日大三に敗れ引き揚げる折尾愛真ナイン=甲子園

 夏の甲子園、6日目。

 神戸の元町から阪神電車に乗ろうとすると、50代と思われる男性に「特急電車は料金取られますか?」と質問された。

 阪神の特急は大丈夫ですと答えると、丁寧にお辞儀をされた。着ているTシャツを見ると、初出場の折尾愛真(北福岡)の応援に来たようだ。

 電車に乗り、甲子園駅で降りると、折尾愛真の応援の人たちがあちこちにいる。20代の女性たちが球場を遠目に見て、「甲子園……。もう、ヤバい、ヤバい」と泣きそうになっている。

 甲子園の売店でも折尾愛真勢の購買意欲が高い。校名が入った記念品をどんどん買っていく。ものすごい勢いだ。

 試合が始まってからも、アルプススタンドから聞こえてくる声援は女性が主体。今世紀に入ってから男女共学になったそうで、この学校の歴史がうかがえた。

 試合は折尾愛真が1回表に先制したものの、その裏に日大三高(西東京)が7点を取り、ゲームは壊れた。

 終わってみれば、16対3で日大三高の圧勝。ゲーム途中、暑いスタンドを避け、コンコースで涼む人たちも少なくなかった。

 確かに数字だけを見れば、印象には残らない試合である。おそらく、数年後に思い出すこともないだろう。

 しかし、試合前に出会った人たちの甲子園に対する「思い」を見ると、俄然、印象は変わってくる。

 初めて甲子園の土を踏むことで、折尾愛真はどれだけの人をワクワクさせたのだろう。その事実に気づく。

 生徒、卒業生、学校関係者は甲子園に応援に行ったことを一生、自分の子ども、孫たちに語り継いでいくだろう。

 私は、折尾愛真の応援団の姿を見て、甲子園の原風景に立ち会った気がした。

 地元の学校が地方大会を勝ち抜き、晴れ舞台に立つ。それは学校だけでなく、コミュニティーの誇りであり、財産になっていく。

 ゲームは大差がついた。名門校であれば、このスコアで敗れれば監督も非難の矢面に立たされるかもしれない。

 しかし、初めて甲子園に出場するチームにとっては、出場すること自体が奇跡なのである。

 日本のように一度負ければ終わりの「ノックアウト式トーナメント」が主流だと、実力の他にも組み合わせや判定など、自分たちではコントロールできない面での運を引き寄せる必要がある。

 折尾愛真は、第100回の記念大会、福岡県の出場枠が二つに増えたことでチャンスを生かし、甲子園の土を踏んだ。

 大差で負けたものの、それを責める人は少ないだろう。応援団にとってみれば、選手たちは甲子園に連れていってくれた恩人なのだから。

 甲子園は、強豪校ばかりのものではない。ひとつひとつの学校に、物語がある。

  

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市で生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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