【論説】沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事が亡くなった。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設阻止を掲げ、反対運動の支柱といえる存在だった。

 沖縄の民意を背に経済界をも巻き込んだ「オール沖縄」で国に立ち向かい、前知事の埋め立て承認を撤回する最終手段に着手しようとした矢先の急逝である。翁長氏の遺志とは何だったのか。沖縄県民とともに、本土のわれわれも思いを致すべきだろう。

 「沖縄は自ら基地を提供したことは一度もない。戦後、普天間飛行場も、それ以外の基地も銃剣とブルドーザーで強制接収された。自ら土地を奪っておきながら、老朽化したとか、世界一危険だから沖縄が負担しろ、(移設が)嫌なら代替案を出せと言われる。こんな理不尽なことはない」

 これは翁長氏が知事当選後の2015年4月に初めて安倍晋三首相と会談した際に発した言葉だ。オバマ米大統領との会談を前に、翁長氏との対立を緩和しておきたい思惑の首相に対し「ノー」を突きつけた。さらに「オバマ大統領に、県民は明確に反対していると伝えてほしい」とまで言い切った。

 自民党県連幹事長を務めるなど、保守の中の保守と評された翁長氏を移設反対に向かわせた一因に、民主党政権下で変転した方針にほんろうされたことがある。普天間飛行場の「最低でも県外」の方針が辺野古移設に回帰した。

 政権が変わり、知事就任4年目を迎えても理不尽な状況は変わらないどころか、辺野古沖に間もなく土砂が投入される局面に追い込まれた。あらゆる手法を尽くしても、裁判ではことごとく退けられてきた。

 皮肉にも、テレビの情報番組は台風やボクシング連盟関連の情報ばかりが目立ち、翁長氏の訃報を十分に伝えていない。本土では「沖縄の話」にしかすぎず、沖縄の苦しみは共有されない。その無関心さが沖縄県民をいらだたせていることを、われわれは自覚したい。

 「国対沖縄」の構図は他の地方自治体でも起こりうる。国の方針に異を唱えれば政府は強硬姿勢で応じる。長期政権となった「安倍1強」の下、そうした傾向をますます強めているかに映る。

 沖縄には在日米軍基地の約7割が集中する。住宅密集地に隣接する普天間飛行場が「世界一危険」だからといって辺野古に移設すれば、その周辺住民が危険にさらされる。「日本の安全保障は国民全体で負担するものだ」と翁長氏が主張したのは、知事として当然である。

 米朝首脳会談に関連して翁長氏は「平和を求める大きな流れから取り残されている」と日本政府の姿勢を批判した。政府は北朝鮮の脅威や中国の軍拡への備えを強調するが、翁長氏が沖縄全戦没者追悼式で訴えたようにまず「アジア地域の発展と平和の実現」に力を注ぐべきだろう。安全保障や地方自治、地域の歴史など多岐にわたった翁長氏の思いを、政府や本土のわれわれこそ熟考すべきだ。

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