【論説】米大手証券リーマン・ブラザーズの破綻に端を発して、世界経済を崩壊の淵にまで追い込んだ「リーマン・ショック」から10年がたった。世界経済が大混乱に陥る中、日米欧などの中央銀行は大がかりな金融緩和を推し進め、いまや地球規模で景気拡大局面が続くまでに回復した。一方で金融緩和に加え、各国政府による膨大な財政出動がなされ、世界的に積み重なる巨額の債務残高が新たな危機の芽になるとの指摘もある。

 ■劣悪金融商品が引き金■

 私物を入れた段ボール箱を抱え、ニューヨーク中心部の本社を次々に後にする社員―。2008年9月15日以降、テレビで何度も映し出された光景を覚えている人も多いのではないか。

 働いていなくても借りられる住宅ローン。リーマンはそんなまやかしのような金融商品を手掛けていた。住宅バブルの崩壊で不動産価格が値崩れしローンの焦げ付きが急増。公的救済を受けられず破綻に至った。劣悪金融商品は他の金融機関も大量に抱え込んでいたため、金融市場は機能不全に陥り、急速な景気悪化を招いた。全米で約2600万人が職を、約400万世帯が家を失ったとされる。

 影響は世界に及んだ。日本では金融機関の信用不安は回避できたものの、不況の波は株価や輸出産業などを直撃。自動車メーカーなどで期間工や契約社員らの雇い止めが頻発し、「年越し派遣村」が話題を集めたことは記憶に新しい。

 ■リスクはらむ米中■

 しかし、この10年を経て世界経済はバブルの様相だ。米国は公的資金の注入など日本のバブル崩壊時にならい、その後右肩上がりの景気拡大が継続。株価は4倍に跳ね上がり、年4%の経済成長、4%を下回る低失業率などと好況に沸く。

 ただ、リーマン後の製造業の衰退は著しい。そんな中、くしくも「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と表される地域住民の支持を得て誕生したのがトランプ大統領だ。景気拡大基調なのに支持層受けを狙い、大型減税という大盤振る舞いに打って出た。成長が鈍化すれば重い財政赤字になるだろう。

 11月の議会中間選挙に照準を合わせ、米国第一、保護貿易主義をますます加速させている。中国との貿易摩擦は、いまや世界経済のリスクといえる状況にまでなっている。

 片やリーマン直後に4兆元(約60兆円)の景気てこ入れ策を行い、世界経済を救ったともされる中国。世界第2位の経済大国になったが、地方政府などと手を組んだ企業の債務が急拡大しているとの指摘がある。

 ■日銀の対応力に疑問■

 懸念されるのは、世界の政府、企業、家計が247兆2千億ドル(約2京7800兆円)と過去最多の債務残高を抱えていることだ。ひとたび金利が上がれば、返済額も雪だるま式に膨れ上がる。米国の金利上昇でトルコなどの新興国から資金が流出している問題にもつながる。

 金融危機時に下支えする中央銀行の総資産の膨張も問題だ。日米欧の3中央銀行は円換算の合計で10年前の4倍の1600兆円規模に拡大している。大規模な金融緩和で国債などの資産を大量に購入した結果である。

 とりわけ日銀はGDPの548兆円を上回る550兆円に達している。保有資産圧縮という「出口戦略」に時間が掛かれば、危機対応時の緩和策など政策余地を狭めることになる。安倍晋三首相は自民党総裁選の討論会で「出口」に触れたが、日銀に委ねる考えは変えていない。10年ごとに来るとされる危機を想定するなら早急にかじを切るべきではないか。

関連記事