【論説】日銀の物価上昇シナリオが狂い続けている。31日の金融政策決定会合後に公表した展望リポートでは、2018年度の物価上昇率見通しを4月時点の1・3%から1・1%に引き下げた。大規模金融緩和が引き続き維持され、市場関係者にはとりあえず安堵(あんど)感が広がったものの、上昇率2%の目標設定は妥当なのか、緩和が長期化するほど疑問は膨らんでいく。日銀緩和は正念場を迎えている。

 物価は景気回復局面で上昇するとされる。デフレ脱却を最重要課題とする日銀の黒田東彦総裁は、「2年程度で上昇率2%達成」を掲げ13年に大規模緩和を開始。しかし、世に出回るお金の量を急激に増やす手法が物価には思うような効果を上げず、16年にマイナス金利政策にかじを切った。

 ただ、この政策は、地方銀行の収益を直撃する。大量の国債買い入れも、国債市場の機能をゆがめるとの批判が以前からつきまとっていた。

 今回の政策決定会合はこれらの「副作用」に配慮するため、長期金利の一定幅の上昇(0・2%程度)を容認。国債買い入れも「弾力的に」行うとし、上場投資信託(ETF)の購入配分も見直した。金利上昇容認が金融引き締めに当たるとの誤解を避けるため「フォワードガイダンス」と呼ばれる指針を取り入れ、超低金利を当分、維持していく姿勢も明確にした。

 こうした部分的修正は、副作用軽減に効果があると受け止められている。一方で、緩和策が一層長期化することにあらかじめ備えたものということもできる。

 展望リポートは、物価がなかなか上昇しない理由を▽賃金上昇に時間を要している▽家計の見方が値上げに慎重▽企業の価格設定が慎重▽競争環境が激化―の四つに整理した。背景に、長期間のデフレ経験などから「賃金や物価が上がりにくい」ことを前提にした考え方、慣行が染みついていると指摘する。18年度経済財政白書が、景気回復は「戦後最長に迫る」と評価する中でも、デフレマインドが取り除けていないのだ。

 さらにリポートは、値上げによる顧客離れを警戒する企業が省力化投資やビジネスプロセス見直しなど、コスト吸収に取り組んでいるとし、それをデジタル技術の進歩が可能にしていると言及。また、技術進歩による競争激化が「幅広い分野で継続的に発生」しているとも書き込んだ。

 こうした分析は、従来の常識では説明しづらい新たなメカニズムが、物価情勢の大きな要因になっていることを示すものだ。しかしながらリポートは、解決策を提示できていない。語られているのは、現状の緩和策の継続が徐々に物価を押し上げていく、といった楽観的な見通しである。そういったアナウンスで、果たしてデフレマインド解消を導けるのだろうか。

 いつまでたっても先の見えない「長期戦」は、限界が近づいている。2%目標は、位置付けの再検討が迫られているのではないか。

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