっと余裕がある場合か。
 
カードでマイルため航空券
陸(おか)マイラーも“増殖中
 
 出張や帰省の機会も、工夫次第で「お得な旅」に変身する。交通機関において節約の“主戦場”は今、航空各社のポイントサービス「マイレージサービス」だ。
 福井市内に単身赴任し、月に2回は妻のいる首都圏とを往復している団体職員(35)の移動手段はすべて空路。理由は「通常の割引き料金にマイレージを絡めれば、鉄道と比べてかなりお得」。

東京までの交通アクセス

 飛行距離が増えるごとにポイント(1マイル=2円相当といわれる)が加算される同サービス。この男性の場合、昨年の搭乗回数は15回で2万マイル。さらに「1回答えるたびに50マイルほど得られる航空会社のアンケートに答え、こつこつためている」。毎朝ホームページをチェックする地道な努力も重なり「昨年は羽田まで2回は無料で移動できた」。母に国内航空券をプレゼントしたことも。
 同サービスが節約派の注目を集めるのは、クレジットカード各社との連携。航空関係以外の買い物でも、カードを使えば100円で1マイル程度加算される。
 東京での商談で年50回以上往復するオーダーメードスーツ専門店「ドゥ・カンパニー」(福井市)の代表、春貴政享さん(36)は「カードが使える店はすべてカード決済」。缶コーヒー1本でもカードで支払い、年数回は航空券をゲットする。
 また、航空券は「現金よりもマイルで購入する方が割安」(団体職員)。このため、飛行機は普段あまり利用しないものの、海外旅行などでいつか乗る日のため、もっぱら地上でマイルをため続ける人も増えている。「陸(おか)マイラー」とも呼ばれ、専用ブログも続々登場。
 5年前のオーストラリア旅行でマイルを意識し始めたという福井市の個人事業主(51)も、今や自称「陸マイラー」。誕生月はマイルが3倍になるため、パソコンなど高額の買い物はその月に集中させる。月々の新聞購読料や電話代などもすべてカード。「振り込みに行かなくて済む便利な点とマイルがたまるお得感がいい」とにっこり。
 昨年1年間で、東京への出張が10回で1万マイル。カード決済で5万マイル。それまでためていた分も合わせ計19万マイルを使い、3月末には夫婦でヨーロッパ旅行を満喫した。
 一定以上のポイントをためると上級会員として扱われる。空港ラウンジを利用できたり、搭乗が優先されるなどの特典があり、ちょっぴりセレブ気分。繁忙期でもチケットをとりやすい利点も。
 いずれにせよ「航空会社の“浮気”をせず、根気強くためるのがポイント」と春貴さん。

2008年5月14日(水曜日)


 (1) 自活でイケてる

 
県内学生に聞きました
電話「相手から」 風呂は半身浴
 

 初回は県内で一人暮らしをする大学生を直撃取材。節約の原点を探ってみた。(ふくeライフ取材班)

 
 一昔前は「風来坊」「苦学生」のイメージがあった大学キャンパス。その“伝統”の一端は今も残っているはず。取材班は今月上旬、福井市周辺にある4年制大学の学生を対象にアンケート調査を行い、計104人からあの手この手の知恵を得た。
 ■食費■
 食費削減の基本は今も昔も自炊だろう。アンケートでは最も多い30人が「外食を控え、なるべく自炊する」と回答した。一人暮らしだけに、毎回作るのはいかにも割高。15人は「食材をまとめ買いし、一気に作って冷凍する」と答えた。
 安上がりな料理を作る中にも知恵を絞れば、いろいろ楽しみも芽生える。「月末で生活資金がピンチのとき、残り野菜で乗り切るときも、スープの素を工夫すれば『簡単ポトフ』ができる」と答えてくれたのは福井大医学部2年の女性。同級生の女性は「安い鶏のささ身を薄く開き、のりとチーズでロールにして焼くのも一手」と、おしゃれで栄養もある“貧乏レシピ”を披露してくれた。
 「カレーの肉は、固まりでなく安いひき肉にすれば、早く火が通って調理も楽だし、ドライカレーっぽくなって意外においしい」(県立大1年・女)という実践報告も。

