【越山若水】東京で最高の食材を扱う店の自慢のアユだという。頭からかぶりついたら腹が空洞だった。そんな拍子抜けの経験をしたのは、食通で知られた北大路魯山人である▼食べ損ねたわたを皿の下に落としたのかと思った。が、見当たらない。おかしいな、と用心しつつ別の1匹を味わったが、またもわたがない▼「よくよく考えてみれば…」と魯山人は謎解きをしている。一年魚のアユは成長が急。餌がなければ逆にやせるのも早い。脂肪の多いわたが消えるわけだ、と(「鮎(あゆ)ははらわた」)▼和食では旬を何より大事にする。加えて旬の前の走りや後の名残も珍重する。いまの時節、アユが名残だとすれば、走りに当たるのはサンマだろうか。北海道で漁が本格化した▼記録的な不漁だった去年ほど悪くはないらしい。でも、ここ数年の低調な傾向が続く見通しだ。秋が深まり、旬を迎えても「高値の花」とならないか、懐具合がいささか心配だ▼サンマもアユと同じように、わたが肝心だ。ほろ苦さが味にいいアクセントを添えてくれる。そういう魚は栄養もたっぷり。もちろん生きが良い▼人間が例外のはずもなく、昔から「腹」の付く慣用句で人柄が表される。「腹が太い」のは大物で、生け簀(す)のアユのように「腹がない」のは小心者。それから「腹が黒い」のは…永田町に見本が多いらしい。自民党総裁選では、特に。

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