【越山若水】ユダヤの民話に「嘘の力」という笑い話がある。お爺さんが聖典を読んでいると、窓の下で遊ぶ子どもたちがうるさくて仕方ない。静かにさせようと窓を開けた▼「おい、お前ら。急いで教会に行ってみろ。海の怪物が来ているぞ」と作り話を披露。「足が五本に目玉が三つ。ヒゲはヤギそっくりで緑色だ」とけしかけた▼思惑通り静かになったが、間もなく大人たちが街路を騒がしく走り抜けた。「知らないのか。教会に海の怪物がいる。足が五本に目が三つ。ヒゲが緑色のヤギだ」▼お爺さんがニンマリ笑っていると、今度は司祭服のラビが駆け抜ける。「ラビも見に行くとはただ事じゃない。火のない所に煙は立たない。何かある」。自ら帽子を取り慌てて家を飛び出したという▼自分の作り話にだまされるとは何ともお粗末。しかし世に「嘘から出たまこと」と言うように、でまかせやフェイクニュースの類いが、いつの間にか本当になることもある▼本紙30面にこんな記事がある。大量の予約注文をドタキャンされたという飲食店の架空ツイートに、批判と同情が殺到し炎上する騒動があったらしい▼ネット社会では正しい情報も根拠のない情報も区別なく拡散する。自分の虚言を信じ込んだお爺さんは論外として、ネットユーザーは情報の選択能力を磨くことが肝心。何でも鵜呑みにする愚行は避けたいところ。

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