知人からもらったエアロバイク

狭い4畳半に知人からもらったエアロバイク。手には手製のダンベルを持ち自宅アパートで体を鍛える=福井市内

 「ベランダの自家菜園で、ミニトマトやパセリを育てている」(福井大医学部4年・女)人もいた。植物を自分の手で育てるって気分がいいもの。ちょっぴりだけど二酸化炭素排出削減にもつながってエコな気分。
 食材の買い出しでは、スーパーのタイムサービスや閉店間際を狙う人が合わせて32人。「店員を後ろからストーカーしながら、半額シールが張られると即カゴに入れる」(福井大1年・男)と話す“やり手”もいた。
 ■通信費■
 携帯電話代も節約のターゲット。「パケット定額制」「家族割引サービス」といった携帯各社の割引プランを活用している人が多い中で、「自分からなるべく電話を掛けない」という人も。通信費の節約術ランキング2位に食い込んだ。
 親だけではなく、友達や恋人もその対象になっているようで、どちらが先にかけるか、駆け引きにも似た心理戦が展開されているようだ。
 このほか「インターネットは割高の携帯でなく、パソコンを使う」(7人)、「無料通話ができるIP電話を活用」(2人)などの意見が出たが「会って話せばいいじゃない」(福井大医学部3年・男)が一番賢いのかも。
 ■光熱費■
 水道代では涙ぐましい努力の声が。

県内学生に聞いた節約術

 福井大1年の男性は「風呂の水深は10センチと決めている」。年間を“足湯”に寝そべってつかり通す。「たとえ、どぼーんと気持ちよく湯船につかれなくても、料金を浮かす達成感がたまらない」
 「浴槽に入れる湯を少なくし、半身浴」にしている人も7人。残り湯で洗濯する人は2人いた。
 電気代の節約は「外出時にコンセントを抜く」「電気を小まめに消す」など。「夜も学内に長くいれば電気代が浮く」と実践中の人も3人いたが、社会全体の利益に照らせば、得なのか損なのか。
■その他、マル秘テク■
移動は徒歩、デート割り勘… 究極「早く寝る」
 ガソリン高騰の折、交通費もかさむ。「多少遠くても徒歩か自転車」とする人が6人いた。「晴れた日は気分がいいもの」「体力増強や健康にもつながる」と学生たち。
 「バイト先で余った食材や商品をもらう」(4人)ほか、新入生は「新歓行事に参加し、晩ご飯を浮かす」(3人)。中には「服は古着。年上の彼女を見つけて、デートを割り勘かおごりに」(福井工大4年・男)という”工夫”も。だが、究極の節約術は「早く寝る。そうすれば光熱費も通信費もかからない」(県立大1年・女)―。
 
“マイ飲料”は水道水
見つけた“達人” 手製ダンベルで健康
 アンケート調査で発見した節約の達人は福井大大学院生の山中翔さん(23)=福井市。早速、生活をリポートした。
 山中さんの朝は共同洗面所でのシャンプーで始まる。風呂、トイレとも共同で家賃2万2000円のアパート。備え付けのコインシャワーではお湯を出すと100円掛かるため、冬以外なら冷水で体を洗う。通学用かばんの中には水道水を冷やして入れた500ミリリットル入りのペットボトルを常備。「基本、自販機で飲み物は買わない」
 節約を心がけるようになったのは入学してから。修士課程2年となった今春からは勉強や研究により集中するため、アルバイトはやめた。奨学金8万8000円で生活費を完全やり繰りしている。
 趣味は読書。毎月5、6冊は文庫本を古書で購入。「年間数十冊を換算すると、新刊で買うより数万円は浮いているはず」
 最近、友人に誘われてマラソンに挑戦するために体を鍛え始めた。知人からエアロバイクを譲り受けて下半身を鍛え、上半身は500ミリリットル入りペットボトルに水を入れた“お手製”ダンベルでトレーニング。市内での行動もほぼ、徒歩か自転車だ。
 「無理せず楽しむ中で抑える。それこそ約6年にわたり節約生活を続けてこれたこつ」と、秘けつを明かしてくれた。
 来春から大阪の会社で働くことが決まっている。「それまでにお金をため、スーツや靴を新調し、びしっと決めて働きたい」
 
