【論説】安倍晋三首相は26日にも自民党総裁選(9月7日告示、20日投開票)への立候補を表明する。鹿児島県で開かれる党支部の会合での表明という。ただ、記者会見などは開かず、具体的な総裁選公約は告示に合わせ発表するともしている。支持派閥は細田、麻生、岸田、二階、石原の5派に及び、国会議員票の8割を押さえたとされる。各派からの地方への働きかけも勢いを増している。

 有利な状況にある中、一騎打ちが濃厚な石破茂元幹事長との論戦は分が悪く避けたい。2012年の総裁選で石破氏に差をつけられた党員票の獲得に向け地方行脚に精を出す―そんな思惑が透ける。しかし、政権党のトップ、内閣総理大臣を決める総裁選の立候補予定者が取るべき態度としてはいかがなものか。3選に向け何を掲げ何を目指すのか、党員ならずとも国民は注視している。活発な論戦こそが求められているのだ。

 首相は「現職がいるのに総裁選に出るというのは、現職に辞めろと迫るのと同じだ」と周囲に語るなど、石破氏の出馬に不快感を示したという。それに呼応するように、陣営からは「二度とチャレンジできないよう石破氏をたたきつぶす」といった声も。自民党は総裁選を自由闊達(かったつ)な議論の場としてきた伝統がある。それをないがしろにする姿勢は「安倍1強」のおごり以外の何物でもない。

 党による遊説日程などは週明けに決定されるが、告示後の10~14日は首相のロシア訪問を考慮し演説会や討論会は行わず、党員投票が19日に締め切られるため、実質的な選挙期間は1週間程度になるとされる。立候補者による公開討論会も大幅に削減される見込みだ。「石破氏と同列に並ぶ必要はない」という首相陣営の発言は看過できない。

 総裁選は安倍政権の5年半を総括する場でもある。石破氏が掲げたキャッチフレーズ「正直、公正」は、森友、加計学園問題に対する首相への疑念を真正面から捉えたものだ。いまだに国民不信は払しょくされないままだ。野党が求めた昭恵夫人や加計孝太郎理事長らの国会招致を「国会がお決めになること」と首相が拒み続けてきたからだ。石破氏は公人トップである首相の政治姿勢を問うているのに、党内からは「個人攻撃」との批判が上がる。1強への迎合としか言いようがない。

 首相はアベノミクスの実績を強調する。確かに大胆な金融緩和や財政出動により円安株高となり、企業業績や雇用は改善、過去最長と言われる景気拡大局面が続いている。一方で、金融機関の収益悪化や財政再建の足踏みなど、負の側面も表面化している。

 首相は次期3年に生かすためにも、批判や異論に耳を傾けるべきだ。秋の臨時国会に9条などの憲法改正案を提出する考えを示しているが、国民の多くが首相の下での改憲に「反対」している。宿願であればこそ丁寧な説明が欠かせない。首相は論戦を避けるべきではない。

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