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| 第3部 何を伝える(13) |
| 栄養教諭 校内、家庭、地域と連携 |
| 2006年4月16日掲載 |
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| 1年間の活動を振り返り、今後の課題を話し合う「栄養教諭」。家庭、地域に食育の輪が広がるよう独自の活動が続けられる=県庁 |
「大豆を煎(い)る、すりつぶすってこういうことなんですよ」。鯖江市片上小三年の国語の授業。栄養教諭の藤田法子さんは、担任と一緒になり児童たちに実際に調理してみせた。
使った大豆は児童たちが近くの畑に種をまいて手塩にかけて育てたものだ。それだけに児童たちの興味も倍増。「生の大豆が水でふやけるとどうなるのかな」。藤田さんは、言葉の意味を本物の食材を通して児童たちの目に焼き付ける。
授業は、担任との話し合いで実習形式にすることにした。「説明だけでさっと流せばそれまで。食育はすべての教科に関連する。教えるものではなくかかわっていくもの」と考える。
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本県では昨年四月、全国の先陣を切って最多となる十人の栄養教諭を配置した。同教諭制度は国の食育推進策の目玉。保健体育、家庭科、社会科、総合的学習、給食の時間などに行われている。年間の指導計画を立て、教職員と連携し授業を組み立てる。この連携が重要で課題でもあるという。
藤田さんは、学校給食の栄養管理などを受け持つ栄養職員として三十年近いキャリアを持つ。計画的な食の指導に取り組もうと栄養教諭の免許を取得した。
文部科学省の食育モデル校として指定される同校。学校から三百メートルほど離れた畑二十アールを住民から無償提供され「はあとふる農園」として全校児童が農業体験を始めた。サツマイモ、カボチャ、ダイコン、白菜、ブロッコリー、大豆など十種類ほどを栽培。住民が育て方を教えてくれた。
近くの北中山小と、野菜とコメを交換する交流会も実施。箸(はし)の持ち方練習、青空給食、健康すごろくゲームなど活動は多彩だ。
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栄養教諭は学校内だけでなく、家庭や地域とのパイプ役としても期待されている。藤田さんは、保護者に食育アンケートを実施、家庭向けの機関紙も二十八回発行。給食試食会、食育講演会、朝食レシピづくりにも取り組んだ。「家庭で食を考える機会が広がってきたのでは」。一年たっての感想だ。
児童たちにも変化が出てきた。体調を悪くして保健室を利用した児童は二○○五年度百二十七人。前年度の四百十九人より七割も減少した。
藤田さんは思う。「食育は地道な活動だが学校、家庭、地域で今やらないといけない。この一年間は収穫体験や食べることなど食の楽しみに触れてきたが、四月からは食づくりの大変な側面も教えていきたい」
三月下旬、県庁で開かれた栄養教諭十人の連絡会。一年間を振り返り、新年度への課題を考えた。県教委の担当者は「うちの学校にも栄養教諭をぜひ配置してほしいとの声が上がらないといけない。まだ始まったばかり。地域への輪が広がるように」と呼び掛けた。
新年度、栄養教諭は二十二人増員され、三十二人体制となった。”一年先輩”は「試行錯誤の一年だった」と振り返るが、栄養教諭の真価が問われるのはこれからだ。
=第3部おわり=
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| 第3部 何を伝える(12) |
| 変わる給食 生きる糧から教材へ |
| 2006年4月15日掲載 |
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| 食器に盛られた料理をトレーに載せる生徒。奥に並べられた和食メニューはほとんど選ばれなかった=越前市武生一中 |
四時間目の終了チャイムが鳴ると、四百人近い生徒が続々とランチルームに集まってくる。越前市武生一中の昼食時間が始まった。調理員によってすでに食事が盛られた食器をトレーの上に載せていく。ルーム内の席に座り、グループになって食べる。学年やクラスの枠がない自由な空間。先生も生徒と一緒にテーブルに座る。まるで大学のカフェテリアや企業の社員食堂のような雰囲気が漂う。
越前市が二○○二年度から市内五校で順次始めた中学生向けの給食「スクールランチ」は、選択制を取り入れた新しいスタイルだ。ランチルームで食べるメニューと教室で食べるランチボックスメニュー、それぞれ二種類の献立の中から生徒自身が食べたい方を選べるのが特徴。自宅から弁当を持ってきてもよい。従来の”お仕着せ型”の献立を食べる、というものではない。
同市教委は「毎日の献立を自分で選ぶことは将来、栄養バランスを自ら考え、主食と主菜、副菜を選ぶ力が身に付く」と導入の狙いを説明。「料理名を覚えるなど、食に関心を持つようになり、健康を自覚するようになるなど効果があるようだ」と話す。
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四月上旬のある日。ランチルーム用の給食は、サワラの西京焼き、ふきご飯、みそ汁といった和食メニューとミートソーススパゲティ、トウモロコシスープ、サラダなどの洋食メニュー。生徒は「温かい食事をみんなで食べるから楽しい」「自分で選んだから責任を持って残さず食べようと思う」と笑顔を見せる。