「物を大事に」食費1万円台!
“節約のつわもの”院生に聞く
小学時代の時計今も 
 研究時間が多いためアルバイトの時間が制限され、仕送りも減る大学院生。そんな中、周囲から「節約のつわもの」と呼ばれる男性が福井大にいる。大学院博士後期課程の寺崎寛章さん(25)=福井市、写真。研究室を訪ね“奥の手”を聞いた。
 ―月々の経費は。
 築25年の2DK。家賃は風呂が共同で1万5600円。食費は1万5000円、電気代2000円、携帯代は4000円までに抑えている。
 ―節約はどのように。
 趣味の水泳の練習も兼ねて毎日通っているスポーツジムで風呂を使い、水道代を浮かしている。部屋はすき間風を防ぎ、冷暖房費を効率よく。何より大事なのは物を大事にすること。腕時計は小学6年生のときに姉にもらったものを大事に今でも愛用している。
 ―食費での工夫は。
 米は知り合いの農家から古米を安く分けてもらう。バイトはまかない付きを選び、食材は必要な分だけ買うように決めている。食べ残しは作らない。
 でも、後輩にご飯をおごるのは惜しくない。今まで自分も先輩にそういう風にしてもらったし、それが楽しみ。満足感にもつながる。

2008年4月16日(水曜日)

 “円高時代” 賢く生きよう

 
県内動向を探る
 
 円相場が先月、12年4カ月ぶりの円高水準となる1ドル=100円の大台を突破。やや値を戻したものの、円高傾向が続いている。かつて円高というと、輸入品が安いと言って飛びつき、海外旅行へ走った人は福井にも多いだろう。原油高が重なった今回、消費者への恩恵はどの程度あるのだろうか。加工食品の値上がりなどで何かと出費がかさむこの時期。“円高時代”を少しでも賢く生きたいものだ。
 
◎個人輸入 ネット通販で割安
 
 国内のショップで飽き足りない、おしゃれに敏感な女性たちに今、人気を集めているのが海外のカジュアルブランドだ。インターネットで手軽に輸入でき、その気になれば日本にまだ未入荷の品を探し出し、“自分だけの希少価値”を楽しめる。
 福井市内の主婦、青山史(ふみ)さん(28)は3月下旬、日本で未発表のアメリカンカジュアル「ジンボリー」の子ども服六点(計約九十ドル分)を初めてネット通販で注文した。

個人輸入した子ども服

米国から個人輸入した子ども服。円高で割安感を感じる

 「友人が以前から輸入で洋服などを買っていたので興味があった」と青山さん。「どうせいつか始めるなら円高の今」と思い切ってチャレンジしてみたという。狙いはドルが使える米国。「品物が届くか心配だったけど、意外と簡単。円高のおかげで、1カ月前よりも1、2着は多く買えたはず」とほくほく顔だ。
 昨秋、友人たちと共同輸入のグループをつくって毎月注文を楽しんでいる鯖江市内の女性会社員(28)も「円高によって米国の商品は半年前に比べ2割くらい、この1カ月で5%くらい安くなったから、セールのようなお買い得感がある」とにんまり。原油高で気になる送料もこの半年、目立った変化はないという。
 取材を機に、2人から個人輸入のこつを聞いてみると…。
 輸入といっても仕組みは国内のネット通販と同じ。ホームページの表記はすべて英語だが、比較的簡単な単語が多く「無料翻訳機能ソフトを活用したりすれば簡単」。
 狙い目は米国内のセール時で、「結構値が張る有名ブランドのコートやワンピースが日本の店頭にあるものと比べ半額以下で買えたこともある」という。
 早ければ注文から3日後に空輸で届く。送料はブランドによって違うが、100ドルの品で35ドル前後。金額に応じ高くなるため、グループ注文で割り勘にすればお得だ。革製品など高額の品は関税に注意。現地の友人や日本人代行業者に購入手続きや路面店での買い物を依頼してお目当ての品を手に入れる方法もある。
 ただ、トラブルは常に念頭に置いておく必要がある。福井市内で雑貨店を経営する女性は「傷や汚れなど品質に対する考え方が国によって違うので、届いてからがっかりすることもあった」と、個人輸入をやめた経験を持つ。
 「壊れていたり、サイズなど思ったものと違う場合、返品するにもクレームをつけるにも、慣れない言語で微妙なニュアンスを伝えるのは手間が掛かる」と注意を促す。
 
▼小売店 影響は夏以降?
 
