【越山若水】スポーツ取材の現場で、若者がなんの外連(けれん)も計算もなく発した言葉が、澄んだ魅力をたたえているのに出合うことがある。深い印象を残し長く忘れられなくなる▼随分前だが、ある甲子園球児が敗戦後の取材ゾーンで泣きじゃくるところに話しかけたことがあった。どんなふうに悔しいか。そんなありきたりな意図である▼でも、その選手の心情は予想と全然違った。「悔しい、とかはないです。なんか、今、うれしくて…」。普段の振る舞いはクールだった彼が、タオルで顔を覆った▼彼は3年生だった。高校最後の大会で、チームは力を出し切った戦いを続けていた。その日臨んだ準々決勝も、強豪校相手に自分たちの野球をやり切った▼1試合、1大会のことというより、野球をやってきた自分への手応えがあふれてきていたのだろうか。負けはしたけれど「うれしい」と泣く若者の気持ちがすとんと納得できた▼甲子園大会がきょう開幕を迎える。インターハイも連日、熱戦が続いている。10代の若者たちが、何かに打ち込んだ証しを刻み込もうとしている▼敦賀気比高ナインの壮行会で生徒代表が語りかけていた。「一戦必勝で、生き生きと戦ってきてください」。野球に限らず、いろんな大会に出向く若者に「生き生きと」の言葉が伝われば、と思う。この夏、みんなが心地よい感情に巡り合うことを願いたい。

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