しかしこの日、生徒が選んだのはほとんどが洋食。「ミートスパ大好き。ナポリタンは苦手やけど」「魚は大嫌いだから」。弁当を持参した生徒も「サラダのトマトが駄目」と大好きな空揚げをぱくつく。
保護者からは「好きな料理ばかり選ぶようになるのでは」「嫌いなものでも我慢して食べることも重要」との声がある一方で「弁当を作る手間が省けて楽」「栄養バランスが整っているので安心できる」と期待する親も。生徒や親からは家庭の食事情を映し出すような声が聞かれる。
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今春、開校したばかりの丸岡南中でも五月から、二種類から選択する給食を始める。福井市清水東小では昨年十二月、児童が考えたメニューを給食に出した。小浜市雲浜小では、バイキング方式や、世界各国の食メニューなどバラエティー豊かな特別献立が並ぶ。県内各校でさまざまな給食が提供されている。
子供の栄養不足を補うため一八八九年に山形県で始まった学校給食。戦後間もない一九四六年に関東地方で再開され今年でちょうど六十年。朝食抜きの子供が増えるなど食環境が激変した今、給食は「生きる糧」から食事の大切さを教える「生きた教材」へ、その意味合いは大きく変わってきている。
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| 第3部 何を伝える(11) |
| ボランティア ”命の源”説く推進役 |
| 2006年4月14日掲載 |
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| 産みたての卵を手にする子供たちに、”命の源”を伝える食育ボランティアの佐々江良一さん(中央)=敦賀市沓見の「ささえたまご農園」 |
「産みたての卵って、温か〜い」。敦賀市沓見の養鶏場内に、子供たちの歓声が響く。”命の源”を目の当たりにし、みんな生き生きとした表情に変わった。
「これは烏骨鶏(うこっけい)というニワトリの卵。平均すると十日に一個しか産まないんだ。特別な飼料を与えているから一個三百円。貴重な卵なんだよ」
「え〜、そんなに高いの。大事に食べないとね」
養鶏場のオーナーで、県の食育ボランティアに登録する佐々江良一さん(50)と子供たちの間で会話が弾む。
赤鶏四百五十羽、烏骨鶏百三十羽を放し飼いで育てる養鶏場「ささえたまご農園」。キャベツなどのエサやりも体験でき、施設で卵料理教室も開いている。
佐々江さんはとれたての卵を割り子供たちに見せた。「黄身に小さな白い粒があるよね。これが胚(はい)。いずれ心臓や肺が作られます」
市内に住む別の食育ボランティアも手伝いに来て、子供たちにクイズ形式で三大栄養素の話をすることもある。
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食育に本腰を入れる県。その推進役として活動するのが食育ボランティアだ。一年半前に募集をはじめ、今では調理師、専業農家、食生活改善推進員、市場関係者ら三百八十三人、百三十二団体が名を連ねる。
「食べ物に感謝する気持ち、物を大切にする心を伝えられれば…」。佐々江さんは三年前からニワトリと触れ合う体験教室を開いている。食育ボランティアに応募したのも、同じ気持ちからだった。
昨年七月、地元の黒河小二年の十八人が、授業の一環でやってきた。「ニワトリってかわいい。またエサをやりたい」。後日、児童の手紙を目にした佐々江さん。少しでも多くの人が、食に対する考え方を変えてくれたら、と願ってやまない。
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高校生には大人の食育を―。県栄養士会の山本孝子さん(55)=越前市四郎丸=ら五人は、食育ボランティアとして県内の高校に出向き出前講座を行っている。
「みなさんの食事は本当に大丈夫ですか」の呼び掛けで実習が始まる。高校生には一覧表にした七十項目のメニューから一日分の料理を好きなだけ選んでもらい、決められた数値で食事バランスをチェック。生徒の大半が無残な結果に終わる。二回目はバランスを考えてメニューを選ぶ。そして食生活を見直すきっかけにしてもらう。
この一年間で八校を訪問。山本さんらは「生徒の食事バランスは崩壊、当たり前のことが分かっていない」と嘆く。だが、「粗食の食べ過ぎを続けると、将来どうなるのかを伝えることが私たちの役目。食べ方は生き方につながるから」。メンバーに使命感も芽生え、四月以降も慣れない教壇に立つ。
一方、食育ボランティアの中には、活動のきっかけをつかめない人もいるという。制度の周知はむろん、専門家たちの思いを形にする工夫も求められている。 |
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| 第3部 何を伝える(10) |
| シェフが授業 味覚鍛え本物見極め |
| 2006年4月13日掲載 |
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| 越のルビーを使った冷製スパゲティの作り方を児童に教える柴山さん(中央)。後日、児童から「嫌いなトマトが食べられるようになった」とお礼の手紙が届いた=昨年9月、福井市和田小 |
真っ白なコックコートをまとい、コック帽をかぶったシェフが福井市和田小にやってきた。「すっげー、かっこいい」。五年生児童の目は輝き、歓声は家庭科室にこだました。
