「注文をまちがえる料理店」でエプロン姿で接客する認知症の高齢者=5月、静岡県御殿場市の「とらや工房」

 来店者は皆、全ての間違いや失敗を受け入れ、温かく見守った。張り切りすぎて次々とお茶のお代わりを運んでくるおばあちゃんにも、笑顔で「ありがとうね」。ちゃめっ気たっぷりのお年寄りと触れ合えるのを、むしろ楽しもうとしていた。

 「久しぶりに働くのは楽しいね」。接客の事前練習を3回したことを覚えていないという元大工の男性(83)は、しわくちゃな笑顔を見せ、場を和ませた。1歳の長男と来店した神奈川県の女性(38)は「子どもが手を握られてにこにこしていた。認知症の人のイメージが変わった」と話した。

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 実行委員長で介護事業者取締役の和田行男さん(62)は「お年寄りは閉じ込められ、社会との接点をなくしてしまいがち。周りがバリアーをつくってしまっている」と訴える。認知症の人であっても、周囲から受け入れられ、理解されさえすれば、十分に社会生活ができる。イベントは、それを証明していた。

 エプロンを脱ぎ、普段着に戻ったおばあちゃん。ジャンパーの胸には、行方不明にならないように連絡先が書かれた名札が張られていた。働いた記憶も、翌日にはなくなるかもしれない。でも、「楽しかった気持ちは残るはず」と和田さん。最後に謝礼金が手渡されると、おばあちゃんは「もらえるほど働いてないよ」と愛くるしく冗談を飛ばした。

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