 小売店の輸入食材にはどう影響しているのだろうか。
 県内スーパー関係者に聞いてみると、「現在のところは円高によってお買い得になっている商品はない」との声が多い。今後に関しても「穀物類の値上げや原油高のあおりで相殺されるのでは」との視点や「影響が出るとしても2、3カ月後では」と、夏以降との見方が目立っている。
 その中で、協同組合ハニー(本部福井市)は22、23の両日に「円高還元セール」を予定している。米国産のネーブルオレンジやグレープフルーツ、レモン、牛肉、豚肉などドル建てで仕入れている16品を通常の1割引き程度で提供するという。同社は「値上がりが続き負担が重くなっている家計を応援したい」と話している。

海外旅行に向け両替

県内の銀行窓口では、夏の海外旅行に向け両替を前倒しで行う人が増えている

 海外の高級ブランド品はどうか。エルメスやグッチ、プラダなど有名ブランドの多くはヨーロッパからの輸入だけに、「ドル安の影響はほとんどない」(海外ブランド品販売店)。
 輸入もの衣料品について福井西武は「価格は通常、半年前に設定される。今回の円高の影響が出るとしても秋、冬用からでは」とみている。
 
○外貨預金 契約相次ぐ
 
 円を外貨に換えて預金をする外貨預金。魅力は、円高時にドル建てで契約した預金を円安時に引き出して生まれる為替差益。最近はユーロに流れる向きもあるが、主流はやはりドルだ。
 福邦銀行では円相場が100円を切った翌日から問い合わせが増え、全店で3月中に契約した人は2月の約30倍となる55件。「近年まれに見る多さだった」という。
 福井銀行でも徐々に問い合わせが増加。定期は1年以上の長期の契約は少なく、1カ月や3カ月といった短期ものが目立っている。「円高がどれほど続くか分からない。短い期間で様子見をしている人が多いのでは」とみている。
 
△海外旅行 早めに両替
 
 円高と直結して影響が出そうな海外旅行だが、パックツアー本体は早くて半年前に設定されるため「(円高に)連動して急に安くなることはない」と旅行代理店各社。
 ただ、エイチ・アイ・エス中部営業課によると「出発間際や現地で申し込む人が多かったオプショナルツアーに関しては、料金のほとんどがドル建てなので、先に予約や支払いを済ませてお得に旅行しようという人もいる」という。JTB福井支店でも、「ゴールデンウイークや夏休みに海外旅行へ行く人たちが早めに両替に訪れる傾向が見られる」としている。
 
サブプライム問題発端     
県立大・吉田真広准教授に聞く
 
 ―今回の円高について解説を。
 吉田准教授 円高というと一見、円の価値が高くなり、輸入品であればすべての商品でメリットを享受できそうなイメージがあるが、今回はそうではない。今回の急激な円高は米国経済に深刻な影響を与えているサブプライムローン問題が発端。“円高”というよりむしろ“ドル安”の裏返し。
 これに対し、1ドル79円75銭の史上最高値を記録した1995年は日本のバブル崩壊後、海外からの円投資に対する不安感の反動と日本の内需低迷による輸出増大を根本的要因とした“円高”。当時米国経済は活況を呈しており、事実、90年代後半にはドル価値を回復させた。
 ―今後の行方は。
 吉田准教授 為替差益を目的とした投機活動による相場変動が起こりやすいため、ちょっとしたきっかけで反対方向の変動に大きく振れる可能性もある。そのため、外貨預金を検討する際には常に円高になる可能性もある、ということを認識して判断しなければならない。サブプライム問題に解決の見通しが立たない限り、現在の円高ドル安傾向は続くだろう。

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