「みんなの舌にあるツブツブは、味を感じ取る味蕾(みらい)っていうんだ。でもね、大人になると、だんだん数が減っていくんだ」。福井市のユアーズホテルフクイ洋食料理長、柴山洋規さん(43)は教壇に立つと、子供のころから味覚を鍛えておく必要があることを優しく諭すように児童に呼び掛けた。
本県産ミディトマト「越のルビー」を片手に掲げて「さあ、みんなで冷たくておいしいスパゲティを作ろう」。児童は柴山さんが作ったパスタソースを味見した後、自らも調理に挑んだ。見よう見まねでボウルにタマネギのみじん切りやレモン汁を入れ、トマトをつぶすように混ぜ合わせ、塩、コショウ、砂糖をふりかけた。おいしいソースができた、はずだった。「ちょっと塩味が足りないな」「君のは少しだけ甘いな」。柴山さんが塩や砂糖を足すと、まるで魔法にかかったようにおいしく”変身”した。
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海外では以前から子供を対象にした食に関する授業が盛んだ。特に美食の国として知られるフランスでは、一九八○年代に加工食品が食卓を席巻したことから、九○年代から三つ星レストランの一流シェフ自らが小学校などに出向き、味覚を覚えさせる授業が進んでいる。
例えば、天然発酵したパンと工場生産のパンを食べさせたり、目隠ししてさまざまな味の水を飲ませたりして、それぞれどんな味がするか子供の言葉で表現させている。子供を店に招待し、最高級料理を振る舞ったりもする。
フランス料理文化センター(東京)の事務局長を務める大沢晴美さん(55)=越前市出身=は「子供は元来、鋭い味覚を持っている。小さいころから舌を鍛えるチャンスを積極的に与えないと、本物を見極める力は身に付かない」と強調。高校時代まで過ごした旧武生市の実家の畑でとれた新鮮なトマトの味は「年齢を重ねた今でも忘れない」と語る。
日本でも、児童に調理実習を通じて味覚能力を高める特別授業「キッズシェフ」が二○○○年十一月から全国で繰り広げられている。
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「好き嫌いが激しい子があまりにも多い。だから、本物の料理を味わって少しでも変わってもらいたい。そのお手伝いができるのであれば、できる限りのことはしたい」と世界料理オリンピックの銅メダリストでもある柴山さんは熱く語る。
味覚の授業に”合格”した和田小児童には、手作りの「金メダル」をかけてあげた。後日、児童から届いた手紙にこう書かれていた。「嫌いなトマトが食べられるようになりました」「今度、お母さんにも作ってあげたいです」 |
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| 第3部 何を伝える(9) |
| 進む生産履歴公開 安全へ消費者リード |
| 2006年4月12日掲載 |
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| 松浦さんが栽培する米は、水田の場所や肥料の種類などをパソコンで一括管理。資材費なども入力され、利益率もすぐにはじき出せる |
「越前大野、福井県の最上流の地域で作っているお米です。このおにぎりを味わってみてください」。神奈川県茅ケ崎市内の大手スーパー。緑色の法被をまとい、買い物客に呼びかけているのは、大野市上庄地区の農業生産法人アースワークのスタッフだ。
同法人は、委託生産も含め百七十ヘクタールの農地で有機、減農薬栽培による水稲生産を手がける。生産した米に付けたロット番号からは、圃(ほ)場や作業者、どの機械を使ったかが即座に把握できる。独自に開発したソフトで栽培、精米情報を一元管理、一年前に圃場で誰が何をしていたかまでつかめる。
自身「これまでに百回以上全国のスーパーに立った」という社長の松浦助一さん(45)は「お客は、作り手の顔が見えるような農産物かをどうかを見極めて選び始めている」。特にBSEや偽装表示など食の安全性を揺るがす出来事を契機に、その傾向がより強くなっているのを感じている。
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スーパーや量販店などの流通業者は、全国から売れ筋商品を発掘するのにしのぎを削る。その中で情報管理に秀でたアースワークの米は、安全性の点で大きな切り札になる。それだけに、松浦さんへの派遣依頼はとどまるところを知らない。
「商品に不具合が出たときにどの工程に問題があったのか、圃場はどうだったのか、作り手の責任を果たすため不可欠」と、松浦さんは生産履歴(トレーサビリティ)の必要性を力説する。
県内のJAも動き始めている。JA花咲ふくいが昨年三月、管内でとれる米の安全性を消費者にアピールしようと、ホームページ(HP)で使用農薬や肥料などの履歴の公開を始めたのを皮切りに、他のJAも同様の情報公開に踏み切った。そのために栽培日誌の提出を農家に義務付ける徹底ぶりだ。
県が管理する生産履歴管理システム「あんしんふくいの食ネット」にもリンク。同ネットではアクセスすれば、各JAの米や特産野菜をはじめ、県産牛肉、豚肉鶏卵の履歴が分かるよう充実が図られている。
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一方、福井市北部のスーパーで買い物中の主婦(37)は「いかに安い買い物をするかが大切。出費を抑えて子供の教育費として貯蓄を増やすのが、賢い主婦だと思う」と言い切る。農産物の生産履歴を調べるなど食材の安全性を確かめることが眼中にない人もまだ多い。
