【越山若水】作家の曽野綾子さんに言わせれば、人を頭から信じるものではない。最初から信じていなければ、だまされても裏切られても心穏やかでいられる、というのである▼もう一人、ノートルダム清心学園理事長だった故渡辺和子さんは常々、言っていた。「相手を100%信頼しちゃだめよ、98%にしなさい」▼さて、皆さんはこれら二人の言葉をどう受け止めただろう。「人を信じるな」とはなんて冷たい、としらけた向きもあるだろうか。でも、それは早合点である▼二人はともにカトリックを信仰する。その教えの根っこには「人は不完全だから間違うこともある」という人間観がある。どんなに偉い人も、もちろん自分も間違える時がある▼全面的に信頼していると、その間違いが許せない。そこで渡辺さんは98%にする。「あとの2%は相手が間違った時の許しのために取っておく」(「置かれた場所で咲きなさい」)というわけである▼そういう奥行きのある態度をセンセイたちも取れないものか。自民党総裁選で、安倍晋三首相の3選を支持する「誓約書」を各派が出したという▼総裁選後の人事を見越し自分たちをアピールしたい気持ちは、まあ分かる。不思議なのは首相の出身派閥までが出したことである。「仲間を信頼できないというのか」と、不満が漏れたと聞く。権力欲の渦巻く政界とは寒々しい所だ。

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