【越山若水】「ホタテ戦争」という妙な争いが英国とフランスの間で起きている。「妙な…」と思うのは、ホタテの語感がかわいらしいから。悲惨な戦争とどうも結びつかない▼事の起こりは8月末、両国の間にあるイギリス海峡で仏側の漁船団が英漁船を取り囲み、岩や発煙弾を投げつけたこと。英側も対抗し、軍の介入も示唆された▼一触即発の一件は、ホタテの漁業権が原因だった。だからといって「戦争」とは大げさだが、英国には「タラ戦争」の過去がある。その記憶を重ねているのだろう▼1958年から76年まで3次にわたる紛争だった。タラの漁業権を巡ってアイスランドと衝突し、英軍艦が相手の沿岸警備隊を砲撃した。一時は国交断絶の寸前にまで緊張した▼奇跡的に死者は出なかったとはいえ、争いに敗れた英国には大打撃だった。北洋漁業の漁師ら多くが職を失い、国民も長く自信喪失の状態に陥ったらしい▼ホタテ戦争は、どうなるだろう。対立を収める協議が両国の漁業関係者の間で行われたが、不調に終わってしまった。火ダネを残したまま今季の漁が続くことになった▼はた目には先に手を出した仏側に同情したくなる。ホタテ資源を守るため禁漁している間、英側は取り放題では怒りたくもなる。両国はかつて何度も戦火を交わした。それに懲りた国同士なので安心してホタテ戦争を話題にしてみた。

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