「本県の消費者は、食品を価格で選ぶ傾向が強い」とふくい・くらしの研究所の帰山順子事務局長が指摘するように、県民の食の安全性に対する関心は決して高いとはいえないのが実情だ。
「生産者が消費者に目を向け、消費者をリードするような取り組みをしなければならない」と松浦さん。消費者を見つめた農業を目指す生産者が増える中で、消費者自身が食の安全性にもっと目を向け、声を出す時代が来ている。
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| 第3部 何を伝える(8) |
| 知識深め 自らが判断 動き出した消費者 |
| 2006年4月9日掲載 |
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| 小瓶から取り出した粉を調合しスープなどを作ってみせる安部さん(中央後ろ向き)。出席者らは食い入るように見つめる |
「さあ、豚骨ラーメンのスープをつくってみましょうか」
テーブルの上にずらりと並んだ四十本余りの小瓶。すべてに白い粉が入っている。この中から数種類を調合して湯を注ぎ色素をちょっと加えれば豚骨スープの出来上がり。豚骨からとったスープを一滴も加えていないのに濃厚な豚骨風味が漂う。
実演してみせたのは食品添加物のトップセールスマンだった安部司さん。現在、福岡市の自然海塩メーカーの研究担当部長を務める。食品製造の舞台裏を明かした告発本「食品の裏側」を昨年秋に出版。全国の消費者グループから講演依頼が引きも切らない。
安部さんは、マツタケ風味のお吸い物、レモン飲料水も白い粉だけで作ってみせた。「商品開発時は、添加剤の調合パターンを四百ぐらい用意する。食品でなく工業製品ですね」と言い切る。
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野菜などの具材が何日たっても変色しないサンドイッチ、色つやのよいシャケの切り身、ミルクが入っていないコーヒーフレッシュ…。添加物から食品が作られている。「いちいち表示なんかしていないが、コンビニのサンドイッチには七種類ぐらいの添加物が使われている。消費者が求めた結果」と安部さんはいう。
安さ、手軽さ。この恩恵を受ける一方で、食品添加物が存在する。この知識を知った上で消費者が選択すればよい。情報公開が進んでいない食品分野だからこそ安部さんは食品の裏舞台をさらした。
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安部さんを招いた越前市のNPO法人「土といのちの会」の大久保恵子さんは「消費者は一般的に勉強不足。判断する力を持つことが必要」と訴える。
同会は、前身も含め十五年目を迎えた。発足当時、武生市(現越前市)は嶺北で唯一、稲作の農薬をヘリコプターによって一斉散布していた。「どうして農薬を空から無差別にまき散らすの」。主婦の素朴な疑問が始まりだった。
大久保さんはじめメンバーは農業経験なし。減反、米価という言葉とも無縁で、目の前に広がる田んぼさえ意識したことがなかった。
中止を求める活動から農家との交流が生まれ、「対立するのでなく、同じ土俵に上がって考えないと解決できない問題が農業にあると悟った」という。会は、生産者と消費者がともに農、食、環境を考える内容へと発展した。
この間、航空防除は大型ヘリによる一斉散布から環境に配慮してラジコンヘリに移行。生ごみを活用した有機肥料を農家に普及させたことでごみ減量につなげ、常設店舗を持つことで産直活動を強化した。
販売する農作物には農家の紹介、農家からのメッセージが添えてある。「誰が食べているのか、農家がわかることで張り合いも出るし、いいかげんな作物は作らない」。食の安心は相互理解から始まる。大久保さんはそう考えている。
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| 第3部 何を伝える(7) |
| 地元産食器で給食 おいしさ、愛着が倍増 |
| 2006年4月7日掲載 |
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| 鯖江市河和田小の給食で導入されている越前漆器の食器。盆や平皿も地元産にこだわる |
「給食を配ります。順番に並んでください」。三月中旬、鯖江市河和田小の五年一組で、元気な掛け声とともに配ぜんが始まった。きれいに積まれた漆器の食器を丁寧に手にして、おかずやごはんが入る。少し赤みのかかった黒い漆椀(わん)に具だくさんのみそ汁が入るとおいしさ倍増だ。
「ほらっ、普通の食器より、おいしそうに見えるでしょ」と井上有泉さん。重量感のある椀をしっかりと持ち、野菜を口に運んだ。
栗田智貴君は「この地区の伝統産業だし、温かみがわいてくる」とにっこり。以前、お盆を落とし角が欠けてしまったことがあっただけに「いつも大切にしようと思って…」。食器の扱いが人一倍丁寧になった。
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給食といえば、プラスチック製の食器が定番だが、高級感たっぷりの食器でおいしさをさらに演出しようという動きが全国で相次いでいる。河和田小もその一つ。椀、汁椀、平皿、盆すべてが越前漆器だ。
一九九七年、越前漆器協同組合青年部が導入を提案したのがきっかけ。「地場産の漆器を使っておいしい給食を食べてほしい」。そんな願いからだった。同青年部では開発、改良を重ね、耐熱性と強度を高めた椀などを完成させた。
