【論説】言いたいことだけを一方的に言う、では具体的な政策が一向に見えてこない。論戦がスタートした自民党総裁選で10日の演説会と共同記者会見を見ていて、そんな印象が拭えなかった。やはり討論会を通じて丁々発止の論争を繰り広げてもらいたい。とりわけ石破茂元幹事長は安倍晋三首相が政権を担った5年8カ月の問題点を指摘し「違い」を明確にすべきだろう。安倍氏は課題を含め自ら総括し、次期3年の政策をより具体的に語る必要がある。

 安倍氏は、経済に関して有効求人倍率の改善など好調さを裏付けるデータを次々に挙げ、実績アピールに余念がなかった。そこには物価上昇2%の未達成や金融機関の疲弊など、負の側面に対する改善策などが何らなかったのは残念というほかない。対する石破氏は実績を認めつつも「それでは働く人たちの所得は上がったのだろうか」と疑問を呈した。ただ、そこから「私がしたいのは経済の再生だ。その核は地方創生だ。地方に雇用と所得を取り戻す」としたのは、いささか唐突すぎないか。

 国民の関心が高い社会保障制度を巡っては、安倍氏が「全ての世代が安心できる制度へと、3年で改革を断行する」と述べたものの、何をどう変えていくかには触れなかった。石破氏は「いかに一人一人の幸せを実現するか」と問題提起したが、その処方箋が「全ての立場の方が参加する一つの会議体をつくる」では拍子抜けの感が否めない。

 憲法改正に関し安倍氏は「憲法にしっかりと日本の平和と独立を守ること、自衛隊を書き込む」として9条改正への決意を表明。秋の臨時国会への党改憲案提出を目指す意向だ。しかし、共同通信社の世論調査では「次期総裁に期待する政策」の上位は「景気や雇用など経済政策」38・6%や「年金、医療、介護」36・6%で、「改憲」はわずか7・4%。石破氏の言うように「国民の理解がないまま国民投票にかけてはいけない」が現状ではないか。

 森友、加計学園問題では石破氏が「政治の過度の介入で官僚が萎縮することがあっては、国民のために働くことにはならない」とくぎを刺す場面もあった。安倍氏は「政治がリーダーシップを発揮することは間違いではない。行政プロセスは適切でなければならない」などと述べたが、文書改ざんなど相次いだ不祥事への直接的な反省の弁は聞こえてこなかった。

 総裁選とはいえ、一国の首相を決める選挙である。国民は政権運営を含め、火花を散らすような論戦を求めている。北海道での地震や安倍氏のロシア訪問で、選挙戦は10日を含め実質6日間。「期間を延長すべき」との声が大きくならないのも今の自民党の姿だろう。安倍氏は党所属国会議員の8割以上を押さえたとされるなど優位にあり、「勝敗が決まっている消化試合」と評する声もある。だが、3選され任期いっぱい務めれば憲政史上最長の首相となる。論争なき総裁選であってはならない。

関連記事