原子力総合防災訓練で大型ヘリに乗り込む住民ら=8月26日午前9時40分ごろ、福井県高浜町音海

 関西電力大飯、高浜原発(福井県)の同時事故を想定した国の原子力総合防災訓練の2日目が8月26日に行われた。両原発の30キロ圏に位置する全1市4町の県民7457人が県内外への避難や屋内退避の訓練に臨んだ。このうち避難訓練には過去最大規模の1534人が参加し、あらかじめ定められた受け入れ先に移動した。

 数十メートル離れた場所の脚立が吹き飛ぶほどの強い風を吹かせながら、陸上自衛隊の大型ヘリ「CH47J」が26日午前9時半ごろ、高浜町音海の関西電力駐車場に降り立った。「原発事故は起こさないのが第一。でも万一の場合はこうなるのか」。近くの住民ら20人は半島脱出の実践的訓練に複雑な思いを抱えつつ、ヘリの爆音と風に耐えながら機内に乗り込んだ。

 今回の訓練は、自衛隊や海上保安庁など実動機関による機動的な住民避難に力点が置かれた。2年前も同様のプログラムが組まれたものの、悪天候で大部分を実施できなかった。今回は無事終了したが、住民の不安は尽きない。

 高浜町の内浦港には音海区の住民ら10人が集まった。音海区から内浦港までは山沿いの一本道しかない。避難開始の約1時間前に内浦港に来た萩原義正さん(80)は「原発事故は起きないと思うが、もし起きたら、港まで来られるのか」と不安を口にした。

 午前10時ごろ、海上自衛隊の多用途支援艦「ひうち」(全長65メートル)が接岸。住民らは隊員の指示で一人ずつ、船に乗り込んでいった。竹鼻隆子さん(88)は「事故が起きてもヘリや船で助けに来てくれると信じている」と自分に言い聞かせるように話した。

 2原発同時事故の際の課題も浮かび上がった。

 内浦半島の5キロ圏の住民は訓練で、午前8時すぎの高浜原発の全面緊急事態宣言を受けて避難を始めた。一方、直線距離で14キロ離れた大飯原発は既に全面緊急事態となっており、内浦半島は屋内退避の区域に入る。ヘリや船に乗る前の午前9時すぎに大飯原発の事故が進展し、放射性物質が大気中に放出されたとの想定では、避難直前に大量の放射性物質を浴びる可能性を否定できない。

 とにかく逃げるのか、それとも屋内退避して放射性物質の拡散が落ち着くのを待つのか―。県の危機管理担当者は「5キロ圏の退避が優先されるため、(マニュアルでは)被ばくを覚悟しても逃げることを優先しなければならない」と語った。

 原発事故が起きても故郷に残りたいとの声も聞かれた。内浦半島に住む40代男性は「逃げた先で生活再建できる気がしない。それならこの場所にとどまる方法はないのか」とこぼす。別の男性も「放射線防護施設があるんだから、そこにとどまるのが一番安全な気がする」と、高台にある旧音海小中を見やった。

 住民の「逃げたくない」という気持ちに行政はどう向き合うのか。現場にいた高浜町職員は「難しい話ですね…」と答えるのがやっとだった。

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