一セット一万円。一般的な食器の約五倍もするが、食を楽しむことや物を大切にする心を養う効果があるようだ。
こうした成果を踏まえ鯖江東小、北中山小、片上小でも漆器を導入。残りすべての学校では、一学年分を入れローテーションで高級漆器に触れている。
「伝統産業に小さいころから触れることは大事。漆器のぬくもりは食育にもつながる」と市教委の中嶋誠一さん。維持、補修費がついて回るものの、全国から問い合わせがあるという。
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岐阜県多治見市では地場産業の陶磁器を食器に使う。食べることは文化だと気付かせ、食に対する考えが変わることに期待を寄せる。
一方、石川県輪島市は全小学校で輪島塗の汁椀を週一回使用。卒業記念に自分だけの「マイ椀」を製作する。輪島塗の椀に沈金で思い思いの模様を付けていく。
小浜市内の小学校では児童たちが「マイ箸(はし)」として毎日、自宅から持参する。二十年近く続く伝統だ。
「これ、ぼくが作った若狭塗箸なんだよ。ざらざらして持ちやすいし、給食の時間が楽しい」。三学期最後の給食にも、内外海小三年の伊勢信太郎君は、自分で研ぎ出した箸を持ってきた。同校の中尾和美教頭(現中名田小校長)は「マイ箸は給食のありがたさを意識付けできる効果があるのでは」と話す。
小学生のころから、給食で食器や箸のぬくもりを感じながら育つ児童たち。「食は器から」の格言でいえば、器に負けない、豊かな食に対する思いも育ててくれるはずだ。
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| 第3部 何を伝える(6) |
| 給食に地場産食材 作る苦労をかみしめ |
| 2006年4月6日掲載 |
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| 郷土色豊かなメニューづくりに知恵を絞る栄養職員。勝山ミズナを使った給食は子供たちにも人気だ=勝山市の成器西小 |
「この野菜の名前、わかるかな」。勝山市の成器西小の栄養職員、村田佳織さん(33)=現栄養教諭=が、給食で使う野菜を手に持って児童たちに呼び掛ける。
触れたり、においをかいだり、手のひらにのせて重さを確認したり…、興味津々の子供たち。スーパーにはない葉物野菜のヤマクラゲ、白ナスも。農家から納入される野菜は、その日の朝必ず「西校とれたて朝市」でお披露目される。
三学期最後の給食。主役は地場産野菜の勝山ミズナだ。”はしり”のため値段が高めで、家庭に出回るには時期尚早。同校は、予算をやりくりし校区外の農家から確保した。ゆでたミズナはしょうゆで味付けされ、煮付けた豚肉と合わせご飯の上に。「スタミナ丼」の出来上がり。
「ミズナは大好き」。児童はおいしそうに口をパクつかせている。三年生のクラスでは、はしが休みがちな野菜嫌いの子も。「残しちゃだめだよ。作ってくれた人に悪いから」とクラスメートがエールを送る。
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県の昨年の調査では、県内の学校で56・1%に当たる百六十二校が県産食材を十品目以上使用、地産地消が確実に進んでいることが分かった。
地産地消と並び食育の柱の一つに「身(しん)土(ど)不二(ふじ)」がある。風土が生んだ伝統的な食や食材の大切さを説く言葉だ。明治時代に食育を説いた福井市出身の医師、石塚左玄もこの考え方を提唱した。
地場特産の農水産物については、県食品加工研究所が成分分析に取り組んでいる。勝山ミズナをはじめ、ミディトマト、マナなど計二十品目を数値化。三年分の調査結果が近くまとまるが、高い栄養価が裏付けられたという。栄養計算が必須の学校給食だけに、データは県産品導入の後押しになりそうだ。
一方、地場産の野菜などは、天候によって価格が高騰したり、量の確保が難しかったりと課題も少なくない。成器西小の村田さんは「価格交渉や普段取引していない農家からもらうなど、生産者と連絡を密にしなければ。互いの事情を分かってこそ無理もきいてくれます」と話す。
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「児童の口から食に感謝する言葉が、自然と出てくるようになった」と目を細める同校の竹原幸雄校長は、農業体験の成果を挙げる。
五年生は二、三学期に大根を栽培。野菜を納入する農家の手ほどきを受けて畑を耕すことから始めた。登校時に畑に寄って草取りをするなど丹精込めて育てた。
だが、収穫時は一メートル余りもある雪の下。「いったんあきらめたが、せっかく育てたのにもったいないと児童が言いだして。作る苦労を知って自然とわいてきた感情だった」と竹原校長。
収穫した大根は左義長まつりでのっぺい汁の具として市民に振る舞ったほか、一般販売も行った。その売上金で「農家のおじさんたちのために」と長靴を買って贈った。
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| 第3部 何を伝える(5) |
| 中学生が弁当手作り 家族への感謝芽生え |
| 2006年4月5日掲載 |
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| 自分で作ったおかずを弁当箱に詰める垣本康平君(左)と見守る祖母の貞子さん |
