【越山若水】西部開拓時代のアメリカ。一人の旅人がいきなり男に銃を突きつけられた。カネを出せと脅すわけでもなく、とにかく俺についてこいと言う▼導かれるまま従うと荒野の中の一軒家。「中に入れ」と促された。家の中は暖かい暖炉と料理が調えられていた。「このところ誰にも会ってないんで、食事相手が欲しかったのさ」▼米国でこの逸話を聞いた社会学者の加藤秀俊さんは、アメリカ人がやたらと社交的な理由が分かったという。夢を求めて新大陸に移住したが、彼らはフロンティアの孤独にさいなまれた▼ヨーロッパでは、曲がりなりにも家族や村落の共同体があった。貧しくても声をかける相手がいた。しかし西部の未開地では朝から晩まで一人っきり。いつも隣人欠乏症だった▼そんな社交性も近ごろは急速に衰退したと加藤さん。人口移動が激しく隣人が頻繁に入れ替わる。銃乱射などが相次ぎ、隣人さえ疑う社会になったと「常識人の作法」(講談社)で指摘する▼どうやらトランプ大統領も同じ仲間のようだ。6月に安倍晋三首相と会談したとき「真珠湾攻撃を忘れないぞ」と息巻いたという。通商問題で譲歩を迫るための作戦とみられる▼就任以来、「米国ファースト」をがなり立て世界でも孤立気味のトランプ氏。その孤独感の裏返しだろう、古き良きアメリカ人の社交性と気さくさを失ってしまった。

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