【越山若水】昔の日本には一つ目・一本足の妖怪がうようよいたようで、文献に数多く残る。それをばかばかしいと片付けないで、科学の目で捉え直したのが荻野慎諧(おぎのしんかい)さんだ▼例えば「一つ目の髑髏(どくろ)」を記述した江戸期の文書は、頭骨の額に眼(まなこ)の跡がありそれは涙滴形をしていると書いた。荻野さんは推定した。クジラの鼻では、と▼別におかしな話ではない。たとえ山奥の土地でも海だった時代があり、クジラの化石が出るからだ。文書の特徴に合うハクジラ類の化石は、全国で見つかっている▼とはいえ、科学的知識のない昔の人にすれば正体不明。とりあえず一つ目の髑髏として、見たままを書き残したのだろう、と荻野さんは「古生物学者、妖怪を掘る」で考察した▼このように、荒唐無稽に見える妖怪譚(たん)とまともに向き合ったのが荻野さんの真骨頂。往時の記録者は正確さを心掛けていたとの信頼が、そこにはある。文書を信用したのである▼「鵺(ぬえ)の正体はレッサーパンダ」という大胆な仮説も、そのたまものだろう。妖怪話を現代科学の光に照らし、意外な正体を提示して評判になった▼さて、現代の霞が関である。改ざんや隠蔽(いんぺい)、漏えいと、行政文書に関わる不祥事が相次いだ。記録として最も信頼できるものなのに、残念ながら今はとても無理である。官僚ともども、後世に妖怪や怪異扱いされないよう祈っておこう。

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