フィッシュパスのサービスを話し合う(左から)竹田川漁協の廣瀬哲夫組合長、西村成弘さん、大嶋信慈さん=福井県坂井市丸岡町

 古里の山村を活性化しようと、福井県立大大学院で経営学を学ぶ男性がアユやヤマメ、イワナの川釣りを切り口にした地域ビジネスを起業する。「フィッシュパス」と銘打ち、スマートフォンやタブレット端末用のアプリによる遊漁券のオンライン販売を軸に、地域の誘客・収入増と環境保全の両立を目指す。同県坂井市丸岡町竹田地区の竹田川上流で、地元漁協や釣りの専門家と連携し、3月から本格開始する。

 男性は、竹田地区出身の西村成弘さん(41)=福井市。河川の遊漁券は近隣の釣具店や地元商店などで扱っている。川の状態を確認してから買うかどうかを決める釣り人は、明け方など店が閉まっている時は買えない場合があった。西村さんは「初心者は遊漁券をどこで売っているかや、川のどこでどう釣ればいいかの情報が得にくい。川釣りの敷居を下げてファンを増やしたい」と話す。

 フィッシュパスは、遊漁券を電子化して24時間販売する。専用サイトで最新の釣果を発信し、安全な釣り場、トイレ、駐車場などの情報も提供する。漁協にとっては新たな顧客の開拓や未購入者の抑制で売り上げ増が期待できる。収益が改善すれば、稚魚の放流、河川の清掃、獣害対策といった活動に資金を充てられる。釣り人を周辺の宿泊施設、飲食店、土産物店に誘導するなどして地域の活性化にもつなげる。

 また、電子遊漁券と衛星利用測位システム(GPS)を連動させる仕組みを開発し、特許を出願した。漁協側の端末で利用者がどの場所で釣りをしているかを確認できる。巡回中に未購入者を見つけやすくなるほか、急な増水時の安否確認などでも活用できるという。

 位置確認システムは環境面でもメリットがある。河川内をいくつかの区域に分け、それぞれに受け入れ可能な人数を設け、釣り禁止、釣れた魚を川に戻す「キャッチ・アンド・リリース」専用などの区域も設定する。年度ごとに設定を変えることで、川や魚への影響を抑えられるという。

 遊漁券のオンライン販売の手数料は、ほぼ全額を漁協や既存の販売店に還元する考えで、釣り関連の県内外のメーカーや販売店からの広告収入、保険や旅行といった他業種との提携などで全体の採算を見込む。

 福井市などが行っている「福井発! ビジネスプランコンテスト」で2015年度にグランプリを獲得し、市の新事業創出支援事業にも認定された。20日ごろに釣り愛好家を対象に一部開始し、3月から一般向けに全面展開する予定。

 西村さんは「事業を進めながら多くの人の助言を得て、サービス内容を充実させる。竹田川を足掛かりに県内の河川での導入を目指し、釣り人と地域をつなぎ、川を守る福井発のモデルとして全国に広げたい」と意気込んでいる。

 ◎地元漁協、専門家も期待

 西村さんは幼いころに祖父と一緒に竹田川で釣りを楽しんだ。アユやヤマメ、イワナが面白いように釣れた記憶は鮮明だ。だが、近年は人の手が入らずに荒れた山から土砂が入り込み、川底が浅くなるなどの問題が出ている。竹田地区の住民らでつくる竹田川漁協の廣瀬哲夫組合長(67)も「だんだん魚の育ちが悪くなっているようだ」と語る。

 同漁協はアユなどを毎年放流したり、岸辺に茂るヨシを刈ったりして、川を守っている。約100人の組合員の平均年齢は70歳を超え、作業や巡回の負担は年々増している。レジャーが多様化して川釣りを楽しむ人も減り、遊漁券の売り上げは最盛期の3分の2程度に落ち込んでいる。

 廣瀬組合長は「環境のために投資したいが、漁協の財政は厳しい。このままでは新たな釣り客を呼び込むのは難しく、(フィッシュパスで)打開したい」と期待する。

 ハンドメードルアーの製作・販売で関東を中心に多くの顧客を持つ大嶋信慈さん(49)=坂井市=は、竹田川に約30年通い、自分の顧客も案内している。フィッシュパスが釣り人に使いやすいよう助言しているほか、愛好家への情報発信や釣り教室の講師などでも協力する。

 大嶋さんは「釣り人が地域の経済に貢献し、住民といい関係を築ければ、釣り場や魚を守ることができる。その恩恵は釣り人に返ってくる」と強調した。

関連記事
あわせて読みたい