【論説】広島はきょう被爆から73年目を迎えた。9日は長崎原爆忌。世界で唯一の被爆国であり、核廃絶の橋渡し役であるべき日本政府に、被爆者からは強い不満の声が上がっている。昨年7月に国連で122カ国・地域の賛成により採択された核兵器禁止条約(核禁条約)に参加するそぶりも見せないからだ。

 自民党総裁選3選を目指し、宿願の憲法改正へと突き進む構えを見せる安倍晋三首相に、被爆者は警戒感を強めている。9条改正に忍び寄る戦争の影を感じているのだろう。安倍政権はそうした思いに真摯(しんし)に向き合わなければならない。

 共同通信社が全国の被爆者に核禁条約について尋ねたアンケートで、条約を「評価する」が80・2%に上り、79歳の女性は「被爆者の訴えが世界の人々の心をうごかした。長年の努力が認められた」と歓迎。矛先は見向きもしようとしない日本政府に向かい「参加すべきだ」も80・8%に達した。「被爆者の長年の活動を無視した行為」「世界に率先して参加すべきだ」と厳しい意見が相次いだ。

 ただ、核禁条約の前途は多難のようだ。50カ国・地域の批准で発効することになるが、批准を終えたのは11(7月上旬時点)にとどまっている。背景には核拡散防止条約(NPT)だけが核軍縮・不拡散の国際枠組みだと主張する核保有国の圧力があるという。米国が経済支援を必要とするアフリカや中南米諸国に批准しないよう要求するなど露骨な締め付けが横行しているとされる。

 一方、米ロ英仏中の核保有を認める代わりに、核軍縮義務を課すNPTも空洞化が避けられない。2015年の再検討会議は最終文書を採択できずに決裂、閉幕した。次期20年の再検討会議でも物別れに終わる可能性が指摘されている。

 背景には、これまで核軍縮・不拡散を主導してきた米国が2月に核戦力を増強する新指針を公表したことが挙げられる。これに対抗するようにロシアが新戦略核兵器の開発成功を表明。世界は、米ロが新たな冷戦にかじを切ったと受け止めた。先の首脳会談でトランプ、プーチン両大統領が核軍縮協議に意欲を見せたというが、本気度は見通せないのが実情だろう。

 被爆者意識を逆なでしたのが、米の新指針に対して日本政府が「抑止力が強化される」と高く評価したことだ。安倍首相は昨年の広島の原爆死没者慰霊式で「核兵器国と非核兵器国双方に働きかけを行う」「NPTが意義あるものとなるよう、積極的に貢献する」と公言したが、口先だけであることは明白だ。

 被爆者の多くが9条改憲案に反対している。理由として最も多かったのが「二度と戦争をしないため」だ。6月の米朝首脳会談で北朝鮮の脅威は減じたが、安倍政権は防衛装備の増強を見直そうとはしていない。唯一の被爆国として、被爆者の願いに寄り添い、平和を受け継ぐ責務を改めて胸に刻まなければならないのは誰なのか。

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