数年に一度、脳内で進路指導室が開設される。ある日突然始まるそれのきっかけは、単純なもので人生に迷ったときだ。今の仕事は大好き。だけど、この道を、この場所で、選び続けて大丈夫かな。そんな漠然とした迷いが生じたときに、つい、他の仕事に目を向けてしまうのだ。ここではないどこかへと胸を焦がしかけるのだ。

 表紙がかわいくてふと手に取った本書は、現役の看護師さんによるイラストエッセーだ。病院という生死に携わる場所での人々との出会いを通して新人看護師の成長を描いている。

 末期の膵臓がんで、故郷の鹿児島に帰りたいとつぶやいていた67歳の女性。自分が判断を誤り、家族が患者の最期に立ち会えなかったと、悲しみを深くしてしまったと自責の念に駆られる医師。仮死状態の新生児に、「予後が悪くなるから無理に蘇生しなくていい」と言われながらも心臓マッサージを続けた同期。そして患者が亡くなることに恐怖を覚える主人公……。

 優しい色合いと豊かな表情で描かれるイラストからは想像できないほどに、描かれていることは決して明るくはない。それでも物語の展開は希望に向かって描かれていて、それは著者が生と死と向き合ってきたことの証だろう。

 物語の最後、ずっと担当をしてきた胃がんの女性を見送る著者。これ以上もう治療はできないという医師の判断により、その日が来ることを待っているような日々が、少しでも穏やかなものになるようにと顔を見に行き、散歩をし、一時帰宅を提案し、病院の大きな窓から景色を眺め、話を聞く著者。

 別れは悲しく、それでも明日が来ること、待っている患者がいることで顔を上げ立ち向かう著者。いや、すごいなぁ……。興味本位で手を取ったものの、その仕事の壮絶さに呆然とした。こんなに頑張る人たちが、日本の医療を支えているんだということを知る機会になった。いやこれね、私なんか絶対できない仕事だわ。メンタルやられて潰れる自分が容易に想像できるわ。と、未来予想図が見えたところで、とりあえずもう少しはどこかではないここと向き合い、いつかじゃない今に集中しようと思いました。進路指導室、閉鎖!

(いろは出版 1200円+税)=アリー・マントワネット

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