【越山若水】「千両みかん」という落語がある。大阪・船場の若旦那が重い病気にかかった。実は、紀州のミカンを食べたいが、夏とあって手に入らない。悩みに悩んだ揚げ句、病気になったらしい▼忠義者の番頭がミカン探しを引き受けた。あちこち八百屋を訪ねたがどこにもない。最後にやっと保存している店を見つけた。「一つでも分けてほしい」▼しかしどれも腐っていてまともなミカンは1個だけ。さらに店の主人は「1個千両」と吹っかける。大旦那は「息子の命が助かるのなら安い」と、番頭に購入を命じた▼皮をむくとミカンは10袋。若旦那は7袋を食べたところで、残りは皆で分けてくれと言う。3袋を手にした番頭は「これで300両。一生楽に暮らせる」。船場から雲隠れした▼番頭の行方がどうなったか、落語は語っていない。ただミカン1個に千両を支払う旦那衆。奉公人の身では生涯働いても届かない金額。忠義に背いた行為に情け心も起きる▼同じ雲隠れでも、この男に同情の余地は全くない。拘留中の大阪府警富田林署から逃走した樋田容疑者である。トンズラしてからはや1カ月が過ぎた▼逃走直後はひったくり事件など動きがあったが、今は足取りが途絶えている。警察の監視の緩みも一因とされ、府警OBが最高200万円の私的懸賞金も用意した。雲隠れの身を暴き出す手助けになればと思う。

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