日本―ネパール 後半、攻め込む三笘=チカラン(共同)

 日本における教育のありようと、スポーツはそもそも相いれないものなのかもしれない。なぜなら、試合においては個々の選手がそれぞれに判断を迫られるスポーツにとって、「管理」の思想が底流にある日本の教育はプラスに働かないからだ。

 飼い犬は、鎖を外されて自由を与えられたにもかかわらず、不安や恐怖を逆に覚えてしまうため、自然の中では生きていないといわれる。それを考えれば、管理された範囲内で生きていくことの方が、場合によっては楽と感じることもあるということだろう。日本の社会システムとは、総じてこのようになっているのではないだろうか。

 「プレーヤーズ・ファースト」という概念が、形式的な標語であることの多い日本のスポーツ界。例外も生まれつつあるが、基本は指導者を頂点とするトップダウン方式だ。こういう環境において選手たちは、監督の指示の枠内でプレーを心がけ、手柄を得ることよりもミスをしないことを優先する。自由に行動するということには責任が伴うので、選手たちの成長を促す面もある。ところが、現実は指導者たちによってその機会を奪われている。そういう環境で育った選手たちがやるのが、こういうサッカーなのかなと思った。

 森保一監督がフル代表と五輪代表の指揮を兼任して、初めての試合になったインドネシア・ジャカルタで開催されるアジア大会。2年後の東京五輪を目指すU―21(21歳以下)の年代で編成された日本代表が8月14日にネパールと対戦した。

 オランダ1部・フローニンゲンの堂安律などの海外組を招集外にしただけでなく、Jリーグのチームに所属している選手は各クラブから1人と制限のついたなかでのチーム編成。キャプテンマークを巻いたJ1札幌の三好康児を始めとするJリーグ組は週末のリーグ戦を戦ってから中2日の強行日程だった。それでもネパールとの実力差は格段の違いがあったはずだ。

 先制点を奪うまではよかった。前半7分、右サイドで仕掛けた長沼洋一のクロスボールが相手DFに当たってこぼれたところを、三笘薫が冷静にゴール右隅に流し込んだ。うまいシュートだった。しかし、見どころはここまでだった。

 いつのことからだろう。日本の、特にアンダーカテゴリーのチームは意味のないボール保持に快感を得るようになってしまった。相手の守備陣形の外側で回す横パスやバックパス。それが相手の守備陣形を崩す意味を持つのならいいのだが、はっきりいって何かの意図を持っているようにも見えない。確かにネパールは最終ラインに6人を投入する超守備的布陣をしてきた。だが、それを崩すのがサッカー本来の醍醐味(だいごみ)のはずだ。それなのに、日本の若い選手たちはその状況を楽しもうともしない。

 グラウンダーのパスコースがないのなら浮き球の縦パスを入れればいい。ネパールの選手たちの身長が低いのならば、ヘディングで競り合わせればいい。ところが、ネパールと戦った日本にはそのような発想を持つ選手はいなかった。というよりも近い距離へのパスをつなぐことだけで育ったこの年代には、柴崎岳のようなピッチを俯瞰(ふかん)できる戦術眼を持った選手が存在しないのだろう。

 守備側は、自分たちの予想しなかったことを仕掛けられることで組織にほころびが出る。しかし、日本の選手たちは指示の枠内でプレーを続け、手にしている「自由」を謳歌(おうか)しなかった。ミスすることでチームから外されることを恐れたのだろうか。それを見越していたのは、ネパールの日本人監督だった。J1清水やJ2岐阜で監督を務めた行徳浩二監督は、シュート0本にもかかわらず最後まで守備を固め続けた。なぜなら、6組で構成されるグループリーグを勝ち抜けるためには、(1)各組の上位2チームに入る(2)各組3位の中で上位4チームに入る―必要がある。たとえ、負けても最少失点ならば、ネパールにとっては“成功”といえるのだ。

 現実世界における「ギャンブル依存」は問題だ。ただ、サッカーにおいては可能性のあるギャンブルを仕掛けないことほどつまらないものもない。そして、勝利したとはいえ、わずか1点で満足していたこの日の日本代表の若者達のメンタリティには、正直がっかりさせられた。

 ネパール戦で、「もっと点を取っていればよかった」とならないことを願っている。日本の入るグループDには、今年1月のU―23アジア選手権で準優勝したベトナムが同居する。このベトナムと引き分けた場合、格下のネパール、パキスタンから奪ったゴール数による得失点で順位が決まるからだ。

 もし日本が2位の場合、対戦するのはグループEの1位だ。間違いなく韓国が上がってくるだろう。その韓国は、優勝を全力で狙っている。兵役が免除されるからだ。そのためにU―23のフルメンバーに、アジア最高のスターでフル代表のエースストライカーであるトットナムの孫興民(ソン・フンミン)、ワールドカップ(W杯)ロシア大会でも活躍した大邱のGK趙賢祐(チョ・ヒョヌ)、今シーズンのJ1で9ゴールを挙げ得点王争い5位につけるG大阪の黄義助(ファン・ウイジョ)の3人をオーバーエージで加えた最強チームを組んできた。これに立ち上げたばかりのU―21日本代表が、勝てるとは思えない。

 ジャカルタ・アジア大会における日本の最大の目的は、試合数をこなすこと。つまり、国際大会の経験を積むことだ。韓国戦を避けるためには何が必要か。選手たちは監督の指示に従うだけでなく、主体性を持って自分の意志で行動しなければならない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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