午前五時半。小浜中二年の垣本康平君は眠い目をこすりながら、エプロンのひもを結ぶ。鍋に水を張ってブロッコリーをゆでる。その傍らでタマネギをみじん切り。ペッタン、ペッタンとハンバーグが宙を舞う。「上手、上手」。鮮やかな手付きに、見守る母敦子さん(44)の声が弾む。ひき肉の焼ける香ばしい香りが漂い始めたそのとき。「あっ、真ん中をへこませるの忘れた」
小浜中の二年生が自作弁当を持ち寄る月一回の「弁当の日」。昼食時間には彩り鮮やかな弁当から、大ぶりな具材を詰めたいかにも武骨な弁当まで、個性豊かな”宿題”が並ぶ。出来栄えは千差万別でも、苦労が味に加味されてどの子も「いつもよりおいしい」と満足げだ。
担当した地村健一教諭(44)は「回を重ねるごとにメニューが増え、夕食やお父さんの弁当を作るようになった子もいる。保護者からは『子供が積極的に食事にかかわるようになった』と喜ぶ声が多かった」と効果を実感。生徒へのアンケートでも、93%が「やってよかった」と答えた。
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ノーベル賞科学者の野依良治・名古屋大大学院教授は、学力低下への対策を問われ「家族がそろって、ゆっくり食事をとること」と答えた。「弁当の日」を提唱した香川県国分寺中校長竹下和男さん(56)は「弁当の日の狙いはこの言葉に凝縮されている。変えたいのは子供を取り巻く家庭や地域、ひいては日本の社会」と説明する。
家族で食事する頻度について県栄養士会が行った「福井の食生活実態調査」(二○○一年)によると、朝食は「ほとんどいつもそろわない」が43・7%、夕食は「ときどきそろわない」が38・2%。都会ではさらに進んでいるとみられる。調理の現場を見ていない上に、食べたいものは何でも希望通り。竹下校長は「下手をしたら、子供が両親や祖父母を本当に召し使いのように思っているフシがある」と語る。
弁当作りが一家だんらんの基礎となるふれあいの時間を生み、家族をつなげていく。「弁当を作ることで子供が変わってくる。それを見て家族のあり方を考えてもらえれば」(同校長)と期待を寄せる。
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弁当箱に詰めた残りのおかずは朝の食卓へ。それがまた会話につながる。「卵焼きおいしくできたね」。祖母貞子さん(68)の言葉に、誇らしげな様子の康平君。前夜に下準備を済ませても、作り終えると午前七時。そろそろ部活の朝練習の時間だ。「行ってきます」。一時間半の労作も食べ終えるのに十五分。食後は後片づけもある。「お母さんやおばあちゃんは毎日これをやってる。すごいなあ」。面と向かっては言わないが、感謝の気持ちが芽生えた。
「弁当の日」は現在、県内の二校を含む六県十四校で実施され、年内には五十校に達する見込み。弁当箱におかずを詰めるように、家族の”すき間”を埋めている。
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| 第3部 何を伝える(4) |
| 海再生へ住民も一丸 小浜水高生アマモ定植 |
| 2006年4月4日掲載 |
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| 小浜湾を再生しようとアマモの苗を海底に植える小浜水産高ダイビングクラブのメンバーら。活動の輪は地域住民にまで広がりをみせる=昨年5月、小浜市の西津漁港 |
敷地が海に面している小浜水産高。一昨年夏、同校のダイビングクラブの部員たちが、試しに潜ってみた。「なんだ、これ…」。手を伸ばした先がまったく見えない。汚濁が予想以上に進み、昔採れたシャコ、エビ、ハマグリといった生き物の姿は消え去っていた。
「湾内だから多少濁るのは仕方ないけど、ひどすぎる。海草のアマモ場を造り海水を浄化させよう。魚が群れる小浜湾を取り戻そう」
昨年二月、部員六人によるプロジェクトが動き出した。生き物が戻ってくることを願い、手探りでのスタートだった。
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アマモはコンブやワカメといった海草とは違い砂地の海底に生え、陸の草のように花を咲かせ種子をつくる。まさに海の草。光合成で二酸化炭素を取り込み酸素を出して水質を浄化する仕組みだ。
部員たちは吹雪の二月、種子を付着させたシートを学校前の海底に敷設。春には地元の小学生や市民に育ててもらった約四千五百本のアマモの苗を近くの漁港海底に植え、十一月にもさらに活動した。その間、市民を中心に約六十人でつくる「アマモサポーターズ」が発足した。
プロジェクトの輪は、広がりをみせている。みんなでアマモの苗を育てようと、小浜商店街連盟(百四十五店舗加盟)も三月中旬、協力に名乗りを挙げた。
「御食(みけつ)国をアピールするなら、まず海をきれいにせなあかんやろ。海を再生する活動は食育にも通じる」。環境保全に目を向ける同連盟・御食国エコネット担当理事の新谷昭一郎さん(62)は、部員たちの活動に賛同する。
アマモの苗が泥に埋まってしまうなど失敗もあったが、同校ダイビングクラブ顧問の小坂康之教諭(28)は「市民のうねりも生まれ出し、意識の変化が出てきていることに大きな意味がある」と波及効果を喜ぶ。
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小浜をはじめ県内の漁獲量は全国同様に減少が続く。一九七五年には四万四千トンあったが、二○○四年は一万六千トンに激減。小浜では四千四百トンから九百トンにダウンした。
