全米オープンテニスの女子シングルス決勝で、セリーナ・ウィリアムズを破って初制覇を果たした大坂なおみ=9月8日、ニューヨーク(共同)

 全米オープンテニス、女子シングルスの決勝。ずっと憧れてきたセリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)と、「アーサー・アッシュ・スタジアム」で戦う大坂なおみの気持ちは、どんなものだっただろう。

 しかし、試合が進むにつれ、様相がおかしなことになった。第2セットに入ってからは主審がセリーナに3度にわたる警告を発し、セリーナは審判に噛みついた。

 憧れの人が冷静さを失っていく姿を、大坂はどのように見ていたのだろうか。

 尋常ではない状況で、それでも大坂は冷静さを失うことなく、自分のプレーに徹した。

 なかでも、サーブの安定性が光り、ベースラインの打ち合いでも優位に立った。大坂は優勝にふさわしいテニスを見せた。

 セリーナの主審に対する抗議が世界で大々的に取り上げられてしまったため、二十歳の大坂のテニスの真価が隠れてしまったことは非常に残念だ。

 私は、荒れた展開になった決勝よりも、準決勝のマディソン・キーズ(アメリカ)戦の方が印象深い。

 この試合、大坂は6―2、6―4で勝利したが、実に13度のブレークポイントをキーズに握られた。

 しかし、まったく動じることなく、時にはセカンドサービスなのにスピードを落とすことなく、センター付近に強烈なサーブをたたき込み、ピンチを脱していた。

 一度など、キーズは「お手上げ」といった様子で苦笑していたほどだ。並みのハートではないし、技術にも驚かされた。

 なぜ、彼女は勝負がかかった場面で動じなくなったのか。それは彼女の「学習能力」の高さにあると思っている。

 昨年行ったインタビューで、大坂は2017年8月にトロントで当時世界ランキング1位だったカロリナ・プリスコバ(チェコ)との試合を振り返った。

 この戦い、小坂は第3セット途中で棄権を余儀なくされたが、この試合を戦うことで、彼女は大きな収穫を得たのだという。

 「お互い、とてもハードにプレーしていました。私は心理的にも集中できていたとは思いますが、プリスコバは試合中ずっと冷静だったんです。それがすごく印象的で。どんな展開になっても、トップまで上り詰める選手は落ち着いているんだな、と分かったんです」

 ネット越しに、プリスコバの佇まいを学び、「落ちつき」の重要性を感じていたのだ。そしてこう付け加えていた。

 「試合中、感情が“揺れる”ことをコントロールできたらと思っています。ミスをした時に視線を落としてしまったり、表情が悲しく見えてしまうことが多くて」

 そういえば、今年の全米オープンでは大坂が悲しく見えるシーンは一度としてなかった。

 この1年で感情の揺れを抑え、冷静にプレーできるようになったことが最大の勝因だろう。

 ブーイングが渦巻くスタジアムで冷静にプレーできたのだから、もう怖いものはないはずだ。

 2019年、少なくともハードコートのシーズンは、大坂が女子テニス界の主役の一人であることは間違いない。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市で生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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