フリーゲージトレインの車輪幅変換のイメージ

公開されたフリーゲージトレインの検証試験。車輪幅が切り替わる軌間変換装置を通過するフリーゲージトレインの車両=2018年3月、熊本県八代市試験

 九州新幹線長崎ルート(博多-長崎)で導入を検討し実験を進めていたフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)について、与党検討委員会は7月19日、長崎ルートでの導入を断念することを決めた。FGTは九州に続いて北陸でも導入を期待されていたが、九州の先行導入の断念で北陸新幹線もほぼ絶望的になった。FGTは新幹線の標準軌と在来線の狭軌、線路幅が違う鉄道網が張り巡らされた日本の鉄道事情に革新をもたらす夢の電車と期待されているがJRでは日の目を見ないままかもしれない。北陸新幹線利用者にとっては2023年金沢-敦賀が延長開業すると大阪や名古屋から北陸への直行特急がなくなりかえって不便を強いられそうだ。1964年の東京五輪前の東海道新幹線開業で日本に高速革命をもたらした新幹線。それが2020年の東京五輪開催前に次なる高速革命と期待されたFGTの夢がしぼんでいこうとしている。(M)

 旧国鉄が敷設した日本の在来線鉄道は線路幅1067ミリ(狭軌)で運営されてきた。しかし時速200キロを超える高速鉄道に対応できないため新幹線では世界的に標準だった1435ミリが採用された。

 標準軌(広軌)と狭軌を結んで電車を直通運転するためにはレールの幅を変えて対応するか、両方を走れる電車を開発するかのどちらかとなる。「ミニ新幹線」と呼ばれるレール幅を変える方式で対応したのが東北新幹線の枝線となる山形新幹線と秋田新幹線。両線は在来線の奥羽本線のレール幅を新幹線に合わせて広げ、山形に向かう「つばさ」と秋田に向かう「こまち」を走らせた。開通前は奥羽本線の運行を一時停止し線路幅を広げたが、駅や踏切はそのまま残っている。在来線の電車も標準軌対応の車両を導入した。

 もう一つは電車自体にレール幅に合わせて車輪の幅を変え、ひとつの車両で走り抜けるFGTだ。大きな建設工事は必要なくミニ新幹線より安くすむ。世界的にはフランス、スペイン間など導入例がある。日本国内でも新幹線の直通運転を実現させるため四国各県や、和歌山県、新潟・山形県などが注目してきた。和歌山県は2016年に同県のサイトに「和歌山県にフリーゲージトレインの早期導入を」というページを開設し必要性を訴えてきた。新潟県の泉田元知事も2015年にFGTを活用した日本海高速鉄道網整備を求めた。

 北陸新幹線敦賀開業で不便な乗り換え

 FGTが国内で乗客を乗せて初運転するか熱い視線が注がれてきたのが九州新幹線長崎ルートだ。

 九州新幹線は既に開業している博多-鹿児島に加え博多-長崎間の長崎ルートの建設も進んでいる。佐賀県鳥栖市の新鳥栖駅で本線と別れ、佐賀、長崎へ向かう。問題をややこしくしているのが長崎ルートについて佐賀県と長崎の考え方が違うことだ。終着点の長崎県はフル規格(標準軌)での導入を望んでいるのに対し既に県内の一部に新幹線が通っている途中の佐賀県は建設費の負担が高くなることを嫌い在来線の活用を求めた。

 そこでFGTに期待がかけられた。標準軌幅の長崎県内、佐賀県に入ると在来線の長崎本線の狭軌幅、新鳥栖からは広軌幅の本線で博多へ向かい山陽新幹線で新大阪へと向かう。ミニ新幹線のようにレール幅は変えないので従来の車両もそのまま走れる。

 FGTの車両は走行中、車輪の幅が変わらないようロックされている。狭軌と標準軌のつなぎ目に設けられた軌間変換装置区間を通過するとき走ってきたレールが沈み、別な車体支持レールで車体を支える。車輪のロックが外れてガイドレールを通り車幅が変わる仕組み。JR九州などは熊本県八代市で実験を進めてきた。標準軌と狭軌、36.8センチの幅の変換を繰り返すことで台車の車軸が摩耗するなどの問題があり開発研究が予定より遅れていた。

 ただ車軸の摩耗問題は3月27日に国交省が「対策に一定のめどがついた」と述べていた。しかし共同運行するJR西日本側が山陽新幹線で高速運転を望んだのに対して与党委は「新大阪まで直通することを前提として整備が進められてきた。FGTは最高速度が270キロにとどまり、高速化の進む山陽新幹線への乗り入れは困難」と断念の理由を説明した。JR九州は「FGTは特殊な車両でコスト高く、収支採算性がなりたつが難しい」とも述べるなど、高速のFGTには壁が大きかったようだ。

 FGTは長崎新幹線にはまさにおあつらえ向きの車両だったが、残念ながら九州では日の目を見ることはなさそうだ。FGTの断念で長崎新幹線は佐賀県内はフル規格かミニ新幹線かで建設を進めなければならないが、負担が大きく増える佐賀県は「フル規格は受け入れられない」と強い難色を示している。

 九州での導入断念は新幹線延長の夢をFGTに託していた地域への影響は大きい。中でも九州に続いて導入を真剣に考えていた北陸新幹線は大阪への直通運転が遠のいた。北陸新幹線が敦賀まで延長されると、福井や金沢からこれまで乗り換えなしでいけた京都、大阪は敦賀で乗り換えが必要になる上、新幹線の料金も必要で値上げとなる。

(【Dのコラム】「北陸新幹線敦賀開業で不便な乗り換え」はD刊で掲載しています)

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