サバのへしこで名を売る小浜。一九七五年には千七百五十トンの水揚げがあったが、現在はその面影はない。プロジェクトで芽生えた活動の輪は、そうした危機感が人々を突き動かした結果なのかもしれない。
同校ダイビングクラブの嶋田俊太郎さん(三年)や大谷一樹さん(同)は、こう考えるようになった。「海や山にごみをポイ捨てするようなことはなくなった。分別もしっかりやるようになった。豊かな自然は食をはぐくみ、食を通じて人が生きることができると思うんです。生涯を通し食は大事」
プロジェクトを一年終え、部員たちは地元の小学校などで体験を披露する授業も受け持った。四月二十二、二十三の両日、アマモを植えるために再び海に潜る。
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| 第3部 何を伝える(3) |
| 給食に地場野菜 深まる交流、活力源に |
| 2006年4月3日掲載 |
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| 妻の秀子さん(右)とキャベツの手入れに精を出す岩崎さん。見つめ合い「よりうまいもん作ろうって、みんな頑張ってるんや」=小浜市丸山 |
とれたての青々としたネギがケースから顔をのぞかせている。午前八時半、野菜満載のケースを両手で大事そうに抱えながら、岩崎恒一さん(69)=小浜市丸山=が国富小の給食調理室にやってきた。「ほい、これな」。「いつもごくろうさま」。調理員と笑顔を交わし、ケースを手渡す。
北川が流れる小浜市国富地区。その美しい水と、肥よくな土壌から作られる野菜は、どれもみずみずしい。この日のネギは「イカ団子のみそスープ」になり、児童の口に運ばれた。
学校に食材を納めているのは丸山区の農家でつくる「まるやま農園」のメンバー十二人。代表を務めるのが岩崎さん。国富小から一カ月の献立に必要な食材がメールで送られる。メンバーは毎月一回集い、野菜があるかどうか話し合い、配達役を決める。「キャベツ三キロとかナス二キロとか、結構注文が細かくてなあ。そりゃあ面倒やで」と岩崎さん。
「でもな」と一拍置いて「孫みたいな小さな子供たちに、よりおいしい、よりよい物を食べさせたいんや。そりゃあ、みんな頑張るで」。
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食を通じたまちづくりを推し進める小浜市は二○○一年、食のまちづくり条例を制定。翌年からは市教委の「食の教育推進事業」で、地場産給食の普及に着手。現在、市内小中学校十六校のうち九校が校区内でとれる農作物を給食に使っている。国富小の給食主任、上林スミイ教諭や池田友子さんら三人の調理員も「地場産になってから子供の食べ残しが格段に減った」と口をそろえる。
この取り組みは、さまざまな”相乗効果”を生み出した。食材を納入するようになって、農家は児童の健康や安全を考え消毒剤も農薬もほとんど使わなくなった。
また、学校に招かれ、三年生に学校菜園でダイコン栽培を指南。四年生は豆腐づくり、五、六年生にはみそ作りを教える。児童からは「丸山のおっちゃん」と親しまれるようになった。
さらに、とれたて野菜を直売する朝市にも乗り出し、週二回の開催日には、午前七時の開店前から行列ができるほどの”人気店”になった。何よりも、地域の団結力が強まったことに地区民も目を細める。
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高齢化が進む丸山区。農家には活気がみなぎり「よりおいしい野菜を作ろうという気概が生まれ、生きがいにもなっている」と岩崎さん。地場産給食の導入をきっかけに、農家の活力が増し、地産地消を拡大させたばかりか、地域の活性化という大きな財産も生み出している。
昨年七月施行された食育基本法には、生産者と消費者の交流を進め、地産地消に取り組むことが盛り込まれた。すでに国に先行する形で取り組み、成果を上げつつある小浜市。同市の食を通じたまちづくりは「日本の世直しにつながる大きなヒント」と関係者の熱い期待を集めてもいる。
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| 第3部 何を伝える(2) |
| 「だし」に子らも歓声 伝統のうま味 |
| 2006年4月2日掲載 |
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| においをかぎ、だしを口に含む子どもたち。この後「あまーい」の大合唱が館内に響いた=小浜市の御食国若狭おばま食文化館 |
「わあ、いいにおいがしてきたよ」。かつお節を煮立てた鍋に顔を近づけて、岡本樹君(7つ)=南越前町=が思わず声を上げる。「ほんとや。ほんとや」。隣にいた白崎季ちゃん(7つ)=高浜町=が一緒になってのぞきこむ。「そう、このお汁がおいしさのもと。『だし』っていうんだよ。飲んでみる?」。食育専門員から小皿にすくっただしを受け取った二人は、味を確かめるようにほんの少しだけ口に含む。ひと呼吸後…。「あまーい!」。とびっきりの笑顔がはじけた。
小浜市の御食国(みけつくに)若狭おばま食文化館で行われている「キッズ・キッチン」は、参加申し込みをホームページで受け付けるようになり、今では市内だけでなく県内各地から子どもが訪れる。
教室では調理体験とともに、コンブを浸した水を沸騰させ、かつお節を加えてこした「一番だし」を子どもに体験させている。味わった子どもたちからは、一様に歓声が上がるという。
