福井県内河川に放流される渓流魚の大部分を育ててきた養魚場=福井県池田町大本

 福井県内河川に放流されるイワナやヤマメの大部分を育ててきた福井県池田町大本の養魚場が、足羽川ダム建設で移転対象になり、今春で事業に区切りをつける。2004年の福井豪雨で大きな被害を受けながらも、県内の渓流釣りを45年余り支えてきた。町外に移り住む経営者の中村勝志さん(74)は「魚は大丈夫かといつも頭を離れない毎日だった。さみしいが仕方ない」と名残を惜しんでいる。

 谷間に並んだ大小約20の池に透き通った水が流れ込む。中村さんは、ダムサイトになる部子川の支流の水を使った養魚場を1971年に始め、イワナ、ヤマメ、ニジマスを年間計10万匹以上ほぼ1人で育ててきた。独学で技術を身に付け、採卵、授精、ふ化から手掛ける。

 冬には雪が1メートル近く積もる。仕事は明け方の雪かきから始まり、魚の様子をつぶさに見ながら1時間以上かけて餌を与える。流れてきた木の枝や葉が詰まっていないか、見回りは欠かせない。「年中休みなし」。ぼやきながらも目は笑っている。

 清流の水をそのまま使う環境で育った中村さんの魚はたくましいと評判だ。半面、自然に近いからこそ、その脅威と常に向き合ってきた。

 福井豪雨時は周辺から土砂が押し寄せ、中村さんの目の前で全ての池を埋め尽くした。魚はほぼ全滅し、作業場も床上30センチまで水につかった。「何もできず、ただ見ているしかなかった。廃業もやむを得ないと考えた」。大勢のボランティアが土砂をかき出す姿に奮い立ち再起。13、14年にも台風の被害を受けたが、そのたびに釣り人や漁協、行政の後押しを受けた。

 「魚が思い通りに大きくなれば面白いし、(放流で)県内のいろいろな場所に行けるのも楽しみだった」と振り返る。県内の渓流の変わりようも感じてきた。「(護岸や川底を)コンクリートで3面張りした川に放流を依頼される時もあるが、『ちゃんと育つのか』と心配になる」

 約20軒あった大本の集落に住み続けているのは中村さん一家だけになった。「ダムの計画がなければ、養魚場をもう少し続けていた。自分は(ダムに)賛成しなかったが…」。後の言葉はのみ込んだ。

 県内水面漁連によると、ヤマメの今年の放流分は中村さんの養魚場に残っている魚などでまかなう見通しが立っている。イワナは県外産を一部入れなければならない可能性があるという。来年以降は、県内他施設で増産する予定。担当者は「長く協力してもらい影響は大きいが、県内産による放流が保てるように対応したい」と強調した。

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