【論説】沖縄・米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、翁長雄志(おながたけし)知事が前知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回する意向を表明し、弁明を聞くための聴聞を行うと防衛省沖縄防衛局に通知した。8月17日にも辺野古沖で土砂を投入するとの政府の通知を受け、投入されれば原状回復が不可能になるため、土砂投入の前に撤回を正式決定する方針という。

 翁長氏は、前知事の承認には法的な瑕疵(かし)があるとして2015年に取り消しの処分を行ったが、最高裁で敗訴した経緯がある。今回の撤回は「最終カード」を切る意味合いもある。政府は取り消し訴訟など法的措置で対抗し、工事を進める構えだが、ここまでこじれさせたのは政府のこうした強引な手法のなせる業ではないか。聴聞では県民、国民が納得できる説明を尽くすなど、民意に誠実に向き合うべきだ。

 辺野古への移設に反対する翁長氏は、14年の知事選で「あらゆる方法を駆使して新基地を造らせない」との公約を掲げ、移設推進の前知事らを破り初当選した。15年の取り消し、17年には工事差し止めを求め提訴するなど「方法を駆使」してきたが、裁判ではことごとく退けられてきた。

 さらに、安倍晋三首相が繰り返し強調してきた「沖縄の方々に寄り添う」とは裏腹に、政権や与党は翁長氏が掲げてきた「オール沖縄」の分断を加速。名護、石垣、沖縄の3市長選では与党系候補を当選させた。特に辺野古移設を最大争点とした名護市長選では地元振興への交付金をちらつかせ、業界団体への締め付けを図るなど露骨な「アメとムチ」を繰り広げた。

 国の強硬姿勢に翁長氏が追い込まれているのも事実だろう。自民党県連などは11月の県知事選に向け宜野湾(ぎのわん)市の佐喜真淳(さきまあつし)市長に立候補を要請し、受諾する意向を取り付けている。一方の翁長氏は4月に膵(すい)がんの切除手術を受けたばかりで、再選出馬への態度も明らかにできていない。

 そうした中での辺野古移設承認の撤回は、背水の陣の一手といえる。サンゴなどの環境保全対策が不十分で、承認の条件となる留意事項に違反して工事を強行したと指摘。沖縄防衛局の地質調査で辺野古の地盤が極めて軟弱であると判明したことも問題視している。

 翁長氏は東アジアの安全保障環境の変化も強調している。6月の米朝首脳会談を挙げ、20年以上も前に決定された辺野古移設は「到底容認できない」と述べている。政府は中国の軍備拡張を示唆するが、それが沖縄に在日米軍基地の約7割を集中させる根拠たりえるのか。相次ぐ米軍機の事故・トラブルでも政府の対応が手ぬるいことを沖縄県民はひしひしと感じている。

 辺野古移設の是非を問う県民投票条例を求める市民グループの署名活動は必要数を大きく上回った。「県民の声を聞け」という強い思いの表れだろう。地域の声に真摯(しんし)に耳を傾ける姿勢こそ政府に求められていることを肝に銘じるべきだ。

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