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コンブのうま味成分がグルタミン酸であることを、東大の故池田菊苗教授が世界で初めて発見してから約百年。鶏ガラなど外国のだしと違い、日本のだしは、ほとんど脂質を含まないため健康食として世界的に注目されている。米国、イタリアで開かれた「うま味の国際シンポジウム」では、研究者たちの間で「UMAMI」が共通の言葉にもなっている。
発祥の地日本では、食の欧米化が進み脂質の摂取が年々増加、味が薄めのだしは陰に追いやられる傾向にある。
ネズミが、かつお節とデンプンを混ぜた物質を好んで食べることを発見した京都大大学院の伏木亨教授は、人間にも同様の傾向があると指摘。「子どもにだしを積極的に味わわせ記憶させることで、だしへの執着が起こる。それが日本本来の食を取り戻す第一歩になる」と”だし文化”復権の重要性を強調する。
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キッズ・キッチンのテーブルに並んだ料理はサワラの味噌(みそ)焼き、豆腐のすまし汁、ホウレンソウのごまあえ、サラダの四種類。中でも樹君の一番のお気に入りはすまし汁だ。「お汁が甘くてお豆腐もおいしい」と笑みを浮かべ何度もすすってみせる。
この日以来、樹君の母、修枝さん(38)は、みそ汁のだしを手軽な化学調味料からコンブとかつお節に替えた。夫の直樹さん(31)は「今までと味が全然違うな」と褒めてくれた。少し手間はかかるけれど、家族のために続けてみようと考えている。
同館の中田典子・食育専門員は「キッズ・キッチンは体験学習であるだけでなく、子どもを通して親の食に対する意識の変化を生み出す。食の選択肢が多様化している中で、日本食を見直すきっかけにもなっている」と取り組みの成果に手応えを感じている。
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| 第3部 何を伝える(1) |
| キッズ・キッチン 命の尊さ、感謝知る場 |
| 2006年4月1日掲載 |
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| 真剣な表情で魚をさばく園児。キッズ・キッチンを通して、食材の命の尊さを知る=小浜市の御食国若狭おばま食文化館 |
波静かな小浜湾を望むようにして立つ小浜市の御食国(みけつくに)若狭おばま食文化館。その中のキッチンスタジオでは、いすに腰掛けた五歳の幼稚園児が、ピンと背筋を伸ばし講師の話に耳を傾けている。よそ見もせずに実演に見入る姿はちょっぴり緊張感を漂わせている。生魚を目の前で見るのは初めてのようだ。小さな手でアジを持ち上げる。鼻に近づけにおいをかいだ子は「海の香りがするね」。
包丁を手に、真剣なまなざしで魚を見つめる。いよいよ魚に包丁を入れる瞬間、園児の一人がつぶやいた。「お魚さん、痛いって言わないかな」。臓物を取り出すと、中に小魚が詰まっていた。「これって赤ちゃんかな」「お魚もお魚を食べて生きてるんだね」
同市が就学前の園児を対象に行う料理教室。子供が本当に魚をさばけるのか疑問だったが、その生き生きとした表情や言葉に疑念も吹き飛んだ。
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二○○三年十一月に始まったキッズ・キッチン。これまでに百四十回以上開かれ、延べ約二千四百人が受講。事前の出張講座「キッズ・キッチンぷらす」、三歳児までの「ベビー・キッチン」、小学生向けの「ジュニア・キッチン」と幅を広げ、大人や高齢者へ対象を広げることも検討しているという。
小浜市の食育専門員、中田典子さん(41)は力説する。「キッズ・キッチンの目的は、ただ料理を学ばせることではなく、五感を刺激し、フルに働かせることにある。魚をさばいたり、野菜を切ったりすることで、食材の尊い命をいただくという感謝の気持ちが自然に芽生える。それが大事なんです」。子供は誰に言われることなく、塩焼きのアジに小さな手を合わせ「いただきます」と深々と頭を下げ、きれいに食べる。
テレビゲームに興じ指先一つで格闘したり戦争したりするバーチャル世代の親子。命の意味を教え、学ぶ機会は確実に減ってきている。けが、やけどなど危ないことはさせられないという思いが、子供を体験不足にもさせている。「子供は仲間と一緒に励まし合い、助け合いながら同じ作業することの素晴らしさを学び、料理をやり遂げ達成感を味わう。『ぼくだってやればできるんだ』と自信が付く」。キッズ・キッチンのもう一つの大きな意義だ。
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調理場の外で見詰める親からは、一心に食材に立ち向かう子供の姿に、感嘆の声が漏れる。市内に住む寺田凌大君(5つ)の母ひろえさん(29)や、大芦美香ちゃん(5つ)の母真有美さん(42)は「あんなに真剣なしぐさを見せてくれるなんて」「初めて魚を食べ切ってくれた」と涙ぐむ。親もキッズ・キッチンを通じて、子供の無限の力を信じ思いっきりほめることを学ぶのだという。
中田さんは言う。「わずか二時間の教室は、子供を劇的に成長させ、大人も変えさせる力がある。家庭の乱れた食生活のみならず社会全体をも大きく動かす原動力にもなりうる。その可能性は無限大です」
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