【越山若水】負けん気や正義感が強くて、違うと思えば簡単には引き下がらない。でも、そこは若狭の女性だから物言いが優しい。いや、そもそも心根の優しい人だったと思う▼「地蔵盆」と題した見事な一文に人柄が表れている。1997年8月29日付の本紙にあった。少女時代の悲しい思い出をつづった随筆である▼あろうことか、夏休み前の小学校で将棋倒し事故が起き、妹が下敷きになった―との衝撃的な書き出しである。その夜、妹は痛みを訴えながら逝ってしまった▼おびえながらオロオロし、一番の宝物だった人形を妹の小さな手に持たせてやった自分。それを見て「ぼくかて」とビー玉を傍らに置いた弟。一家の悲嘆ぶりが丁寧に描かれる▼そして8月23日の地蔵盆。「この子がな、さいの河原で鬼にいじめられんようにな(略)。お地蔵さんが現れて救ってくださるようにな」。そう言って祖母は「地蔵和讃」を唱え「わたし」は泣いた▼文章に出てくる祖母らの言葉が、どれも情け深い。それはつまりそういうふうに記憶した人自身の情け深さを、図らずも表しているのに違いない▼その人、山本久江さんが亡くなった。愛する小浜の郷土史研究にも熱心な女性だった。きょう、嶺南面には地蔵盆の話。山本さんは記事中の西津地区の出だ。生前果たせなかった約束通り、妹さんと一緒に浴衣姿で出かけただろうか。

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