【論説】「森の中の美術館」として定着したあわら市金津創作の森が今年、開館20周年を迎えている。記念企画として10月8日まで開催中の「やなせたかし-アンパンマンとメルヘンの世界-」展は、現代アートを主軸に据えてきた創作の森としては異色といえる展覧会だ。

 創作の森は約21ヘクタールの広大な里山を生かした施設で、旧金津町時代の1998年にオープンした。2010年に亡くなった現代美術評論家の針生一郎氏が初代館長を務めた。話題作家を意欲的に取り上げ、現代アートに触れられる県内では数少ない場所となっている。

 針生さんは「森はあらゆる芸術の源である」とし、精霊など異質なものがすむ空間への畏怖を込め「そういうところからアートが出てくる」と言った。屋内展示場は大きくはないが、手つかずの自然と溶け込んだロケーションは、都市型の美術館にはまねできない優位さである。

 「アート・ドキュメント」シリーズをはじめ自主企画にこだわり、作家が滞在して制作する展示を行う一方、クラフトマーケット、陶芸教室など一般向け企画も浸透。ただ、写真家の蜷川実花さんの個展を開いた13年度に年間施設利用者が22万人を超えたものの、ここ数年は12万~14万人で推移している。

 公立の施設であり、地域振興の観点は欠かせず、収益性も求められる。運営費が削減傾向の中、築き上げてきた評価を維持、発展させながら、どのような展覧会を企画するかは大きな課題だ。

 20周年の節目に取り上げたのは、パリのルーブル美術館が「第9の芸術」と位置づける漫画。アンパンマンの多彩なキャラクターをモチーフにした絵画作品や、やなせさんの古里を舞台にした絵本の下絵、原画など102点を並べた。「何のために生まれて 何をして生きるのか」。作品に込めた思いや子どもたちへの愛情が感じ取れ、メッセージ性が追求されている。どちらかといえばコアなファンが多かった創作の森に開幕以来、多くの親子連れの姿が見られる。

 創作の森は、目標とする「3年後の施設利用者3万人増」に向け、三つのプランを進行中だ。このうち、23年の北陸新幹線県内開業をにらんだ新しい事業展開としては「芸術祭」の開催を目指しており、寄託を受けている作品をJR芦原温泉駅やあわら温泉などに展開することも視野に入れる。

 地域文化の醸成という社会的意義を考えれば、誘客の観点だけでアートを捉えた場合、そこには美術館の衰退という未来が残る。観光への波及効果などを無視して芸術文化の「殿堂」としてのみ存続することも、厳しい時代だ。「やなせたかし」展に見られるバランス感覚は、今後の在り方に向けた一つの方向性を示したといえるだろう。

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